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第23話:その「魔力ゼロの打撃」は、構造力学的な『破壊工作』です

岩を物理でハックするのに悩みました。

ドガァァァン!!


爆音が轟き、闘技場に土煙が舞い上がる。

数百人の生徒と教師が見守る中、Aクラスのエリート生徒が肩で息をしていた。


「ぜ、ぜぇ……! ど、どうだ!」


土煙が晴れると、そこには半壊した岩の巨人――岩石ゴーレム(演習用)が立っていた。

表面は焦げて削れているが、まだ稼働している。


「……合格パスだ。火力は申し分ない」


試験官の声に、生徒はガッツポーズをした。

このゴーレムは、魔法防御力が極めて高く設定されている。今の爆裂魔法でも倒しきれないほどの頑強さだ。


「次! Fランク、佐藤航!」


司会の声が響く。会場の空気が、一瞬で弛緩した。


「おい見ろよ、あいつだろ? 筆記試験で0点を取りかけたっていう……」

「魔力ゼロなのに、どうやってゴーレムを倒すんだ?」


嘲笑と憐憫の視線を浴びながら、俺は闘技場の中央へと歩み出た。



俺の姿を見て、観客席がざわついた。

俺は杖を持っていなかった。剣も、槍も持っていない。

代わりに手にしているのは、グリップの長い点検用ハンマー(テストハンマー)と、石工用のタガネ(平のみ)だけだ。


「……なんだその装備は? 日曜大工か?」


審査員席の教頭が、鼻で笑った。


「佐藤航。課題は『ゴーレムの無力化』だ。魔法を使えとは言わんが……そんな貧相な金槌で、花崗岩の巨体を砕けると思っているのか?」

「ご心配なく。……これは適正工具です」


俺はハンマーの柄を短く持ち直した。

現場じゃ、適切な道具選びだとか戦略だとか、そんな曖昧な言葉は使わない。

用途に合った工具を使う。それが基本にして全てだ。対象がコンクリートだろうがゴーレムだろうが、マニュアル通りにやるだけだ。


「始め!」


開始の合図と共に、全長3メートルの岩塊が動き出した。

ゴゴゴゴ……!

重厚な足音を立てて、ゴーレムが俺に迫る。



ブォン!!


ゴーレムの右腕が、風切り音を立てて薙ぎ払われる。直撃すれば即死コースだ。


「……おっと」


俺は半歩下がり、最小限の動きでそれを躱した。

足場が悪い現場で鍛えたバランス感覚だ。重心移動だけで攻撃範囲から身体を外す。


「逃げ回っているだけか! 臆病者め!」


教頭の野次が飛ぶ。

だが、俺の目はゴーレムの動きではなく、その表面を凝視していた。


「(……遊んでいる? いえ、あの目は……建物の外観検査をしていますわ)」


観客席の最前列で、凛だけが俺の意図に気づき始めていた。

俺のスキル『保全管理の眼(システム・デバッグ)』が、岩塊の表面に走る微細な情報をスキャンしていく。

視界に、無機質な解析ログが滝のように流れる。


> [TARGET] 演習用岩石ゴーレム(花崗岩質)

> [STATUS] 表面硬度:7.0(魔法耐性:高)

> [ANALYSIS] 構造欠陥スキャン中……完了

> [WEAK POINT] 左膝関節部:マイクロクラック検知(深さ15mm)

> [ACTION] 打撃推奨:タガネによる「クサビ効果」にて応力破壊可能


岩の密度、結晶の並び、応力の集中するポイント。あちこち叩いて回る必要すらない。

プロは、見るだけで分かる。


(……見つけた。製造時にできた()だ)


俺は目を細めた。ゴーレムの左膝、関節の継ぎ目付近。

そこだけ、岩の(層理)が僅かに乱れている。構造上の急所(キーストーン)だ。



「グルルルルァァァ!!」


ゴーレムが両拳を振り上げ、必殺の叩きつけを狙ってくる。

俺はその懐(ふところ)へ、迷わず飛び込んだ。


「死ぬ気か!?」


誰かの悲鳴が上がる。

だが、俺にはスローモーションに見えていた。落下してくる重機を避ける要領で、俺は死角へと滑り込む。


狙うは左膝の一点のみ。

俺はタガネの切っ先を、視認した亀裂へ正確にあてがった。

角度よし。石の目(へき開)、確認よし。


発破ブラスト……物理だけどな」


俺は呼吸を止め、右手のハンマーを振り下ろした。

力任せじゃない。インパクトの瞬間にだけ力を込める、解体屋のスナップだ。


カァァァン!!


