第二話 ベタな再会とカミングアウト
お説教地獄から1ヶ月とちょっと経ち、細音のメンタルも平常に戻ったある日、細音の上司であるサボテン課長こと岩嵜明が細音を呼び出した。
「サザ、ちょっと良い?」
「何……じゃなくて何ですか」
また何か怒られるのではないかとびくびくしながら上司の所に向かった細音に伝えられたのは、予想外の言葉だった。
「サザ、突然だけどお見合いに行って来てくれない?」
「……今日ってエイプリルフールじゃないですよね」
「そうよ、冗談でもなくお見合いパーティーでもない、昔ながらのお見合い」
細音は割と強めのビンタで自分の頬を叩いてみた、はっきりとした痛みが残っていたので、認めたくなかったが夢ではないと細音は認めた。
「ビンタしてるけど夢じゃないのよ、ちなみに拒否権は無いわ。相手は今明かさないけど、何か運命めいたものを感じるわ」
「……あの、何でワタシなの?」
逆らったら酷い目に遭う事は3年働いて知っているので、細音は半ば諦めて疑問をぶつけた。
「旦那が責任者の薬品部門の事業が煮詰まっていてね、ツテでN大学の学長さんに紹介してもらった相手が、イギリスの有名大学に飛び級で入学した才人で、若くして准教授やっているんだけど、その知性を我が会社に少し役立てたいのよ。……でも結構な変人って話だから信頼している人じゃないと金をいくら出してもゴメンナサイの一点張り。でも、家族ならどうだって話が出て来たのよ」
「ワタシに生贄になれと言うんですか! このご時世に!?」
「人聞きの悪いわね、人柱になれって言っているのよ」
「ほぼ同義語です!!」
人生の一大事を、鬼畜上司に半強制的に決められそうになっている細音は3年目で初めて猛抗議したが、会社創設以来の才媛とまで謳われた明に勝てる実力はまだついていなかった。
「ほう~いいのね、あの秘密を暴露されても」
「なっ……!?」
「幼馴染で色々と知っているけど、あれだけは絶対に知られたくないんだったわよね」
それは細音にとって究極の選択になり得る秘密で、これを暴露されたらしばらく外に出歩けない程の秘密だった。
「サザにとって適役だから選んであげたのに、しょうがないわね、秘密をバラ……」
「受けます、受けますからぁぁぁぁっ!」
理不尽な上司で幼馴染の要求に、細音の悲鳴がこだました。
☆☆☆☆☆☆
自分は上司運がつくづくないと嘆く細音だったが、そんな中でもお見合い用に買ったワンピースを着て軽く化粧をし、指定された場所へと着いた。
|(本当に釣書とか写真とか一切なかったな……)
拒否権はないのに釣書とかいらないでしょと言われ、ほとんど情報を渡されずに今日を迎えた細音は、不満を言いながら仕事をしていた。
ちなみに、先日言われた情報以外に言われたのは濃いメイクと香水は使わない事で、それ以外は基本を押さえたお見合いの服で行って来いと言われて送り出された。
「まあ、大抵の人なら好きになれるけれど」
「良かった、断られるかと思って心配だったんだ」
「えっ、有馬さん!?」
現れたのは着慣れないスーツを着て頭を掻いている宗友だった、時計を見るときっかり5分前に現れていた。
宗友は椅子に座ると、カバンからコップと魔法瓶を取り出し、紅茶を入れ始めた。
「はいどうぞ、友達が紹介していた美味しい紅茶店でブレンドしたティーバックだから美味しいよ」
いきなり紅茶を出された細音は、驚きつつも紅茶を口に含んだ。
「あっ…美味しい」
「店主はマイペースなんだけど、味に関して言えば職人さん以上にこだわる人だから、紅茶嫌いも美味しいって絶賛する美味しい紅茶だよ」
温かい紅茶で一息ついて、宗友が何でここに来ているのか細音は疑問をぶつけてみる事にした。
「あの……何で有馬さんがここに来ているんですか?」
「えーっと、高森さんとお見合いしてこいって学長さんに言われたから、高森さんなら良いかなって思って」
