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第22話:その「0点の回答用紙」は、未来の魔導理論(論文)です

凛ちゃん何気に煽りスキルが高いです。

「佐藤航。……貴様は、教師を舐めているのか?」


放課後の職員室。

マホガニーの重厚な机の向こうで、教頭が俺の回答用紙を汚いものを見るように摘まみ上げていた。


「問1。雷弾ライトニング・スフィアの術式構築。……なんだこのラクガキは。ルーン文字が一つもなく、あるのは奇妙な直線と記号だけ。神聖な魔法への冒涜だ」

「それは回路図です。教科書のルーン文字は装飾過多で、エネルギー伝達のロスが大きすぎます。だから日本産業規格(JIS)……いえ、効率的な統一規格記号に置き換えました」

「黙れ!」


バン! と教頭が机を叩く。周囲の教員たちがビクリと肩を震わせる。


「魔法とは芸術であり、歴史であり、精霊との対話だ! 貴様のこれは……ただの配線図ではないか!」


教頭は真っ赤なペンを取り出し、回答用紙にバツ印を書き殴った。紙が破れるほどの筆圧だ。


『0点』


「約束通り、今回の試験は不合格だ。……特別校務員の資格を剥奪し、退学処分とする。即刻、寮を出て行け」



「0点? ……納得いかないな」


俺は眉一つ動かさずに言った。

ここで退学になれば、俺は路頭に迷う。生活がかかっているんだ、引くわけにはいかない。


「俺の計算では、その術式が最も効率的だ。教科書の術式が『白熱電球』だとしたら、俺のは『LED』だ。同じエネルギー消費で、出力が段違いなんだよ」

「はっ、Fランクが吠えるな。LEDだと? 聞いたこともない古代語を」

「……失礼します」


その時、職員室の扉がノックされた。

凜とした声と共に現れたのは、北条凛だ。

入学試験をトップで通過した学年主席として、彼女には職員室での発言権が認められている。


「教頭先生。航くんへの退学勧告、少し早計ではありませんこと?」


凛は俺の横に並び、教頭を真っ直ぐに見据えた。


「私は勉強会で彼の理論を見ました。……そこまで役立たずと仰るなら、実際にこの術式を起動してみればよろしいのでは?」

「なに?」

「発動しないことを証明すれば、退学も正当化できますわ。……それとも、ご自身の採点に自信がありませんの?」


凛の挑発に、プライドの高い教頭の顔が朱に染まる。


「……ふん。いいだろう! 学年主席ともあろう者が、Fランクの肩を持つとはな。……いいだろう、君がやってみたまえ。君の手で、このラクガキが何の役にも立たないゴミであることを証明してやる!」



場所を移して、魔法実習場。

コンクリートの防壁と、頑丈な木製の人形(ターゲット)が並ぶ。


「……ごめん、凛。俺には魔力がないから、実証はお前に頼るしかない」

「構いませんわ。航くんの理論が正しいこと、私が証明してみせます」


凛はターゲットの前に立ち、俺の回答用紙(回路図)を見ながら、術式の構成をイメージし始めた。

俺は腕組みをして、現場監督として指示を飛ばした。


「いいか凛。よく聞け」

「はい」

「俺の図面は抵抗レジスタンスを極限まで排除してある。いつもの感覚で魔力を流すと、過電流オーバーカレントで回路が焼き切れるぞ」

「えっ?」

出力バルブは100分の1に絞れ。……豆電球を灯すつもりでいい。全力でやれば、短絡ショートして爆発だ」

「ひっ……!? ば、爆発……?」

「いいから絞れ。……ターゲットを消し炭にしたくなければな」

「……しょ、承知しましたわ」


凛はゴクリと唾を飲み込み、指先に静電気のような、極めて微弱な魔力を込めた。



「行きます……『ライトニング・スフィア(改)』!!」


凛が指先を突き出す。

通常なら、静電気のパチッという火花が生まれる程度の魔力だ。


だが。


俺が設計した直列の回路(抵抗ゼロ)を通り、魔力は一切減衰せず、さらに増幅回路(バイパス)を経て臨界点へと達する。


キィィィィン……ドォォォォン!!


轟音などという生易しいものではない。

大気が裂けるような高周波音と共に、凛の指先から極太の荷電粒子砲(レールガン)が発射された。


「えっ!?」


それは木の人形を一瞬でプラズマ化させ、背後のコンクリート防壁をも貫通し、さらにその奥の土手をも消し飛ばして、空の彼方へと突き抜けた。


ジュッ……。

実習場の空気が、強烈なオゾン臭と焦げた匂いで満たされる。



「な……なん……だ、これは……」


教頭は腰を抜かし、へたり込んでいた。

口をパクパクさせながら、目の前に開いた大穴(クレーター)を指差している。

初級魔法一発の威力ではない。戦略級魔法の跡地だ。


「言わんこっちゃない」


俺は空を見上げながら、淡々と解説した。


「抵抗負荷がない回路に高電圧(魔力)をかければ、熱暴走を起こしてこうなる。……教科書の術式は、わざと複雑にして抵抗を増やし、出力を抑える安全装置リミッターだったんだな」


俺は教頭を見下ろした。


「で、どうですか先生。これでも役立たずのラクガキですか?」

「……」


教頭は青ざめた顔で、何度も首を横に振った。

これを0点にすれば、この破壊力の原因を説明できない。かといって満点にすれば、今までの授業内容が非効率だったと認めることになる。


「……じゅ、術式は機能した。しかも過剰にな。……0点というわけにはいかん」


教頭は震える手で、俺の回答用紙を取り上げた。


「だが、あんな危険な術式を正解にはできん! 設備破損の減点だ! ……60点()とする!」

「ちっ。設備破損は俺のせいじゃないだろ……ま、合格ならいいか」



帰り道。

夕暮れのキャンパスを歩きながら、凛が紅潮した顔で俺を見つめていた。


「信じられませんわ……。私、ほとんど魔力を使っていませんでしたのに、あんな威力が……」

効率(燃費)が良くなっただけだ。……ま、制御できなきゃ欠陥工事だけどな」

「いいえ! ご自身の魔力を使わず、私ごときの魔力をここまで引き上げるなんて……。これぞ王の指揮ですわ!」


凛の瞳が、また一段と熱っぽくなっている。

やれやれ、また勘違いゲージが溜まってしまったか。


「……それより、次だ」


掲示板の前で足を止める。そこには、次の「実技試験」の案内が張り出されていた。


『実技課題:岩石ゴーレムの破壊』

『条件:単独で対象を無力化すること』


「航くん、どうしますの? 今度は私が代わりに撃つことはできませんわよ?」


実技試験は個人戦だ。魔力ゼロの俺には、魔法が撃てない。

だが。


俺は作業ズボンのポケットから、愛用の点検用ハンマーとタガネを取り出し、その重さを確かめた。


「……魔法が使えないなら、『物理』で叩けばいい」

「え?」

「どんな堅牢な岩にも、必ず目(弱点)がある。……解体工事の時間だ」


俺はニヤリと笑った。

次回、エリートたちが魔法で苦戦する横で、俺のハンマーが火を噴く(物理的に)。


次回、学園都市の夜を揺るがす「インフラ崩壊パニック」が幕を開ける。


本日も一日ご安全に!

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