スキル①
こんばんは!
ますます暑くなりキツイ季節の到来ですね・・
そんな時は、涼しい部屋で異世界小説ですね!
ぜひ一度読んで頂けると嬉しいです。
自室に入り、重厚な扉を閉めた瞬間、アレンはベッドへと倒れ込んだ。
「ふぅ……っ」
長い、本当に長い一日だ。
アレンは仰向けのまま、天井を見つめて己の内側を意識した。二十一世紀の日本を支配した「壬生祐介」の冷徹なエゴと、この世界で八年間、温かい愛を受けて育った「アレン」としての感情。その二つが完全に融合し、今の彼を形成している。
「よし……まずは実験だ」
アレンは起き上がると、部屋全体に新スキル【鑑定】を意識的に投げかけた。
・花瓶(花を入れるための陶器製の器)
・魔導ランプ(魔石から魔力が供給され、周囲を照らす道具)
視界に入る全てのオブジェクトに、名前と簡単な注釈が一通り浮かび上がる。完璧な情報収集能力だ。
次に、アレンは机の上に置かれている一本の高級な万年筆に意識を向けた。
(――こちらへ来い)
【時空魔法】の引き寄せを念じた瞬間、机の上のペンが文字通り「消失」し、次の刹那にはアレンの掌の上に現れていた。
「うぉ……っ!? これは、使い方によってはエグいスキルなんじゃないか?」
思わずニヤリと笑みが溢れる。視線さえ通っていれば、相手の武器や重要書類をノーモーションで手元に奪えるということだ。
さらにアレンは、そのペンを空間に収納するイメージを浮かべた。
(『アイテムボックス』に収納)
ペンは再び手の中から消え、アレンの脳内には「アイテムボックス内にペンが保管された」という明確な座標感覚が残った。
どれほどの容量があるのか気になったアレンは、部屋にある椅子、本、クッション、果ては巨大なチェストまで、次々と収納を試してみた。
数分後、部屋の中は見事なまでに空っぽになり、全ての家具がアレンの影に飲み込まれるように消え去っていた。
「なるほど。Lv1でも、部屋一つ分くらいの収納力は余裕でありそうだな」
【ステータスボード】を開くと、スキル欄の『時空魔法』の下に【アイテムボックス】という項目が新しく光っており、意識を集中させると詳細な収納リストが脳内に展開された。
「おいおい、有能過ぎるだろ、これ.....。」
改めてスキルの規格外な有用性を実感する。
(これなら、どんな厳重な宝物庫からでも、欲しい物をノーリスクで盗み放題なんじゃないか……?)
かつての「壬生祐介」としての、倫理を無視した効率主義的な思考が頭をよぎる。
しかし、その瞬間。彼の中の「アレン」としての部分が、激しい拒絶反応を示した。
『絶対に駄目だ。お父様やみんなを裏切るような、不誠実な真似をしてはいけない』
胸を締め付けるような強い自制心に、アレンは思わず頭を押さえた。
「――チッ、あーめんどくせぇな……。まぁ、今の俺はわざわざ他人から盗まなきゃいけないほど、金にも立場にも困ってないからな」
アレンは苦笑しながら、アイテムボックスから全ての家具を一瞬で元の位置へと吐き出させた。
前世の冷徹な悪としての合理性と、今世で培った温かな倫理観。二つの存在が一つになった歪な感情の揺らぎに、アレンはまだ少し戸惑いを感じているのだった。




