洗礼の儀①
今回はとうとう洗礼の儀。
ここからが本番です。
ぜひ読んで頂けると嬉しいです。
洗礼の儀、当日。
ロドリス邸の朝食の席で、アレンは手にした銀の匙が鉛のように重く感じていた。香ばしく焼かれたパンも、最高級の蜂蜜も、今は砂を噛んでいるかのように味がしない。緊張で喉が閉まり、朝食の味など全く分からなかった。
「ははは。アレン、本番まで体力が持たないぞ」
父、バルトが快活に笑いながら、アレンの肩を叩く。その大きな手から伝わる温もりが、今はどこか切ないほどに温かい。
「いいか、アレン。これから授かる『スキル』と『ステータスボード』の内容は、本当に信頼できる者にしか決して漏らすな。強力なスキルであればあるほど、お前を利用しようとする奴が必ず現れる。これは、自分を守るための盾だ」
バルトは真剣な眼差しで、アレンに自身の秘匿情報を明かした。
「私のスキルは【統率】だ。私が南部の筆頭としてやってこれたのは、このスキルがあったからこそだと言ってもいい」
「……お父様。それは、お父様のこれまでの努力や人柄が一番の要因だと、僕は分かっています」
アレンの言葉に、バルトは照れ臭そうに笑う。アレンは知っていた。この温厚な父が、スキルという恩恵に甘んじることなく、どれほど領民を思い、汗を流してきたか。その「信頼」の証を授かった重みを胸に、アレンは大聖堂へと向かった。
会場となる大聖堂へ到着すると、南部の仲間たちが待っていた。不安げなミーナ、周囲を冷静に観察するゼノン、落ち着きなく身体を動かすカイル。彼ら三人の顔を見て、アレンは少しだけ息がつけた。
その視界の端に、派手な装飾を施した一団が見える。東部の有力貴族、グロスタ伯爵家の嫡男エリックだ。彼は早くも自身の取り巻きや格下の貴族を捕まえ、尊大な態度で周囲を睥睨していた。さらにその奥には、凛とした佇まいの王女シシルの姿もあった。
「子供たちは全員、前室へ集まるように」
大神官の厳かな声が響き、アレンたちは「洗礼の間」の控室へと導かれた。
男爵位の子供から順に呼ばれ、一人、また一人と「洗礼の間」へ消えていく。歓喜の声を上げる者、啜り泣きながら戻ってくる者――。
やがて、ミーナ、ゼノン、カイルと順番に呼ばれていった。戻ってきた三人の顔には、一様に晴れやかな満足感が浮かんでいる。
「三人とも、良いスキルを授かったみたいだね」
スキルを詮索するのはマナー違反だ。アレンはただ、三人の表情を肯定するように優しく声をかけた。そして、ついにその時が来る。
「アレン・フォン・ロドリス殿」
洗礼の間。冷たい空気の中に、鈍く光る「スキル水晶」が置かれている。
神官に促されるまま、アレンはドキドキと高鳴る鼓動を抑え、水晶に掌を置いた。
刹那――景色が反転する。
気づけば、そこにはかつて出会った「女神」が待っていた。
その瞬間、堰を切ったように、眠っていた記憶が濁流となって押し寄せた。
壬生祐介。二十一世紀の日本を冷徹な知略で支配した、かつての自分の記憶。女神との契約。そのすべてを、今、完璧に思い出した。
『新しい人生はどうかしら?』
女神の問いに、アレン――いや、祐介は不敵な笑みを浮かべた。
「……悪くない。前の人生とは比べ物にならないくらい、幸せだ」
心からの言葉だった。だが、同時に彼の脳内では冷徹な計算が始まっていた。今の地位、財力、周囲の信頼。そして前世での経験と知識。これらすべてを利用すれば、前世を遥かに凌ぐ力を手に入れられる。
『ふふ、愛に包まれて育った貴方に、あの頃と同じように冷徹に接することができるかしら。楽しみですね』
『そろそろ時間ですね。この世界で8年間生き抜いた、あなたにささやかですが私からプレゼントです』女神に告げられ、アレンはスキルに加え、彼女からの「加護」を受け取った。
「おお……っ! これは一体、どういうことだ!」
意識が現実に戻ると、洗礼の間は騒然としていた。神官たちが水晶に浮かび上がった結果を見て、驚愕の声を上げている。
「スキルが三つ……!? しかも、一つは文字化けして読み取れんぞ!アレン殿、ステータスボードで確認して貰えるだろうか?やり方は、"ステータスボード"と呟けば現れるはずだ」
アレンは神官に促されるまま、無表情に呟いた。
「……ステータスボード」
視界に「ブォン」と半透明のボードが現れる。
【ステータス】
NAME: アレン・フォン・ロドリス
AGE: 8
SKILL:
1.鑑定:Lv1
2.時空魔法:Lv1
3.スナッチ(強奪)Lv1:[空き][空き]
[女神の加護]
【基本能力】
・体力:E ・魔力:S
・筋力:E ・知力:S
・俊敏:E ・幸運:D
八歳の身体ゆえに身体能力は低いが、前世の魂と記憶がもたらす魔力と知力は異常な数値を叩き出していた。
(効果は後で「鑑定」してみるか……)
女神の加護の内容に思考を巡らせつつも、神官たちが「文字化けしたスキル」に混乱する中、アレンは「自分にも見えません」と、事もなげに嘘をついた。
「こんなことは初めてだ.....。どこにも記録がない事例だが、[鑑定]と[時空魔法]だけでも滅多に授かる事のない希少なスキルだぞ」
「アレン殿、そなたが授かったスキルはかなり希少なスキルです。公になれば身に危険が及ぶ可能性がある。ご家族や真に信頼できる者にのみ明かすのがよろしいかと」
(お前達が裏で勝手に言いふらすんだろうが、クソ坊主がっ)
心の中で毒を吐きながらも、アレンは即座に「清廉な貴族の嫡男」としての顔を貼り付けた。
「ご忠告、痛み入ります。その様に致します」
完璧な所作でお辞儀をし、アレンは静かにその場を後にした。
これからどんな展開を迎えるのか、作者にもわりません・・