口から出そうになった叫び声を何とかこらえた細音は、その分顔で驚きを表現していた。
「えっ、どうしたんですかそんな顔して」
「有馬さんって写真をもらったんですか」
「うん、いきなり知らない人に『ダジャレより貴方が好きです、結婚してください』って言えないから」
「付き合っている人にも言わない方がイイデスヨ……じゃなくて、ワタシほとんど何も言われずにここに来たんですよ、一緒に怒られた上司に命令されて!」
それを聞いた宗友はええー! と叫び声をあげて驚いた。
「何で人生の一大事を命令されているの、おかしくない!?」
「会社の仕事の一環だから、破談したら解雇って言われちゃって……」
「ええーっ!? そこまでの命令おかしいよ」
これまでの事情をかいつまんで話した細音に、宗友が見えない様にガッツポーズをした。
「でも、ボクは高森さんの事気になっていたんだけど、──ダメかなボクじゃ?」
心配そうに見つめる宗友に、惚れっぽい細音はキュンとした。
「ワタシとぜひ結婚してください!」
「えっ……」
細音は自分の発言に耳を真っ赤にした、お見合いでいきなりプロポーズするなんてドン引かれるに決まっているのに。
しかし、帰って来たのは更に予想外の言葉だった。
「じゃあ、婚姻届けを今からもらいに行こう」
「えっ……」
お金を出すからジュースを買ってきてと言われたかの様に、あっさりOKをした宗友に細音は驚いた。
「い、良いんですか?」
「うん、ボクは高森さんが好きだし、高森さんはボクと結婚しないとピンチなら早く結婚した方が良いのかなって。──あっ、でも嫌になったらお手伝いが終わった時点で離婚しても良いよ。無理やり居させるのも良くないだろうし」
自分の一大イベントが、あっさり決まりそうになっている状況で、細音は相手が失望しない様に、秘密を打ち明ける事を決めた。
「あの……結婚するんだったら知ってもらいたい事があるんですけど」
「何ですか?」
自分を助けてくれた人にがっかりされるのが怖いと感じつつも、細音は深呼吸をして宗友の目を見つめた。
「……愛が止まらないんです」
「えっ?」
「人間だったら、異性同性性分化疾患関係なく好きになっちゃって、年齢も赤ちゃんから1世紀近く生きているご年配まで恋しちゃうんです」
突然のカミングアウトに、宗友は口を開けてあーと頷いた。
「パンセクシャルだっけ? 良いと思うよ」
「………」
自分の告白を、ニコニコと答える宗友を見て、細音は自分の耳がおかしくなったのかと思った。
「恋愛対象として愛せないんだったら、どうしようかなって思ったけど、ボクをちゃんと愛してくれるなら、法に触れない程度に色んな人を愛しても良いと思うよ! その代わり、ボクは高森さんが愛される10倍は愛するつもりでいますから。──それで、ボクもちょっとした問題があるんですよ」
自分を認めてくれるとは思っても見なかった細音は、宗友にどんな問題があっても受け入れようと、決意を固めた。
「自閉症って知ってますか?」
「えっと……引きこもりですか」
「あははっ、良く言われるけど違うんだ。──脳の障がいで、知能指数が低くて、こだわりが強かったり人間関係が上手く築けないの障がい何だけど、ボクは知能指数が普通のアスペルガー症候群。においに敏感で空気は読めないしジョークが分からないんだ、その代わり地味な事を気が付いたら10時間近くやって、興味がある事は調べまくって詳しくなったり上手くなったりするのがボクの特徴です」
お互いに曰く付きだと分かり、細音は自分の心が穏やかになるのを感じた。
「分かりました、ワタシも貴方も普通の人から見れば変わり者ですけど、一緒にいると自分を隠さなくて良い気がしているんです。これからよろしくお願いします」
2人はその後、にこやかに会話をして交流を深め、3日後、異例の早さで婚姻届けを役所に出した。
展開がちょっと早めですが、ここから遅ーくなります。




