表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
衣織の物語  作者:
75/89

衣織の物語73「地区演劇生徒理事会」13

 私の前には個性の塊がそれぞれの色で10人ほど並んで座っている。基本的には真面目にかしこまってはいるのだが、内からにじみ出るモノを抑えることができないのが演劇部員なのだろう。演劇とは、罪深い仕業だ。

 この10人ほどをいちいち説明するのは難儀だ。そうしてそれを、みなさま方も望んではいらっしゃらないだろう。なぜなら、もしそれを企めば、誰が誰やら、どれがどれやらわからず、理解は混乱の極へと向かうばかりだからだ。強い個性が集まると、ただ雑多な印象が残るだけだろう。これは決して労を厭ってのことではない。演劇とは、演劇部員とは、そういうモノだからだ。

 そうはいっても、試しに少しご紹介してみようか。そうでなければ話が進まぬ。


 交流の前にまずは自己紹介となったのだが、真向いの一見好青年は、実は恐竜オタクで、中学時代は理科部に所属し、熱心に博物館めぐりをしていたと話し始めたのには閉口した。確かに恐竜顔をしている。類は友を呼ぶとはこういうことか?(違う) 「恐竜オタクがなぜ高校では演劇部?」というまっとうな疑問を、そこにいた全員が抱いたのだけれど、趣味の深淵に向かいかけた彼の弁舌を止めたのは、その隣に座る聡明な女子だった。

 この子も理系顔なのだが、話し始めると、きりっとした表情とは逆の、まったりとした話し方をするほんわか女子だった。そのギャップに早速やられている男子が数人。「もう、そのくらいでいいでしょう? みんな、ひとことずつという約束よ」とやんわりと諭され、恐竜男子は表舞台から退散した。

 彼女は、宝塚が好きなんだそうだ。そうしてそれは母親の影響で、できれば宝塚に行きたいと本気で思っているということだった。そのため東京まで毎週レッスンに通い(みんなためいき)、勉強もおろそかにしないよう頑張っている。確かに彼女は姿勢がとてもよく、生来の美形は大人になっても維持されるだろうと予想される顔かたちだ。からだと顔の骨格からして私とはまったく違う。そうしてその上に盛られた上質な肉。身長も高い。男役になるべくしてこの世に生まれた存在。ただあの話し方は大丈夫なのか? 唯一かつ決定的な欠点に、他人事ながら心配になる私だった。舞台に載ると豹変する人がいるらしいから、発表会が楽しみだ。


 次は今どき真っ黒な詰襟を着た男子。いかにも体育会系の外見で、中学時代はバレーボールに打ち込んでいたそうだ。「ジャンプ力には自信がある」とのことだが、それを生かす場面が演劇にあるとは到底思えない。この一カ月ほどの部活動において私がジャンプしたのは、わずかに練習前の体操の時の小ジャンプだけだ。だから、演劇部員の集まりの自己紹介として、その特技として、ジャンプ力を例に出すのははなはだ不適切というほかない。たしかに高いところに置かれた道具類を取るには有効だろう。しかしこの世には踏み台というものもあり、演技の面でその特技が生かせるのはやはり、運動系の物語だろう。ひとことで言うと、変な人なのだ。


 ということで、他の人たちは割愛する。彼に限らずこのグループは、変な奴ばっかりだったから。

 また、私は、自分が本当に興味を持った人しか認識しない。学校名や名前を覚えない。だからこの時目の前にいる人たちは、私にとって変わり者の一群としてしか存在しえなかった。オモシロソーだが何かが違う。早く上遠野さんとお近づきになりたい。


 ところが、他のグループからわき上がった歓声や笑い声に、我々のグループも色めき立った。「うちも楽しーことやろー」というわけ。


 その時にわかに立ち上がり、輪の中のスペースに躍り出た男子がいる。「特技を披露します!」と言って上着を脱ぎ、パーカーだけになると、急に踊り出した。友人らしき男子がスマホで曲をかける。ロボットのような関節が外れたような妙な動きをしたかと思うと、何やらぐるぐる床の上で回り始めた。いったいどれほど回転すれば気がすむのか。コマの生まれ変わりか、鳴門の渦潮か。大宇宙の創造をここでしようとしているのか。このパフォーマンスに周りはけっこう盛り上がっていたが、ちょっと齧っただけのダンスはご愛敬程度にしかなりえない。人前で披露するには稚拙であり未熟すぎる。私はこれには付き合いきれない。上遠野さんと話したい。


 それで、上遠野さんはいずこへと探したけれど、どのグループにも姿が見えない。どこに行ったんだろう?


#小説

#高校生

#東日本大震災

#演劇部





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