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EP91 グロゥイング・マインドシードⅠ


______「ここ、この洞窟に下衆様がいた痕跡があるわ」

「Reno、御主人様はもう宿屋で一泊(いっぱつかも)してんのよね」

「それはないわ桔梗、あの糞ウサギがそれを許さないから」

「ボクだって許さないのよさ!」



 こちらはレイジー。

______私が持ち込んだバッグパックの中を探ると、いつ紛れ込んだのだろうか、恐らくレティキュラム号に戻って、いろいろな実験パーツを無造作にバッグに詰め込んだ時だろう。

地球ならどこにでもありそうな、薄いニッケルナットが二つ転がっているのを見つけた。

よく見ると丁度、アディに話して指輪にしようと思った通りのピッタリサイズである。(目視で計った事はなく、バニラ・アイスの薬指で試した)

『あの時のバニラと来たら、突然の機能不全に陥ったが、その原因は分からなかった』


 確か昔、ボルト・ナットを指輪代わりにプロポーズした、日本の伝説的ドラマがあったくらいだ。

「御主人様、それは101発目のなんとやらです」

「バニラ・アイス、お前はそこまで私が努力(おんなのまたにちから)をして、やっと出来たんだぞ」

「わたしは人間じゃないんです!」

 プンスコ

『この怒りは、私は人間として生まれたかったからよね』


◇結婚指輪◇

______ニッケルは光沢のあるアルミのようで、これは特別な銀だと言い張ればそう見えるが、利用価値は高いが地球ではありふれた金属だ。

六角が付いたナット。それを最新のデザインだ言えば、見た事もないアディなら、きっと誤魔化せると思った私だ。

『ぷくぅ。バニラちゃんなら、どんな指輪でも宝物なのに......』


「ふっ、これならいける! 私には大金などないんだ。誰が言ったか知らないが、<小銭のレイジー>とは私の事だ」

「どこまでアホなんです?」

「はは、バニラ・アイス、我ながら笑えん話だ」


 私はレイジー印ドラッグストアの店主ではあっても、実質はジョーが薬と偽聖母マリア様の<お告げアテレコ>で稼いでいる。他にはありがたグッズもあるが、これも私が手を出してはいないのだ。

 作るのは手先が器用なデリーシャや、時々ルチアやルルまでが手伝ってくれている現状で、それにデブーラ男爵様が、バックアップをしてくれている。


「私はヒモか? 一番の働き者はジョーとデリーシャだ。成る程、ジョーがいつもボクを蔑(ないがし)ろにしてと、プンスコ怒る訳だ」

そんな事を考えていると、バニラ・アイスの機嫌がまだ悪い。

『ニッケルでも、御主人様はあのエルフの左薬指に、スケベーな顔をして......』


「そんなの絶対に嫌だ! 別名スーケコマーシの父ちゃん、あんなのにはニッケルでももってのほか! 竹輪(ちくわ)でいいのです」

 げぇ? ス、スーケ コマーシい 竹輪?

「バニラ、お前この頃いったいどうしたんだ?」


 気がつけばバニラ・アイスは大声を出していた事に気付いた。

込み上げる感情(しっと)がそう言わせたのだろうか。

思い出せば二年前には、ご主人様と暮らしていた南海のジャーブラ島で、二人だけで一年間を共にしたのだ。

ジョーが来る度にしたあの嫌がらせは、今思えば完全に嫉妬だった。Ai-myu96がそれは間違いないと、最近気づいてしまったのだ。


「私はアンドロイドで、ジョーは人間の女......その時は、アンドロイドとして作られた私の......それが当たり前の役割だと思ってた。だから昔のトーキョー秋葉メイドみたいに接して、御主人様の役にたとうと......」


