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衣織の物語  作者:
81/89

衣織の物語79「synchronicity(シンクロ)」12

【四場】

ユウ  今日は何するの? 

アオイ 今日は今までとは違う、新しいトレーニングにチャレンジしよう。

ユウ  新しいトレーニング?

アオイ 「シンクロニシティ」の練習だ。

ユウ  「シンクロ」…? 何? それ。

アオイ すぐに分かるよ。心配いらない。ちょっとやってみよう。(ユウと両手をつなぐ)ユウ、僕の言うとおりにして。心を静かにして目を閉じるんだ。

ユウ  こうかい?

アオイ そう。そうして深く念じるんだ……たとえば、ママのことを。

ユウ、目を見開く。

アオイ 怖がらないで。大丈夫。もう一度目をつぶって……そうして、愛する人のことを思って……。

二人は輝きだす。鼓動の効果音フェードイン→アウト。ユウ、思わず手を離す。照明、もとに戻る。

アオイ 急に手を離してはいけない! 危険だ。さあ、もう一度。ママとパパのことを思いだしてごらん……深く心にイメージするんだ……ゆっくり呼吸して……。

二人は輝く。効果音フェードイン→アウト。照明もとに戻る。

ユウ  今の、何? 何が起こったの?

アオイ これが「シンクロ」だ。

ユウ 「シンクロ」? なぜ光ったの?

アオイ ユウの心と僕の心が深く共鳴して、エネルギーを持ったんだ。

ユウ  どういうこと? どうして僕たちは、そんなことができるの? 僕たちは、何かおかしいの?

アオイ おかしくはないさ……それに、まだ、はっきりと解明されたわけじゃない……さあ、もう一度やってみよう。

二人は手をつなぎ、念じる。

アオイ ゆっくり息を吸って……吐いて……僕とつながっていることを意識して……。

発光。効果音フェードイン。

アオイ 手のひらが熱くなっても、離してはいけないよ。怖がらなくて、大丈夫。

光、音、強くなり、やがてフェードアウト。

ユウ  なに? どうなったの?

アオイ とてもまぶしかった。けど、気分がさわやかだ。

ユウ  僕も、心が落ち着いた。頭の中が、クリアになった気がした。

アオイ これがシンクロだ……いつかきっと、役に立つ時が来る。

ユウは、不思議顔。(「シンクロ」)



 部室前広場での練習は、ずいぶん久しぶりのような気がする。地区生徒理事会の内容が、とても濃かったからだろう。上遠野さんは元気かな?

 今日の練習も、部員全員が集合している。


部長「この部分は、初見の観客には意味が分からないだろうね」

 私はうなずきながら言った。

私「始めからここまで脚本を読んできて、何か突然違う世界に連れていかれたような気がしました。これまでは、まるで夏休みの合宿所のような雰囲気だったのに、ふたりが急に異能の存在になったように感じ、世界がゆがんだようです」

副部長「そうね。物語が進むにつれて、ここがどこで、ふたりは何者なのかが次第に分かるという形の脚本になってる。だから観客に忍耐を強いる物語進行だね」

影山「芝居や物語に慣れていない人にはツライ脚本だ」

遠藤「お前にとってはどの脚本もツライだろうがな!」

影山「そんなに強調しなくてもいいだろ! 俺だって一生懸命やってる!」

副部長「ふたりとも、その辺にしなさい。練習が進まないから」

 いつもの部活動の雰囲気に、私は自宅にいるような安心を感じていた。役割分担が完璧なのだ。

副部長「衣織さんは、この部分はどういうふうに捉えたの?」

私「結末部を読んで初めてはっきりする物語なので、演じる立場としては何をどこまで意味を持たせて演じればいいかが難しいと思いました」

影山「どういうこと?」

私「すでに物語りの全体像を知りながらも、あくまでもこの場面までの登場人物の理解として演じなければなりません。それと、すべての意味が分かるように演じるのもダメだし、ある程度ほのめかさないと面白くないしっていう加減がとても難しいです」

遠藤「なるほど」

影山「よくわかってんじゃん」

副部長「チャチャ入れないの!」

 影山先輩は、まるで亀のように制服の中に引っ込んだ。器用な人だ。

部長「確認なんだけど、『シンクロ』というのは、互いの体内・思考エネルギーが共振して、ある力を持つことを意味する。だからそこには心の共感が必要なんだ」

副部長「アオイとユウについて言うと、ふたりは共同生活を長いこと送っていて、互いにある程度の信頼関係にある。それを認識したからこそ、アオイはここで初めての提案をした」

部長「アオイとユウは両手をつなぎ、心を触れ合わせる。互いの信頼と愛がシンクロし、強いエネルギーとなる」

副部長「ふたりの輝きが、やがてある目的の達成のために利用される」

遠藤「思わず手を離したユウに、アオイが『急に手を離してはいけない!』と注意するのは、エネルギーが増大している途中での切断が、どのような現象を起こすかがまだわからないからなんだ」

 私は、先輩方の脚本読解と理解の深さに、静かに感嘆していた。脚本を読み込むとは、こういうことなんだ。

副部長「『互いの心が深く共鳴して、エネルギーを持つ』って、素敵」

 私はどういう意味で副部長さんがそう言ったのかに、多少の興味を抱くとともに、そこには悲しみが潜んでいるようにも思った。だから、彼女の方を見ることがためらわれた。

 そんなことをまったく気にしない影山先輩が、虎の尾を踏んだ。

影山「『どういうこと? どうして僕たちは、そんなことができるの? 僕たちは、何かおかしいの?』」

 しかし副部長さんは、冷静に返した。

副部長「『おかしくはないさ……それに、まだ、はっきりと解明されたわけじゃない』」

 副部長さんは私の方を向いて言った。

副部長「……さあ、もう一度やってみよう。(私たちは手をつなぎ) ゆっくり息を吸って……吐いて……僕とつながっていることを意識して……手のひらが熱くなっても、離してはいけないよ。怖がらなくて、大丈夫」

遠藤「光、音、強くなり、やがてフェードアウト」

私「なに? どうなったの?」

副部長「とてもまぶしかった。けど、気分がさわやかだ」

私「僕も、心が落ち着いた。頭の中が、クリアになった気がした」

副部長「これがシンクロだ……いつかきっと、役に立つ時が来る」

 私は思わず手を離した。

副部長さんは、「急に手を離すと危険だ!」と言い、微笑んだ。

 副部長さんのユーモアを置き去りに、私は尋ねた。

私「ここで、気分がさわやかになったり、頭の中がクリアになった気がしたのはなぜなんでしょう?」

副部長「ユウはまだ半信半疑なんだけど、アオイは、シンクロの訓練が成功したようであることに安心し、これがいつかきっと、役に立つ時が来ると信じてる。アオイのそれまでの迷いや疑念がやや解消されたことと、実際に昇華作用が、『シンクロ』にはあるんだと思う」


 この説明に私はなぜか、副部長さん自身の何かが投影されているように感じた。



#小説

#高校生

#東日本大震災

#演劇部





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