闘技場に、澄んだ、美しい金属音が響き渡った。

一瞬、時が止まったように見えた。ゴーレムの動きがピタリと止まる。


「……は? 何も起きてないぞ?」


生徒の一人が声を上げた、その直後だ。


ピキッ……。


タガネを打ち込んだ膝から、蜘蛛の巣のような亀裂が走った。

それは生き物のように全身へ駆け巡り、岩塊の結合を一瞬で断ち切っていく。


ズザザザザザザァァァ……!!


轟音。巨像が、まるで砂の城のように崩れ落ちた。

3メートルの巨体が、一撃の下にただの「砂利の山」へと変わったのだ。



もうもうと立ち込める砂埃の中、俺はゆっくりと立ち上がった。足元には、完全に粉砕されたゴーレムの残骸。


シーン……。


会場は静まり返っていた。爆発も、閃光も、派手なエフェクトもない。ただ一度、ハンマーを振っただけだ。


「……う、嘘だろ……?」

「ま、魔力反応ゼロだぞ!? 今の何だ!?」


教師たちが測定器を叩いている。そして、生徒たちの間からどよめきが広がった。


「おい、見たか今の……。表面を傷つけず、衝撃を内部にだけ通したぞ……!」

「まさか、東方の暗殺拳……浸透勁か!?」

「武術の達人だったのかよ……!」


勝手な解釈が進んでいく。俺は砂埃を払いながら、タガネをポケットにしまった。


「……ただの共振破壊だ」


俺は教頭に向かって言った。


「どんな硬い岩にも、固有振動数と(もろい方向)がある。製造時に発生した内部応力(残留応力)のひずみを見つけて、そこにタガネで『きっかけ』を作ってやっただけだ。あとは自重で勝手に崩壊する。ガラスみたいにな」


俺はハンマーを肩に担いだ。


「現場じゃ、これを解体工事って言うんだ」



「……さ、採点!」


司会に促され、教頭が青ざめた顔で立ち上がった。


「ま、魔法を使っていないので0点……と言いたいが、課題は無力化だ。……粉々になっていては、文句のつけようがない」


教頭はギリリと歯ぎしりをした。


「……合格だ!」


ワァァァァッ!!

会場から歓声が上がる。

Fランクの落ちこぼれが、エリートを凌ぐ一撃を見せたのだ。今日を境に、俺への評価は「無能」から底知れない実力者へと変わるだろう。


「……武術の心得までおありでしたのね」


戻ってきた俺を、凛がキラキラした目で出迎えた。


「航くんの底が見えませんわ。……素敵です」

「いや、だからただの解体作業だって……」


俺は苦笑しつつ、闘技場を後にしようとした。

その時だ。


ふと、夕暮れの空を見上げる。

学園都市の中央にそびえ立つ、街の守りの要――「大魔導灯」。

その先端にある巨大な光の結晶が、一瞬だけ不自然に瞬いた気がした。


チカッ……チカチカッ……。


「……ん?」


俺は足を止めた。魔法的な明滅じゃない。あれは……蛍光灯が切れる直前のような、不安定なチラつきだ。

俺の視界の端に、警告ウィンドウが小さくポップアップした。


> [WARNING] 都市インフラ異常検知:大魔導灯メインコア

> [ERROR] 魔力出力変動率:±15%(許容範囲外)

> [PREDICTION] 完全停止まで:残り48時間(推定)


「あの街灯、切れかけてないか? ……嫌な予感がするな」


俺の現場監督としてのアラートが警報を鳴らしている。

試験は終わったが、もっと大きなトラブル(現場)が、すぐそこまで迫っていた。


次回、学園都市の夜を揺るがす「インフラ崩壊パニック」が幕を開ける。


本日も一日ご安全に!

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