晩餐会①
洗礼の儀を終えたその日の夜。
王城の格式高き大広間は、豪華絢爛な光と、着飾った人々が放つ熱気に包まれていた。
この晩餐会は、八歳を迎え洗礼を終えた子らとその親たちが、王国の重鎮たちへとお披露目される社交の場でもある。
大広間に足を踏み入れると、すぐに南部の仲間たちがアレンの元へと駆け寄ってきた。カイル、ゼノン、ミーナが、それぞれの親と共に笑顔で合流する。お互いの親同士が挨拶を交わす後ろで、子供たちは周囲に聞こえないよう、そっと声を潜めて話し始めた。
「アレン! 改めて洗礼の儀、おめでとう。俺さ、じつは【剛剣】を授かったんだ! いつか親父を超えてみせる!」
「私は【盾術】だったわ。一族の守り手として恥ずかしくないように頑張らなきゃ」
「僕は【算術】と【地形把握】の二つだったよ。アレン君はどうだった……?」
深く信頼し合っている幼馴染だからこその、秘密の報告。アレンの「三つのスキル」の噂はすでに神官の口から広まりつつあったが、アレンは昼間バルトに告げた通り、ここでも慎重に情報を削って微笑んだ。
「みんな、凄く良いスキルをもらったんだね。僕を信頼して、教えてくれてありがとう!僕のスキルは……神官様から内容を他言無用って釘を刺されたんだけど、【鑑定】と【時空魔法】あと一つはよく分からないんだ。でも、数は確かに三つだったよ。」
「そっか、それだけのレアスキルならその忠告も納得だな。 でも三つなんて本当にすげえよ!」
【スナッチ】については当然の様に隠し、他の二つのスキルは正直に伝えたアレンの言葉をカイルたちは納得し、自分のことのように喜んでくれる。そんな温かな空気も束の間、大広間の中心に近づくにつれ、アレンの周囲にはすぐに別の意味での人だかりができ始めた。
「ロドリス侯爵殿、本日はおめでとうございます! お宅の嫡男殿は、将来の王国を背負って立つ神童ですな。……時に我が家には、アレン殿と1つ違いの愛娘がおりましてな」
「これはアレン様。我が商会が東方から仕入れた最新の魔導具がありまして……ぜひ一度ご覧に」
噂を聞きつけ、将来の婚姻による繋がりや、侯爵家の利権に擦り寄ろうと群がる貴族や下利口な商人たち。アレンは彼らを完璧に愛らしい少年の笑顔で受け流しながら、片っ端から【鑑定】のスキルを発動させていった。レベル1の現状では、見えるのは名前とスキル程度。だが、彼らの「人となり」を測るデータとしては十分だった。
(……ほう、この商会の主は【算術】【弁舌】か。だが、そっちの貴族は【怠惰】……?怠けていればスキルレベルが上がるのか?こいつの領民は気の毒だな。有益な者と、ただの無能。全員きっちり記憶して、後で仕分けてやる)
アレンの脳内のデータシートが次々と更新されていく中、人だかりを割って、東部貴族の重鎮であるグロスタ伯爵と、その息子のエリックが歩いてくるのが見えた。
流石に南部の筆頭貴族である侯爵バルトの目が光っている手前、グロスタ伯爵も体面を取り繕い、慇懃無礼な笑みを浮かべてバルトへ形ばかりの祝辞を述べる。
「これはロドリス侯爵閣下、おめでとうございます。嫡男殿は三つもスキルを授かられたとか。東部でも早くも噂になっておりますぞ」
バルトは侯爵としての威厳を保ったまま、「温情ある女神の悪戯のようなものです」と静かに返した。
大人たちが社交辞令を交わす後ろで、エリックがアレンをじっと睨みつけていた。昼間の前室での狼狽ぶりからは持ち直したようだが、その瞳には明確な対抗心が燃えている。エリックはバルトに聞こえないような低い声で、アレンにだけ向けて囁いた。
「スキルの数が多いからと調子に乗るなよ、アレン。数だけ多くても、中身が伴っていなければただの器用貧乏だ。学園に入れば、どちらが本当に優秀な『天才』か、すぐに思い知らせてやる」
侯爵家に対して直接的な暴言は吐けないものの、子供同士のライバル意識を装ってマウントを取りたい、エリックなりの精一杯の虚勢だった。
アレンはその青臭い挑発に、怒るどころか内心で冷笑した。
(学園に入れば、か。随分と気の長い話だな)
アレンは一変の曇りもない、完璧に健気で謙虚な笑顔を作ってエリックに応じた。
「エリック君の言葉、深く胸に刻みます。僕はまだ自分のスキルを上手く扱える自信がありませんので……学園ではぜひ、二つの優秀なスキルをお持ちのエリック君に、色々と教えていただけると嬉しいです」
「く……っ」
あまりにも模範的で、純粋無垢な対応。
エリックはそれ以上言葉を返すことができず、苦虫を噛み潰したような顔で視線を逸らした。息子の様子に気づいたグロスタ伯爵も「では、我々はこれで」と、そそくさとその場を離れていく。
周囲で聞き耳を立てていた他の貴族たちは、「グロスタ家の息子は青臭いな」「それに比べてロドリス侯爵家の嫡男は、なんと聡明で謙虚なのだ」と、アレンの評価を勝手に引き上げていくのだった。




