↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/32

ある男の回想

断章のノブナガ視点です

 目が覚めたら、知らない屋敷だった。

 知らない女に世話をされ、茶の風味がする飯を食う。なんだ、俺はどうなったんだ。一時的な記憶喪失で、お濃以外の嫁を娶ってしまったのだろうか。

 だが幸いにして、彼女には「十郎様」がいるようだ。

 主なのか夫なのか分からないので、詳しく聞こうとしたら睨まれた。完全に不審人物と思われている。図々しくて気に入らないそうだ。

 俺を嫌っているのに世話はちゃんとする。

 まるでお濃の侍女みたいだ。早くお濃に会いたい。

 暇を持て余したので外へ出ようとしてみたら、怒られた。十郎様とやらがいないのだから、大人しくしていろということだ。仕方ないので何か本を貸してくれと言ったら、経本を渡された。

 仏の御心に触れれば、少しはマシになるとか普通にひどい。

 十郎様は今日、明日には戻ってくるらしい。

 詳しい話は彼に聞くとして、俺は経本を開いた。崩し文字にもようやく見慣れてきた俺にとって、きっちり一文字ずつ刻まれた経本は非常に読みやすい。

 子供時代に叩かれながら、読経していた日々を思い出す。

 確かにこれ以上ない暇潰しだ。読み上げながら思考していれば、聞かれたくない内容がポロリする心配もなくなる。一通り読み終われば最初に戻ればいい。

三分の一を終えた頃に、見覚えのある青年がやってきた。

 信包くらいの年頃だろうか。

 うっすらと会話した記憶が残っている。驚いたり、むすっとしたり、感情豊かな男だ。精神的に未成熟なところが、異母弟たちを思い出させる。

 あいつらこそ、城で大人しくしているといいんだが。

 何日経ったか知りたいのをぐっと堪える。

 相手から情報を引き出すために、自分のカードを安売りするわけにはいかない。どうやら俺が「織田信長」だと分かって、態度を変えてきた。

 繰り返される「長島」という地名に、俺は笑みが浮かんでくる。

 信長のやらかした虐殺の一つに「長島一向一揆」があったはずだ。一向宗とは、浄土真宗本願寺派の通称である。これとは別に「一向」という人が開祖の「一向宗」もあるらしいのだが、今回は関係ない。

 楠十郎と名乗った男は、それなりに身分がある。

 こいつらと親しくしておけば、将来的な布石になるだろう。どうせ戦をしたがるのは生活に不自由していない人間が多いのだ。生きるのに困っている奴らは、飯の種をやれば大人しくなる。

 よし、特産品の取引から始めよう。

 三つの川は上流の水量調節と土手の強化を行えば、肥沃な農地に変わる。

 現代の浄土真宗と違って、この時代の一向宗は排他的思考があるようだ。キリスト教対策の予行演習だと思おう。抵抗があると分かっているのに、弾圧はしたくない。沢彦のように武闘派が多いと困るので、寺に派遣されている仏僧たちの手入れは必要か。

 飯の種を与え、宗教の自由を認め、織田家に反抗しない教育を施す。

 うん、長期的な計画になりそうだ。

 とりあえず詫びの品が必要なので、土産を所望する。十郎は嫌な顔をしたが、茶と布くらい大した額でもないはずだ。ケチくさい奴め。だから、隣の女に敬意以上の好意を持ってもらえない。

 かくいう俺も三年かかった。

 だから二人にアドバイスはしない。こういうのは当人たちの問題だからだ。

 外で家臣が待っているというし、さっさと尾張へ戻ろう。

 早く、お濃と奇妙丸に会いたい。


作中の注釈:

正しくは「長島一向一揆」で多くの農民が戦死したり、本願寺派の坊主がたくさん殺されたり、石山本願寺を攻めて僧兵まとめて殺したり、比叡山延暦寺の焼き討ちなどが含まれているのですが、主人公は歴史の授業程度(と時代劇)の知識しかないのでゴッチャになっています。

嫌でも体験することになるので、これまで通り主人公の認識は少しずつ修正されていきます。

が、歴史はちょっと変わるかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。