第四話 あれそれこれじゃ分からない
「しかし、拒否権は無いって言っても、お見合いの3日後に結婚するとは思わなかったわ。もっとゆっくり結婚を考えるべきじゃないの」
「今猛烈に、理不尽という言葉がワタシの頭の中で声をあげてますよ!」
休憩中、明と話していたらそんな事を言われた細音は、思わずツッコミを入れるが、そんな事はお構いなしに明は話を続ける。
「でも、カレ障がい持ちなんでしょ、何か不便な事ってない?」
「そうですね……良い人で一緒にいて楽しい所はありますけど、それは不便な所はありますよ」
細音は引っ越しの時の事を思い出しながら、その事を語った。
☆☆☆☆☆☆
「これをそこに持っててくれますか?」
引っ越しで忙しい時に、指示を出した細音に対して宗友は真顔でこう返事した。
「これって何? そこってどこ?」
「えっ! 分からないんですか!?」
連立方程式を分からない数学教授に会ったような驚きをした細音に、宗友が説明する。
「全部説明してくれないと分からないので、あれそれじゃなくて、ちゃんと指定してください。アスペルガーの特徴の1つで、曖昧な言葉や、言葉の奥が読めないんです」
多少面倒臭さを覚えつつ、細音はその通りに実行した。
「じゃあ、この段ボールをテレビの前に置いてください」
「ありがとう、面倒だって言われるけど、言われないと何にも、何にも出来ないから……」
申し訳なさそうにお礼を言った宗友は、自身が言った通り、ちゃんと指示を出せばしっかりと手伝っていた。
やがて作業が終わると、細音はソファーにぐったりと横になっていた。
「ふう……何だか本来の2割増し疲れている気がするけど、しょうがないよね」
「ごめん、これからも大変な事態が出てくると思うから、今日中にボクのトリセツを作って渡すよ」
そうしてその日に渡されたトリセツは、丁寧な字で書かれていた。
有馬宗友の取扱説明書
・なるべくパターン通りの行動を取ろうとします
・においに敏感です、アロマや香水はあまり強くない香りを少々までなら耐えられますが、それ以上は不機嫌になるか脱走します
・場の状況が悲しくなるほど分かりません、悲しい状況の人がいる中で笑ってしまうなど周りの和を自分では分かっていませんが乱してしまいます
・イライラすると某下ネタオンパレードの歌を熱唱しだします、公共の場では出ない様に注意しますが、ガス抜きを手伝ってくださると家でも熱唱しなくて済むので、ぜひご協力ください
・記憶力がとてもあります、忘れていた事を言ったりしても驚かないでください。
・抽象的な言葉が苦手です、察するという事も苦手なので、はっきりと言ってください、その言葉で傷付いていたらフォローしていただけると嬉しいです
……等々結構な長文だったが、最後にこう書かれていた。
本人もなるべく努力しますが、万が一返品の際は即時対応させて頂きます。末永いご愛好よろしくお願いします。
有馬宗友
「宗友さん……」
宗友が照れながら渡したトリセツなラブレターに、細音は愛おしさがこみ上げて来た。
「元々政略的だから、無理しなくて良いから……うわっ!」
「……こちらこそ、よろしくお願いします」
上目遣いをしながら抱きしめた細音に、宗友は胸がキュンとなり、それ以上の強さで細音を抱きしめた。
☆☆☆☆☆☆
「……結局はノロケに走ったわね、私が結婚してなかったらお仕置きしている所よ。まあ、私には自慢の夫がいるから良いけど」
サボテン、アンタもなという言葉を良く噛んで飲み込んで笑った細音に、明は不審に思いながらも細音にある誘いをした。
「ねえサザ、今度家族ぐるみでバーベキューでもしない?」
「ワタシに拒否権は──」
「あると思っている?」
さあ察せと宗友なら分からずに聞こうとするだろうが、長年付き合いがあって、行動が分かり過ぎる程分かる細音は、黙って首を横に振った。
「まあ、前もって予定は言うから、ちゃんと夫婦で参加してよ、肉と米は用意するからあとは自分達で買ってきて、それと私たちのもよろしくね」
自分より明らかに経済的に余裕があるのにとこれも口に出す事無く胃に流し込んだ細音だった。
今回はキリが良い所でという事で短めです。遅い上にすいません<(_ _)>




