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衣織の物語  作者:
89/89

衣織の物語87「synchronicity(シンクロ)」20

 アオイのボロボロな様子に驚いたユウは、アオイの体を支える。

ユウ  どうしたんだ、アオイ。何かあったのか?

アオイ いや、なんでもない。

ユウ  アオイ。アオイは何か隠してるだろう。

アオイ ……。

ユウ  何を隠してるんだ? 言えよ!(アオイを揺さぶる) 何か知ってるんだろう! 言え! 僕らは仲間じゃないか。頼む、アオイ。頼むよ、アオイ。

アオイ ……わかった……手を離してくれ。

ユウ  (つかんでいた手を離す)

アオイ 僕たちは、人を愛することも、愛されることもできない、いつまでも大人になれない、存在なんだ。そうしてここは、この世から見放された場所だ。高線量のガレキ、ふるさとへの郷愁、そして僕ら……この世のすべてから捨てられたものたちが集まる場所ってことさ。

ユウも、うすうす勘付いていただろう? 僕たちの居場所は、あの石の棺の隣しかなかった。僕たちは隔離され、実験室のモルモットのように観察されていた。放射線の耐性を持つ僕たち……そんな僕たちは、今、皮肉なことに、人類の期待を一身に背負う存在になった。あんなに嫌われ、いじめられ、他人に近付くことさえ許されなかった僕らがだよ。

(「シンクロ」より)




部長「アオイ体がボロボロなのは、このすぐ後に出てくる通り、彼女はたった一人の力で、暴走寸前の原発に立ち向かおうとしたからだ。そのあたりの事情を知らないユウが、とてもおどろくシーンから始めよう」

全員「ハイ!」

 副部長さんが、体の力を抜いた。私は慌てて寄り添い、副部長さんの身体を支えた。


私「どうしたんだ、アオイ。何かあったのか?」

副部長「いや、なんでもない」

私「アオイ! アオイは何か隠してるだろう!?」

副部長さんは、やや顔をそむけた。

私「何を隠してるんだ? アオイ! 言えよ! 何か知ってるんだろう! 言え! 仲間じゃないか。頼む、アオイ。頼むよ、アオイ!」

 そう言いながら、私は副部長さんを思いっきり揺さぶった。力を完全に近い形で抜いている副部長さんの体は、私の揺さぶりによって前後に激しく揺れた。芯があるようでか細い体。その時私はなぜか、相手がアオイではなくて、副部長さんそのもののように感じていた。副部長さんにも何かがある。でも誰にもそれを打ち明けることができないでいる。そんな気がした。

副部長「……わかった……ユウ。手を離してくれ」

 私は副部長さんをつかんでいた手をゆっくりと離した。次は副部長さんの長台詞だ。間近にそれを見ることができる楽しみを心の奥に隠しながら、私は副部長さんの様子をうかがった。


副部長「人を愛することも、愛されることもできない、いつまでも大人になれない、それが僕たちだ。そうしてここは、この世から見放された場所。高線量のガレキ、ふるさとへの郷愁、そして僕ら……この世のすべてから捨てられたものたちが集まる場所だ……ユウも、うすうす勘付いていただろう? 僕たちの居場所は、あの石の棺の隣しかなかった。僕たちは隔離され、実験室のモルモットのように観察されていた……放射線の耐性を持つ僕たち……そんな僕たちは、今、皮肉なことに、人類の期待を一身に背負う存在になった。あんなに嫌われ、いじめられ、他人に近付くことさえ許されなかった僕らがだよ……」

部長「このあたりで区切ろう」

全員「ハイ!」


副部長「ここはとてもつらいセリフで、いつも悲しくなる」

遠藤「俺もそう」

 大切な場面なので、私は先輩方に確認しようと思った。

私「ここに出てくる事柄のすべての原因は、放射線を大量に浴びてしまったからという理解で大丈夫ですか? 以前、母親の体の中で胎児が、放射線を浴びてしまうというシーンがありました」

部長「そうだね。そういう理解でいいと思う」

遠藤「『人を愛することも、愛されることもできない』というのは、体の中に蓄積された放射線によって、他者から隔絶されているということだ。実際には、そういうことはないのだろうけど」

影山「『いつまでも大人になれない』という原因も、同じだ」

副部長「アオイとユウは、この世から見放された、高線量のガレキに埋もれた場所にいさせられている。そこは、ふるさとであるはずなのに、しかしまったく別の世界になってしまった。だから郷愁は無意味だ。『この世のすべてから捨てられたものたちが集まる場所』という部分が特に心に痛い。頼る者もいない、頼る手段も持たない、他者と社会から完全に隔絶された場所……いまふたりは、互いを頼るしかない状況にある」

部長「彼女たちの居場所は、石の棺で囲われた原発の隣しかなかった。ふたりは何者かによって社会から隔絶され、まさに実験室のモルモットのように観察されていた。それは、ふたりだけが持つ放射線への耐性ゆえだ」

副部長「『ニュータイプ』であるふたりは、本当に皮肉なことなんだけど、『人類の期待を一身に背負う存在』になっている。再び暴走を始めた原発に直接立ち入り、それを止める役を果たすことができるかもしれないからだ。まったく荒唐無稽な設定だけど」

遠藤「でも、そうでもしなければ、現実に今、溶融した燃料デブリを取り出すことさえできていない」

部長「『放射能』と揶揄された友人がいる。それなのにいま、原発の後処理や除染を行っているのは、結局被災者である我々だ」

副部長「真っ先に犠牲になるのは、女性や子供などの弱い立場のものたち」

先生「私が津島に避難した時、そこには何人かの赤ちゃんがいた。その後、津島には高線量の放射線が降り注いだ。あの子たちはどうなっただろう……」


 先生は、深い悲しみと苦しみの表情を浮かべていた。浪江町の北西に位置する津島は、そのほとんどが今でも帰還困難区域のままだ。






#小説

#高校生

#東日本大震災

#演劇部





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