衣織の物語82「synchronicity(シンクロ)」15
ユウ ここはとても退屈だ。
アオイ 仕方がない。僕らは、外の世界とつながることを禁じられている。でも、僕は、ユウのことを心配してる。ユウを本気で思っている仲間が、すぐそばにいるじゃないか。そうだろう?
ユウ 僕はアオイが嫌いだ。
アオイ なぜ? いつも命令ばかりしているから?
ユウ (首を振り)アオイには何かある……何かを隠している……僕は怖いんだ。
アオイ 何も恐れることはないよ。ぼくがそばにいるから……心配は要らない……
照明切り替わる。アオイ、下手の照明の下に進み出て、スマホで話し始める。ユウは上手へ退場。
アオイ はい。データは徐々に蓄積されつつあります。ユウの行動パターンや身体組成の分析も続けています……あともう少しで石の棺にアタックすることも可能になるでしょう……石棺の点滅が早くなっています。急がなければなりません……はい……はい。わかりました。
地鳴りの音。アオイ、おびえながら下手へ退場。
それとともに青暗転。(「シンクロ」より)
部長「続けていける?」
私「ハイ。私は大丈夫です」
副部長「私もです」
部長「じゃあ、続きを行こう」
みんな「ハイ!」
私「ここはとても退屈だ」(周囲を見回す)
副部長「仕方がない。僕らは、外の世界とつながることを禁じられている。でも、僕は、ユウのことを心配してる。ユウを本気で思ってる仲間が、すぐそばにいるじゃないか。そうだろう?」
副部長さんはホントに私に良くしてくれてる。それとこのセリフが重なって、少しウルッとしてしまった。でも、このままではいられない。
私「僕はアオイが嫌いだ!」(キッパリ。でも、ホントは好きです)
副部長「なぜ? いつも命令ばかりしているから?」
私「(首を振り)アオイには何かある……何かを隠している……僕は怖いんだ」
副部長「何も恐れることはないよ。ぼくがそばにいるから……心配は要らない……」
部長「カット」
私「このユウの怖れは、自分が信頼している相手にわずかな不審や疑問があるからですね」
副部長「そう。この後にそのシーンが出てくるけど、アオイはユウに隠していることがある。彼女はまだすべてを明らかにしていない。それが感じられて、ユウはアオイに不満を持ってる」
部長「「自分はこんなに君のことを信じ、頼りにしているのに、なぜ君はそれに応えてくれないんだ」、という疑問、焦り、不満」
影山「互いに信頼し合う仲のはずなのに、それが何かの障害によって果たせない鬱屈」
遠藤「あんまり急に難しい言葉を使うと、頭がショートするぞ」
かっこよくキメたはずなのに、鋭く揶揄された影山先輩は、でも、苦笑いでやりすごした。
副部長「でも、いくらアオイに「何も恐れることはないよ。ぼくがそばにいるから、心配は要らない」って言われても、根拠のない信頼を寄せることは、なかなか難しいよね」
部長「そこがユウのジレンマになってる」
私「でも私は、副部長さんを信頼しています!」
副部長「いきなりなに言うの!」
影山「アオイと副部長が、ごっちゃになった?」
私「そーじゃありません。ちゃんと見分けはついています」
遠藤「そーなの?」
私「ハイ!」
副部長「ビックリした」
私「すみません。でも、ホントなんです」
副部長「それは、どうも、ありがとう」
私「ゼンプクのシンライです!」
副部長「でも私たち、付き合って、まだ1か月チョットしか経ってないよ」
遠藤「付き合うって言うと、語弊がある」
副部長「そーだった、「同じ部員になって」だった」
副部長さんは、いつもちょっとクールだけど、私をちゃんと見ていてくれてるところが、私の安心と副部長さんへの信頼につながっている。私にとって副部長さんは、いわば姉のような存在になっていた。頼りになる姉貴。一人っ子の私には、初めてできた姉妹だ。
女同士の関係は、一般的になかなか一筋縄ではいかないものだ。今回、一緒にキャストとして練習を進める中で、彼女の一見冷たさの中に、かすかな温かさを感じていた。特に私に対しては、(影山先輩に対する時とはまるで違う)優しい視線を送ってくれる。後輩を育てようという意志が感じられる。ありがたいことだと、私は心の中で思っていた。同じ学校の生徒への感謝の気持ちを抱くなんて、思いもしなかった。
だからユウの、「アオイには何かある……何かを隠している……僕は怖いんだ」という気持ちがよくわかる。自分を受け入れてくれるようで、そこに何か隔てを感じてしまう。かすかな怯えが、ユウにはある。そこが私とは違う所だ。違うからこそ理解できる感情。
副部長「アオイの、「データは徐々に蓄積されつつあります。ユウの行動パターンや身体組成の分析も続けています……あともう少しで石の棺にアタックすることも可能になるでしょう」というセリフも、観客にはわかりずらいですね」
遠藤「検査の目的が、ユウの健康状態の把握ということもあるけど、本当は石棺へのアタックのためだということ」
部長「生身の人間が、どーやって原発の暴走を抑えることができるのか?」
遠藤「そこがまだ分からない」
副部長「なにかは分からないけど、でも、アオイはとても緊迫してる。何かの危機が迫ってることだけは、観客も何となく察する」
私「「石棺の点滅が、早くなっている」ことや、「急がなければなりません」というセリフが、伏線になってます」
部長「俺らは観客の想像力を信じて、この場面を一生懸命演じるだけだね」
なにか重大なことが起ころうとしていることを、演技でいわば匂わせる。これは一歩間違うと、とてもキザでもったいぶってるように受け取られがちだ。もってまわった演技は鼻につく。部長さんの、「一生懸命」というのは、その嫌な臭いを消す薬なのだろう。
部長「この脚本は、観客に我慢を強いる。その不満をできるだけ緩和させることが、キャストには求められる。演技の強度を加減しながら演じなければならない」
私にも、部長さんの言っていることが、なんとなくわかるようになってきた。
#小説
#高校生
#東日本大震災
#演劇部




