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衣織の物語  作者:
85/89

衣織の物語83「synchronicity(シンクロ)」16

地鳴りの音。アオイ、おびえながら下手へ退場。


五場


青暗転。アオイ、ユウ走って登場し、それぞれのスポットライトの下に立つ。アオイはかなり弱った様子。

地鳴りの音、やや小さくなる。


ユウ  あの日、防災無線が繰り返し聞こえてきた。

アオイ 『総理大臣から、避難命令が出されました。至急避難してください。繰り返します。至急避難してください。』

ユウ  僕たちは、役所が用意したバスに乗り込んだ。細い山道のひどい渋滞はバスを前へ進ませない。

アオイ 放射性物質が後ろから襲ってくる。防塵マスクとタイベックスを着た人を乗せた緊急車両が、反対車線を走る。

ユウ  海岸の漁港は津波につぶされ、家も橋も電柱も、すべてが波にさらわれた。

アオイ がれきの下から助けを求めるうめき声が聞こえてくる。

ユウ  大きな余震は、一晩中避難所を揺らし続け、そのたびに人々は天井を見上げる。


地鳴りの音、大きくなる。二人は、耳を両手でふさぐ。地鳴りの音、やや小さくなる。(「シンクロ」より)



 影山先輩が準備した地鳴りの音が、教室に響いた。雨の日は校舎の外れの教室を借りることになっている。ここならば大きな声での発声も可能だ。人里離れた場所での部活動は、演劇部の悲哀をいやます。しょせん日陰の身。変わり者たちの奇天烈な部活動という評判が、どの高校の演劇部員もその身に負っているだろう。クラスメートからの視線も、「ちょっと変な奴」という評価を受けつつあるのが感じられ、癪に障る。こんなに穏やかでウイットに富む私。友人のひとりとしてどーですか? ヒマな時には面白い相手です。


 そんなどーでもいーことは脇に置き、私は教室の端に寄せられた机の陰から登場した。副部長さんも、反対側から登場した。


部長「五場」

遠藤「アオイ、ユウ走って登場し、それぞれのスポットライトの下に立つ。アオイはかなり弱った様子」


 影山先輩はラジカセの地鳴りの音のボリュームを絞った。少ない予算から捻出し、一昨年にやっと購入した大事なラジカセということだった。今どき取っ手とカセットテープ機能が付いてる「ラジカセ」。取っ手由来の持ち運びの良さが、演劇部には好評だ。しかしカセットテープなるものは見たことがない。

 いや、違う。先日の「大掃除」という発掘作業により、うず高く盛られた古びた台本やら異臭を放つポテチの袋やらなにやらの下から現れたもの。それが「カセットテープ」だった。かわいい、扱いの手軽そうな形状。でも、テープが見える小さな窓にはカビがひしめいていた。触れることだに汚らわしい。貴族の私が扱うには、とても手にあまる代物だった。ので、台本の端でつついて、向こうの方に寄せておいた。マスクや軍手を貫く悪臭や不気味な手触り。

 部室について語り出すと止まらなくなるので、今日はここまでとしよう。


 なぜなら、今日はとても大事な場面。私は改めて気を引き締め、やや上方を見つめた。


私「あの日、防災無線が繰り返し聞こえてきた」

副部長「総理大臣から、避難命令が出されました! 至急避難してください! 繰り返します・至急避難してください!」

私「僕たちは、役所が用意したバスに乗り込んだ。ひどい渋滞はバスを前へ進ませない」

副部長「放射性物質が後ろから襲ってくる。防塵マスクとタイベックスを着た人を乗せた緊急車両が、反対車線を走る」

部長「カット」


 私は体の緊張を解いた。副部長さんも、一つ息をついた。


遠藤「このシーンは、なかなかしんどいよね」

副部長「精神的にしんどい」

顧問「そーだよな。でもガンバッテ」


 今日は、珍しく顧問の先生が来てくれている。先生は、私と副部長さんをそれぞれ眺め、優しく微笑んでいる。視線で私たちを包もうとしているのがわかる。ふだんは捉えどころのない人なのだけれど、心根のあたたかさがある人だ。副部長さんも私に視線を送り、私の状況を確認してくれていた。

先生が話しだした。


先生「この場面は、私が実際に体験したことがそのまま描かれている。だからそれをちょっと説明するね」


#小説

#高校生

#東日本大震災

#演劇部





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