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『スナッチ・オブ・ザ・ダーク 〜強奪スキルで異世界を支配する〜』  作者: みちお


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スキル②

自室での検証を終えたアレンは、さらにスキルの限界値を正確なデータとして把握するため、一度庭へと出ることにした。部屋を抜け出し、青々とした芝生が広がる広大な中庭へ。


(次は『時空魔法』の出力と距離、それから『アイテムボックス』の対象制限の検証だ)


 門の方へ視線を向けると、先ほど大聖堂から乗ってきたばかりのロドリス家の馬車が停まっていた。アレンは精神を集中させ、あの巨大な馬車をこの手元へと引き寄せるイメージを浮かべる。


(――来い)


 しかし、空間が歪む気配すらなく、馬車はピクリとも動かない。反応は皆無だった。

 続いて、庭の隅に設置されている大理石の石像に意識を向け、同様に念じてみる。だが、これも結果は同じだった。びくともしない。


 ふと見ると、少し離れた場所で庭師が熱心に植木の手入れをしていた。その足元、主人の傍らに立てかけられている一本の竹箒たけぼうきに目を留める。アレンが強く念じた瞬間、視界の端で箒が掻き消え、次の刹那にはアレンの右手にしっかりと収まっていた。


「なるほど……。片手で持てる重量とサイズ。これが今の限界か」


 重量制限の目安を付けたアレンは、次に有効射程の計測に移った。

 一歩を約一メートルと仮定し、庭師の箒から少しずつ距離を取っていく。十歩、二十歩……。三十歩ほど離れた位置で再度引き寄せを試みたが、今度は全く反応しなくなった。


(現状、有効射程は三十メートル程度。その範囲内にある『片手で保持できる物』が引き寄せの限界値だな)


 能力のスペックが具体的な数値として弾き出され、アレンの脳内のデータシートが更新されていく。

 次は『アイテムボックス』の検証だ。


 アレンは周囲に誰もいないことを慎重に確認してから、先ほど引き寄せに失敗した門前の馬車に近寄り、それを丸ごと収納するイメージを浮かべた。


(アイテムボックス、展開)


 すると、あの大質量の馬車が、音もなく空間の裂け目にすっぽりと収まり、姿を消した。アレンの脳内の収納リストに『ロドリス家の馬車×1』が追加される。引き寄せは無理でも、直接触れるか、あるいは至近距離からの収納であれば重量制限は大幅に緩和されるようだ。


 馬車を元の位置へと静かに戻し、今度は庭の中央にある噴水へと歩み寄った。

 流れる水に手をかざし、収納を試みる。噴水の水が一瞬で全て消えるかと思ったが、そうはならなかった。アレンの感覚の中に、一リットル、二リットルと、まるで計量カップで汲み上げるように少しずつ液体がアイテムボックスへ収まっていく手応えが伝わる。


(固形物以外の流体も収納可能。ただし、体積に応じて一定の吸引時間がかかる、か)


 実験は順調だった。最後にアレンが確かめたかったのは「生体」の収納可否だ。

 ちょうど噴水の縁に、一羽の小鳥が羽を休めに舞い降りてきた。アレンはその鳥をターゲットにし、収納を念じる。

 しかし、鳥は何の反応もなく、ただ呑気に毛繕いを続けている。生き物は収納できないようだ。

 だが、アレンが試しに芝生を這う小さな虫や、池で泳ぐ淡水魚を対象にしてみると、それらは容易く空間の彼方へと吸い込まれていった。


(生き物なら何でもダメというわけじゃないな。……基準は何だ? 知性の有無か、あるいは同種間で複雑なコミュニケーションを取れる高等生物かどうか、といったところか)


 明確な区別のラインをシステム的にどう見極めるべきか、アレンが顎に手を当てて思考に没頭していると――。


「――もう! 坊っちゃま! お部屋にいらっしゃらないから、お屋敷中を探しましたよ!」


 背後から、ぷんぷんと怒ったようなミアの声が響いた。

 振り返ると、彼女は両手を腰に当てて息を切らせている。アレンは咄嗟に「アレンとしての顔」へと表情を切り替え、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。


「あはは、ミア、ごめんごめん。なんだか急に、天気が良くて綺麗な庭を散歩したくなっちゃって」


「全くです! 次からは勝手に居なくならないでくださいね。さあ、夜の晩餐会の準備をそろそろ始めましょう。お召し替えの時間です!」


「うん、分かった。今行くよ」


 ひとまず現時点でできる検証結果には十分に満足した。アレンは自らの内に眠る莫大なポテンシャルに静かな全幅の信頼を置きながら、夜の戦場となる王城の夜会へ向けて、ミアと共に屋敷へと歩き出すのだった。

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