 その紛れもない本心に気づいた時、バニラ・アイスのAi-myu96は、なんと進化を始めたのである。それは思いもしない<芽生え>という名の進化だった。

桔梗、Reno、kanna、ファーズ、Niko達も、時間の差こそあれど、徐々にバニラの後を追う事になるだろう。同じAi-myuシリーズが内蔵されているのだから。


 これがIQ280のレイジーでも分からない、あの5mm角の謎の黒いチップの正体=<グロゥイングマインド・シード>の第一段階だった。

絶対解析不可能なその<シード>は誰が作り、どこから立木陽介の手に渡ったのだろうか。

その目的を、赤渕眼鏡をかけた白衣の存在αは、果たして知っているのだろうか。


◇エスタリカ王国裏取り◇

______私達の拠点はアディのコネで、エスタリカ王国冒険者組合<炎の刃バー二ング・ブレイド>で、暫く世話になる事になった。

早速、私とバニラ・アイス、アディの三人が、私立探偵よろしく城下で訊き込みを開始し、その最初となったのは子供達である。

子供は正直で大人は嘘を口にする______子供と大人の情報が合致すれば、それは本物の情報となるだろう。


 最初に出会った子供の身なりは、裏通りでもないのに酷く貧しかった。

「これは? そんな馬鹿な!」

アディは有り得ないと疑問を口にするのだった。

ある子供はレンガの壁を背にして、朝からぐったりと座り込み、その瞳には生気を感じられなかった。


______ねぇボク。

 アディが最初に問いかけた。

「なに? 奇麗なエルフのおねぇちゃん。 ボク、おなかぺコペコ なにかくれるの?」

見た目が貧しくそれに空腹。これでは貧民街の物乞いと同じ姿だった。

アディが<馬鹿な>と言ったのは、活躍していた八年前では考えられない光景だったのだ。

それから何人かの子供達に訊いても、皆、腹を空かしていたのは同じだった。

「おかしいぞレイジー」


 ここで小銭を渡したとしても、そんな子供達が大勢いる。それでは根本的な解決にはならない。

原因を見つけ出して王国に対策をさせるのが妥当なのだが、原因が王国に有れば、別のアプローチが必要になる。


「レイジー、アタシが居た頃より随分と様変わりしてしまっている。街に活気を一切感じない。これは一体どうした事だ」

「あぁ、見た通りこれは酷い有様だな」


「とうちゃん、私が夕方に様子を探った時も、食べる物が少なくて、家の中から貴族を呪う愚痴が零れてたよ」

バニラの耳は超高性能。屋根に上がれば、周囲100mの家の中の会話を訊き取る事が出来る。


「む、アディ、お前が住んでいたエスタリカ王国の闇は、相当深そうだぞ」

「あぁ、今日はこれ位にして、帰って情報を整理しようか」

 あぁ。



 半日かけてある程度の裏はとった______

冒険者組合<バー二ング・ブレイド>に戻って夕食後、ギルマスを吊るし上げれば、何かが分かるだろう。

「レイジー、その役はアタシに任せろ。あいつは何か知っている筈だからな」


「あのさ父ちゃん、愚痴の事だけど、名前を知らない貴族の名前ばかりだった。公爵ラーモンの息がかかってる一派と推測するよ」

バニラの情報にアディは驚いた。短時間の間に、かなりの情報を得て来たからだ。

『この糞ウサギ......前からずっと思っていたが、どうもおかしい』


「なぁレイジー、お前の娘、なんでそんなに有能なんだ?」

 あれ?

「バニラの事、まだ分かっていない? これは、はっきりさせなければいけない」

「なにをだ? レイジー」

 はっ!

『愛の 愛のカタチを......はっきりと! それ即ち......コ、コ子作りぃぃ』

 はぁ

  はぁ

 これでアディのバニラに感じた疑惑は、すっかり吹っ飛んでいた。



◇公爵の摂政政治◇

______打合せ通り、その夜に世話になってはいるが、ギルマスを吊るし上げた。


「アタシが居た時より、随分な様変わりだな。貴様何か知ってるんだろう? ギルマスのお前が何も知らんとは言わせんぞ。久々にアタシのアレを食らってみたいか? 一週間、女になりたいのか、どうだ、あぁん!」

アデリアの必殺<タマキン・エスケイプ>。その猛威はエスタリカ王国の荒くれ者なら、知らぬ者は居なかった。


 ひ、ひぃ~

「分かった、あれだけは止めてくれ。仮にもギルマスだぞ俺は。毎日内股でギルド内を歩ける訳がない。勘弁してくれ」

「ふっ、うちの荒くれ(ジャッカル達三バカトリオ)も大人しくなったからな」

 ふぅ

ギルマスは気を取り直し、股間を摩りながら八年前を回想するのだった。


______「アデリア、おめぇ等が引退したのも関係しているんだぜ。あれからな、国王が亡くなって、第一王子のモレータゥラが即位したのだが、その国王の死もキナ臭い噂があったんだよ」


 ボンクラで有名な第一王子のモレータゥラは、好色で浪費家のうえ、政治には全く無感心な王子だ。当然、王国城下の人気などある訳もない。

「第二王子パトゥリック様の自殺、Sランク冒険者<氷炎のザ・フォース>の引退、城下の希望の星が二つも消えたんだよ」


=ス~ケ コマ~シ、これは確定案件だよ=

=公爵ラーモンの摂政政治のせいだな=


「しかしだギルマス。王国正義のロイヤル四将軍はどうしたんだ? 将軍達がいて、この有様は合点がいかん」


______エスタリカ王国ロイヤル四将軍。俗にクイントリックス軍団である。

◇第一軍団将軍メビウス・フォン・ブラッケ

王国主力打撃軍____主力だけあって32,000の大軍団である。


◇第二軍団将軍グリーガー・ワルトフ

王国槍兵、弓兵、補助打撃軍____主に第一軍団の両翼から補佐する15,000の部隊。


◇第三軍団将軍レイラン・ウイドゥ

王国攻撃魔法、マス防御魔法、ヒーラースペル部隊

一人一人がB+とAランクを誇る7,000の大魔法部隊。

ちなみに女将軍である。


◇第四軍団将軍バーモン・カットラー

ワイバーン300匹を要する6,000の王国空軍部隊。非戦闘時は偵察任務で、戦闘となれば空中から魔法弾の雨を投下する。


______亡きエスタリカ王国フォルーンス・エスタリカ国王は、無能で好色だが野心は旺盛であった。

しかし、その先代国王フォルーズゥース・エスタリカは、現将軍達が今でも忠義を捧げる名君だったが、フォルーズゥース国王の死後(あんさつ)、彼らは変わってしまった。

その原因は、言うまでもなく公爵ラーモン・デイ・パッドであった。




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