衣織の物語78「灯(あかり)という友人」2
この灯という人なのだが、天真爛漫、天衣無縫、空前絶後、阿鼻叫喚、百折不撓……尽きること無く四字熟語が浮かび、簡単にまとめるととにかくハチャメチャな人だ。たとえばこんな感じ。
彼女の席が空席で、今日は珍しくお休みかと思っていると、「隣の教室に登校してた」と言って朝のショートホームルーム中にあっけらかんと登場。
4校時終了のチャイムが鳴った瞬間に、購買にダッシュしたはいいけど、廊下と購買の間の窓口がまだ閉じられているのに気づかず、ガラスに頭突き。ガラスが厚く、流血を免れたのが幸いだ。
牛乳パックの扱いが雑で、必ず開封に失敗し、本人には絶対に言えないけど、何となくいつも牛乳臭い。
階段を踏み外す(これは私と同じ)。
私だと思って別の女子に後ろからスリーパーホールド。
テスト範囲を間違え、テスト用紙が配付されてから冷や汗。
すべての時間の感覚がない……等々。
どれも悪気がないだけに、なお厄介だ。いつも周りの者が振り回される。けど、あまり嫌がられない。
その一方で、四国方言がとてもカワイイ。それは特に歓喜や驚嘆の時に出現し、彼女の日常はほぼ歓喜か驚嘆なので、つまり隠しようにも隠し切れず頻出する。四国弁が、その性格と小柄な彼女にとてもよく似合っている。これを聞かされた男子はまずドキッとし、次には彼女に恋をする。四国弁とはつまり、彼女のためにできた言葉なのだろうとさえ思ってしまうほどだ。例のストーカーの彼も、そんなところが気に入ったのだろうか。
そんな彼女なのだけれど、ホームルームで進路希望調査の用紙が渡され、「将来は何するの?」という話題になった時、彼女は、防災士の資格を取り、地域の防災に力を尽くしたいと言い出したのには驚いた。不真面目とは言わないが、オチャラケルことが通常営業な彼女なので、そんなことをまじめに考えているのだと知り、とても意外だったからだ。驚く私の瞳を覗き込む彼女は、ちょっといたずらな感じだったので、私の心に、「こいつ、私をだまそうとしてるのか?」という警戒警報が流れたが、その後の話で本気だということが分かった。体験に即したとても具体的な理由だったから。
灯のふるさとの四国と言えば、南海トラフ地震による甚大な被害が高い確率で予想されている地域だ。彼女は中学の時に、「HUG」という避難所運営ゲームを体験し、これを全国に広げたいと考えたそうだ。下記ホームページにも説明されているけれど、「HUG」は避難所運営をみんなで考えるためのアプローチとして静岡県が開発した図上訓練で、具体的で実践的な避難所運営が疑似体験できる。グループに分かれての演習により、参加者同士の交流や連帯感も生まれるそうだ。
避難所運営ゲーム(HUG)について|静岡県公式ホームページ
ただ、1セット¥14,300(税込)とやや高価なところが難点で、これを実際に利用するためには、利用する集団の規模により何セットも必要になる。個人での購入はなかなか困難なので、学校や地域が予算化してまとめて購入し、生徒や地域住民に体験してもらうのが良いのではないかと彼女は言っていた。
私自身、東日本大震災で被災し、避難所の経験もあったので、とても興味がそそられた。これから予想される災厄に備える方法はたくさんあるけど、具体的にゲーム形式で避難所体験ができるのはとても良い方法だと思った。
新学期途中に突然やって来た友人だけど、こんなことを真剣に考えているんだと思うと、頼もしくもあり、なぜか感謝の気持ちがわいたりもした。これも被災地への寄り添い方の一つの形だと思ったから。福島も同じような防災の取り組みをすればいいのに。
彼女の話では、海辺に近い地域住民の移転は費用の問題もあり進んでおらず、そこがとても心配だということだった。南海トラフ地震では、35mの津波が、ごく短時間で襲来すると予想されている。自分は大丈夫だろうという気持ちが、防災の意識を低めてしまう。生活圏の移転に伴う巨額な費用を個人が捻出することは不可能だ。国や行政の積極的で大規模な支援が、防災には必要だ。起こる前に備えることができた無念を繰り返してはいけない。




