第三話 愛を止めてくれ
引っ越し手続きなどもろもろ済ませ、細音は久しぶりの休日を宗友とおしゃれなカフェで過ごしていた。
「不味っ、こんな紅茶もどきで金取ろうなんて、イギリス人だったら笑顔で『新しい飲み薬をありがとう、おかげで口の中からゲボのにおいがする様にになったよ』って言いながら店を出ていくね」
休日の昼間という混んでいる時間の中、周りの目を気にせずに普段通りの声でしゃべる宗友に、細音が慌てて助言する。
「宗友さん、店から出てから誰もいない所で言って下さい。店員さんの目が怒ってますよ」
「嘘は言ってないんだけど……」
「だからこそです!」
細音が説教して思ったのは、本当に学者さんで良かったのではという事だった。学者だからどこか変人という社会認識が多少あるので、大学でも多少寛容に接してくれる所がある。宗友の特性を調べてみると、周りへの理解が本人の社会生活にとって重要なポイントになってくるからだ。
「でも嘘を言って、相手が気付かないまま悪い方向に進むと思ったんだ。それって良くないと思わない?」
「うーん、それは確かにあるけど、赤の他人にあーだこーだ言われてすぐに直すのってあんまり見られないと思うし──」
良くないと言おうとした時、細音は近くでジュースを飲んでいる小学生前の女の子を発見し、キュンとして見惚れていた。
「ああっ、可愛い……まだ何も知らない無垢な瞳、大きくなるにつれてまた一段と美しくなっていく体と心、その時ワタシはオバサン……いや、今からでも大丈夫──」
「さっき誰もいない所でしゃべれって言ってたよね」
宗友の指摘に、細音はハッとなって顔を赤らめて反省した。
「ご、ごめんなさい。あの子もその親も見ちゃったらつい興奮しちゃって」
「しかも親もなんだ……」
宗友はいつか暴走して捕まらないか心配になってきた。それだけならまだしも、異性同性関係なく警官にも貞操的な意味で襲い掛かり、更に罪を重くするんじゃないかと要らぬ心配までしていた。
「お姉さんこんにちは!」
お店に入って来た小学生位の男の子に元気よく挨拶されて、細音はまたもや目をハートにしてキュンキュンしていた。
「こんにちは、君、携帯電話持っているかな、番号教えて?」
「うん、教えてあげる」
あっていきなり番号を聞いている細音を、宗友は慌てて止めた。
「怒られるよ! ねえボク、知らない人に気軽に教えたらダメだからね」
「はーい……」
男の子は後から入って来た親に連れられて、離れていった。
「ボクがいる前で他の人を口説いても怒らないけど、せめて子供は止めてね。相手の合意という点でアウトだから」
「本当に世界中の人が好きなの、全員ワタシのパートナーになって欲しい位に」
「何だろう、その辺のヲタクが可愛く見える……」
「ワタシの感覚、分かってくれました?」
「いや、全く。嫌悪はしないけど、理解は出来ない」
宗友のストレートな言葉に細音は軽く傷つきながらも、嫌悪感を抱かれないだけ心の傷は浅かった。
「相手の事を受け入れてこそ夫婦だと思うから、法律的にダメな所以外は愛人何人作っても寛容でいるけど、ボクの事も愛して欲しいな」
「宗友さん……」
その言葉に多少の後ろめたさを感じつつ、自由でいさせてくれて、自分の特性を理解している宗友といるのが、1番安らげる時間だと細音は思い始めていた。
「細音さんって趣味は何なの?」
「それはお見合いの時に言う話ですよね……。──ワタシは音楽鑑賞ですね、といっても、オーケストラとか大層なのじゃなくて、ロックとかシンガーソングライターとかジャズですね、評論出来る程じゃないですけど、これからって感じの人をラジオとかライブハウスとかでチェックして応援してます」
「へぇー、好きな歌手って誰ですか?」
「今おすすめしているのは、『ジェネラルサック』ですね、ジェネサってワタシは呼んでいるんですけど、元アイドルなのかっていうレベルの演奏をしているんですよ、懐かしのイギリスロックのメロディーと反骨と愛情が混じった日本語の歌詞が好きなんです。男女2人ずつの4人組でルックスも凄く良いんですよ」
「もしかして、ルックスから興味持った訳じゃないよね……?」
宗友の疑問に、ギクリとした様子を見せたのが答えになっていた。
「特上の美形揃いっていうのが最初ですけど、今は音楽も虜です!」
「全てが好きなのは分かったよ」
「そういう宗友さんの趣味は何ですか」
宗友が苦笑いしていると、細音は自分も宗友の事をあまり知っていないと思い、答えが気になって質問してみた。
「そうだね、1番好きなのはツーリングかな。バイクが大好きで、モタードって言うオフロードバイクを舗装された道用に改良したバイクで名古屋の実家に帰ったり、日帰り旅行をしているよ。これは愛車の画像」
見せられた画像は、ライトグリーンのシンプルなデザインのバイクで、丁寧に扱っているのが分かるバイクだった。
「なんていうか……マニアックですよね」
「燃費が良くて走りやすい、魅力を知ったら病みつきになるのがオフロードだよ、デザインは……ボクは好きだけど、万人受けしないね」
「バイクって危なくないですか? 事故で大ケガするイメージがありますけど」
細音はバイクをあまり知らない人が1番気になる、危険性について聞いてみた。
「みんなからバイクなんて危ないって言われるけど、ちゃんと装備して無茶な走りをしなかったら、大惨事はまずないね。車だってシートベルトせずに130キロのスピードで一般道走ったら危険なのと同じ、安全管理をやらないおバカさんが天国にツーリングしていくんだ」
時々皮肉が出てくる宗友の言葉に、細音は驚きと新しい発見を見出していた。
「普段はバイク出勤だけど、研究用の資料が多くなっちゃってすごく嫌だったけど、すごく嫌だったけど、電車で行ったら細音さんに逢えたから、何だか運命めいたものをすごく感じているよ」
「あっ……」
突然の愛の言葉に、細音は胸がキュンとして宗友の頬にキスをした。
「ふぇっ!」
「良いじゃないですか、結婚したんだしほっぺたにキス位」
新婚らしいほっこりした雰囲気に、2人は幸せを感じていた。




