衣織の物語75「地区演劇生徒理事会」15
その後の交流会は、どのグループも次第にグダグダになっていき、やがて終了時刻となった。会場復元の場面で上遠野さんは気丈にも、テキパキと場を仕切っていた。
上遠野さんの終了・解散の掛け声の後、会場は混沌となった。部長さんがとりあえず廊下に出ようかと言い、私は副部長さんの後について混雑する会場から人ごみをかき分け廊下を目指した。なかなか前に進まない。押し合いへし合いに近い状況に、私は副部長さんの上着の裾をつかんでいた。何かに引っ張られる感覚に、後ろを振り返った副部長さんは、それが私の手だと分かるとかすかに微笑み、また前を向いた。姉のような安心感から、私は彼女の背中にぴったりくっついた。副部長さんの体温を感じる。副部長さんは、若い血をからだじゅうに巡らせている。他者とあまりくっついたことの無い私は、そんな要らぬことを考えていた。おまけに目の前の髪からいいにおいがする。
やっとのことで廊下に出た私たちは、少しの空間を求めて、会場とは反対側の廊下の隅に集まった。顧問会も終わったようで、その部屋から先生方がぞろぞろ出てきていた。部長さんが手を挙げて顧問に合図をし、それに気づいた先生は人ごみを上手にすり抜け、笑顔でこちらに近づいてきた。
顧問「ちょうど終わったんだね」
部長「はい。交流会も終わり、解散したところです」
顧問「今日の生徒理事会、どうだった?」
部長「他校の様子も聞けて、とても有意義でした」
遠藤「仲良くなった人もいて、連絡先を交換しました」
副部長「他校も予算に苦労しているみたいです」
顧問「そだね。舞台を上質にするには、お金がかかるからね」
みんなはうなずいた。
影山「うちのグループにはかわいい子がいて、仲良くなりました」
遠藤「今は話題が違うだろ。突然色恋の話するな」
影山「冗談だよ。本気にするな。マジメなんだから」
遠藤先輩は、こぶしで軽く影山先輩の腹をつついた。言葉では効かないと思ったのだろう。確かに、実力行使が適切な場面だった。この日、影山先輩は、合計二発、腹部に攻撃を受けたことになる。わざと痛がる演技が、多少鼻につく。練習不足が、こんなところにも表れている。
部長「先生方の方はどうでしたか?」
顧問「あぁ。新しく顧問になった先生もいて、年間計画や地区の予算、大会の係分担なんかを丁寧に審議したよ。年度初めの会議は、いつもそうなるね。でも、会自体は滞りなく終了した感じかな。それで解散となった」
部長「はい。この後、どうしますか?」
顧問「そうだなぁ。今日はここで解散しようか」
部長「はい、わかりました」
顧問「みんなはどう? ここで解散で、大丈夫? 送迎とか」
全員「大丈夫です」
顧問「では、そうしよう」
私たちは改めて先生の前に並び直した。
部長「それではこれで、演劇部の活動を終わります。お疲れさまでした」
全員「お疲れさまでした!」
顧問「お疲れさま」
その後、先生は、「この後、先生方の集まりがあるから、今日はここで」と言い、顧問が溜まっているところへ向かった。
その後ろ姿を見送りながら、影山先輩は、「飲み会だな」とつぶやいた。
副部長「たまにはそれも、いいんじゃない?」
遠藤「そーだよ。そーゆーのも大事」
影山「まあな。大人には大人のつきあいがあるから」
副部長「あなたもだんだんモノゴトがわかってきたわね」
遠藤「分別が付いて来た」
影山「ひとを子供のように言うな」
部長「お前たち、相変わらず仲がいいね」
顧問と一言二言話をしながら見送った部長さんが戻ってきた。
部長「でもちょっと、声が大きい。会話の内容が内容だけに、他校生に聞かれて恥ずかしい」
副部長さんと遠藤先輩はすぐに「すみません」と謝り、影山先輩は口を手で覆った。ただニヤニヤしながらそこに存在していただけの私も、一応、「すみません」と謝っておいた。
部長「ここで解散なんだけど、この後どうする?」
副部長「私は親の迎えを待ちます」
遠藤「うちは近所なので、歩いて帰ります」
影山「なんだ、つまらんなー。どこかちょっと寄らない?」
そう言うと、影山先輩は遠藤先輩の方を見た。
遠藤「寄らない。今日は帰る」
友人にすげなくされた影山先輩は、下手くそにすねる演技をした。
副部長「衣織さんはどうする? ここから帰れる?」
私「はい、大丈夫です。でも、この会場は初めてなので、少し探検してから帰ろうと思います」
副部長「『探検』は大事ね。でも、気をつけて帰りなさい」
私「はい。わかりました。ありがとうございます」
先輩方はみなうなずいている。それで、そこで解散となった。
もちろんその後の私の目的は、上遠野さんだ。ここで彼女とこのまま別れては、未来に禍根を残すことになる。私が今「探検」したいのは、上遠野さんという存在だ。
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