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『スナッチ・オブ・ザ・ダーク 〜強奪スキルで異世界を支配する〜』  作者: みちお


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帰路道中①

投稿が遅くなりました・・

家庭の事情と仕事で少し投稿が不定期になりそうで、お待ち頂いている方には大変申し訳ないです。

頑張りますのでぜひ読んで頂けると嬉しいです!

きらびやかで腹の探り合いばかりだった夜会が終わり、自室へと戻ったアレンは、泥のようにベッドへ倒れ込んだ。重い衣装を脱ぎ捨て、心身ともに限界を迎えた身体を寝具に沈める。


(……疲れた。前世の裏社会での揉め事も大概だったが、八歳の子供の身体でやる政治劇は骨が折れるな)


 一息つき、ふと思い立って自身のステータスを確認したアレンは、脳内に浮かび上がった文字列に目を見開いた。


【鑑定 Lv.2】

(……レベルアップしている? いくら晩餐会に招かれた者たちを観察していたとはいえ、こんなに早くスキルレベルが上がるものなのか?)


 アレンは怪訝に眉をひそめたが、すぐに得心のいく答えに辿り着いた。


(いや……女神の加護のおかげか。『スキルの取得経験値増加』――女神の加護の効果は、俺の予想を遥かに超えているらしいな)


 新しく解放されたレベル2の汎用スキルを展開してみる。すると、アレンの脳内には、自分を中心に半径百メートルほどの範囲を自在に拡大縮小できる、マップが表示された。

 スキルの詳細説明を確認すると、特定の『検索ワード』を脳内で思い浮かべることで、範囲内の対象を絞り込んで表示できる機能があるという。


(なるほど、特定の物だけを探せるわけか。試しに、そうだな……『食べ物』)

 アレンが脳内で呟いた瞬間、マップ上に無数の光る点が浮かび上がった。


 当然、厨房のエリアには大量の点が密集している。だが、奇妙なことに、夜遅くに対象外であるはずのメイドたちの居住部屋にも、ちらほらと小さな点が点在していた。

 面白半分にその一つをピンポイントで拡大し、選択してみる。

【クッキー】

【ドーナツ】

(おいおい、夜食の隠し持ちかよ。どこの世界でも、下っ端のやることは変わらないな)

 アレンは苦笑混じりに思考を巡らせたが、すぐに意識を切り替えた。

(まぁ、それぐらいの可愛いつまみ食いは見なかったことにしてやろう。それよりも……『お父様』)

 次のワードを投げかけると、マップ上のたった一つの点が光っている。


 場所は、夜会から戻ってもなお明かりが灯っている執務室だ。その点にフォーカスを合わせて選択すると、文字が浮かび上がる。


【バルト・フォン・ロドリス】


(なるほど。固有の名称や明確な個人を指定すれば、こうしてピンポイントで捕捉できるわけか。索敵ツールとしては最高峰の性能だな)

 その後もいくつかの単語を試して機能の検証を重ねたが、流石に脳の疲労が限界に達した。アレンは視界を落とし、心地よい泥のような眠りへと落ちていった。


 翌朝、ロドリス侯爵領への帰路の準備が早々に整えられた。

 王都に留まり、新しく得たスキルをさらに色々と検証したいという知的好奇心はあったが、アレンにはそれ以上に優先すべきことがあった。領地で待つ最愛の母エレーナや妹のリィナ、そして領地の人たちに、無事に最高のスキルを授かることができたと直接報告することだ。


 行き道と同様、ガイアス騎士団長が率いるロドリス領騎士団の堅牢な護衛に囲まれ、アレンを乗せた馬車は王都の巨大な城門をあとにした。

(さて、道中も無駄にはできないな)


 馬車の席に揺られながら、アレンはレベルアップした鑑定の汎用スキルを常に起動し続けていた。並の人間であれば一瞬で魔力が枯渇するような常時展開だが、魔力総量『S』を誇るアレンにとっては、ごく僅かな消費に過ぎない。


 アレンはこの機能を、脳内で**『エリア鑑定マップ』**と名付けた。

 設定した検索ワードは――『自分たちに悪意を向ける者』


 街道ですれ違う旅人や冒険者、商人の群れは、マップ上で全て安全を示す『緑の点』として表示され、何の問題もなかった。

 王都を発ってから二日ほど経った頃、突如として前方の馬車が停止した。


「バルト様、前方で崖崩れが起きております。馬車が通れる状態ではありません」


 御者台からの報告に、バルトが顔をしかめる。


「何だと? 復旧を待つ時間は惜しいな。ガイアス、迂回路へ回るぞ」

「はっ! 街道を逸れ、旧道の森を抜けるルートへ変更します!」


 急な進路変更。だが、その瞬間、アレンの『エリア鑑定マップ』の端に、これまで現れなかった異質な光が灯った。

 ――不気味に明滅する、二つの『赤い点』。

 馬車が迂回路へと入り、森の奥へ進むにつれて、その二つの赤い点はアレンたちの進路を先回りするように動いた後、じわじわと距離を置いて離れていくのがマップの軌跡から読み取れた。


(……見張り、だな。崖崩れで獲物をこの迂回路へと誘導し、奥に控えた本隊で急襲する腹積もりか)


動いている赤い点を選択すると【盗賊】と表示された。

 アレンの唇が、大人の誰も見ていない馬車の影で、歪な笑みの形に釣り上がった。


 前世で修羅場を仕切ってきたリーダーとしての血が、冷徹な歓喜に沸き立つ。

(良いタイミングで出て来たな。王都では試せなかっ【スナッチ】の検証実験が、とうとう出来るわけだ。さぁ、実験台になってもらおうか!!)


 アレンは一瞬で「無邪気な子供」の表情を作り直すと、隣バルトの袖を引いた。

「お父様、少し言いにくいんですが僕の鑑定の汎用スキルの効果で、ボクたちに対して悪意がある人がわかるようになったんです。でも、ボクたちがこの迂回路に入ったら、その点はお山の奥の方へ離れていきました」 


「何……!?」


 バルトの目が鋭く見開かれる。

 バルトが驚いたのは、襲撃の可能性そのものだけではない。アレンが「汎用スキルを覚えた」ということは、すなわち、洗礼から僅か数日でスキルのレベルが上がったことを意味するからだ。歴史上、類を見ない異例の成長速度にバルトの脳内は一時激しく戸惑った。

 だが、侯爵家当主は、すぐに思考を現実の危機へと引き戻した。息子の規格外の才能に驚くのは後だ。今はアレンがもたらしたこれ以上ない確実な情報に対する、迎撃戦術の構築が最優先である。


「ガイアス! 騎士たちを全員集めろ。作戦会議だ。……ネズミどもが、小細工をして待っているらしい」

 バルトの低く地響きのような声が、静かな森の空気をピリリと引き締めた。

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