EP90 芽生えと葛藤
エスタリカ王国冒険者組合で歓待を受けた私とアデリアは、ギルマスの執務室で歓談を続けていた。
バニラ・アイスは、情報取集で街中を飛び跳ねている。
______しかし考えてみれば、おかしいと思う事があった。
「おいギルマス、王国四将軍はどうしたんだ? 彼等四人が揃っていて、治安と生活が悪くなるなんて事は有り得んだろうが」
ムッ それか.....。
するとギルマスは顔を曇らせ、徐に口を開くのだった。
「そうさな、その通りだったともアデリア」
だった?
「第二王子パトゥリック様の自殺は知っていたか? 王国の民に絶大な人気のあった、あの王子様が自殺するなんて誰も思っちゃいない。俺達の希望の星、憧れの存在だったんだからな」
「あぁ、それは妹から訊いている」
「なに? いったい誰の妹だ?」
悲劇の王子______
第二王子パトゥリックは、王国庶民の暮らしぶりを肌で知る為に、月に何度も城下街を訪れては、声なき小さな願いも拾い、いろいろな要望を出来る限り叶えられるよう、心を砕き続けていたのだ。王子は自分の私財を惜しみなく使っても、それを行ったのだ。
何もしない貴族の良い評判など、もともとある筈もない。
それを快く思わない国王派の貴族は多かった。その筆頭が公爵ラーモン・デイ・パッドだったのだ。
<下賤な下層の畜生どもに媚を売ってどうなる。アレは実に邪魔でしかない男だ>
国王派貴族の前では、それが口癖となっており、賛同の意を唱える貴族達の支持を受ける事になる。
「あぁ、その時アタシ達の仲間の一人が死んだ......」
「セイミ―、そうだったな。それからすぐおめぇ等Sランク冒険者<氷炎のザ・フォース>が解散しちまって。一体今までどこで何をしていたんだ? 全く何年も連絡も寄こさないでよ!」
それもそうか。
「バイソンとモーリンは今、デルモンド王国の片田舎で、ナイト・メア亭と言う宿屋をやっている」
「なんて名前を付けてんだ? 悪夢じゃねぇか。そんなんじゃぁ客が来ねぇだろが」
「名前なんていいだろう。黙って訊け。ルルって女の子が生まれたしな。アタシはギルドマスターを......アタシが出来る事はそれ位だ」
後悔なのか、アデリアの碧眼は曇っていた。
「そうかバイソンとモーリンに子供が、セイミ―が訊いたら、きっと喜んでくれただろうに残念だったな」
エスタリカ王国に来た以上、覚悟はしていた。その筈だったのに、アデリアはまた思い出したくもない、セイミ―の死顔が脳裏に浮んでしまうのだった。
うぐぅ
強い意思を持っていると自負していた。なのに雫が頬を伝った事にさへ気づけていなかった。
『アディ......』
私はアエリアから訊いたセイミ―の死の真相には、間違いなく公爵ラーモン・デイ・パッドが絡んでいると確信している。それも含めての情報取集であって、バニラ・アイスに探索行動を命令しているのだ。
疲れもせず、目も耳も高性能なアンドロイドだから出来る事であるのだが、探索中のバニラ・アイスは不満を口にしていた。
『糞エルフめ、ご主人様、この見返りは10倍返しですからぁ』
アデリアが流した雫に怒りが込み上げてくる。私は、自然とアデリアの手を握る事で、自分の中にそれを押し込めた。そうしたのは私自身の為でもあったのだが、自分でも驚く程の怒りだったのだろう。
はひ? 急にアタシの手を。
『今は証拠集めの時だ。冷静になるんだ私! 私は科学者だろ!』
「アデリア、もう遅いから部屋に戻って休ませて貰おう」
あ? もうそんな時間なのかレイジー?
夫婦なのだから、ギルマスが用意したのは大き目の一部屋。娘のバニラ・アイスは隣の個室である。
「アデリアの旦那の言う通りだな。ちゃんとWベッドを用意してある。新婚なんだから、がんばれ。サービスで遮音振動消去魔法も出来るぞ」
ニヤリ
「じゃぁ、程々にしとけよアデリア」
バタム
不敵なニヤケ顔を残して、ギルマスは執務室を出て行った。
「ふむ、行ったか」
アデリアにとって、最高の門出と悲しい一日となった。
それもレイジーと二人で部屋に入った途端、事の重大さにに気づき、急にオロオロし出したのである。
ギルマスの言った、Wの一言にだ。
「どうしたんだよ? ※アディ」
は、はひ
※アデリア
私は雰囲気を変えようと、親しみを込めてアデリアをそう呼んだ。
「ア、アディだと? レ、レイジー、アタシはまだ心の準備がだな、分かるだろ?」
ドックン
ドックン
はぁ はぁ
「休むだけでしょ。どうした? 私はバニラ・アイスの部屋で寝るから、ではお休みアディ」
バタム
ほえ?
お~い?
______翌日のアデリアの目には、立派な隈が出来ていた。
モンモンとして一睡も出来なかったのは、その隈が物語っているのだ。
「おいおいアデリア、程々にしとけって言っただろ。徹夜か? ま、新婚様ならしょうがないよな。ガハハ いやぁ~まいった、まいった」
いや、そうでは......
「照れるな照れるな。若いっていいよな、俺は羨ましいぜ」
所変わって、私は一人で食堂に降りた。
「おはようございます、ギルドマスター」______
「あ、これはこれは旦那様、朝まで努力されたようで」
「え? お陰様でグッスリでしたよ?」
ギルマスは大きな勘違いをしているが、アディと違って私はグッスリで、お陰で爽快そのものである。
「おぉ、旦那様は絶倫でしたか。アデリアとはお似合いですな」
______私が起き出した頃、探索を終えたバニラ・アイスが帰って来た。
食事をとらない口実も含めて、夜の探察に出たのだが、内心、御主人様がアデリアとどうにかなってしまう妄想と不安で、Aiの性能が30%ダウンしてしまっていた。
「と、父ちゃん、夜中だし大した情報はなかったよ」
必死に、いつものペースを繕った。
「まぁそうだろう。しかしご苦労だった」
アンドロイドのバニラ・アイスに、休めと言ってもおかしな話ではある。
「私とアディが朝飯を食べた後に、理由を付けて来ればいいよ」
うっ、アディって......。
バニラ・アイスはいつからだろうか、どうして自分はアンドロイドで人間ではないのだろうと、自分に葛藤するようになっていた。
◇観察者αの思惑◇
______「二年以上かかった。......でもやっと発芽したわ。立木両親も息子のレイジーも、5mmの黒いチップだと思っているアレ。ウサギちゃんが一番早く発芽したのは私の狙い通り。さてさて、後は侍チャイナとツンデレメイドに社長秘書、順調に育ってくれればいいんだけどねぇ」
しかし<保毛坂48>エントリーナンバー3Farzと4のNiko、残る44体も同じチップを内蔵しているのだ。
仮に観察者αと呼ぶこの女? その狙いは一体なんなのだろうか______。
◇王都情報収集◇
______私とアデリアは偽装新婚夫婦であり、バニラ・アイスは養女と言う設定の筈である。
その為に私は、アデリアをアディと呼ぶ事にしている。
「レイジー......あなた。慣れないわね。城下で指輪を買ってくれるんでしょ? それならいいお店を知ってるから、アタシが案内するわ」
指輪はあくまで偽装を裏付ける為で、安物でいいのだ。
「オリハルコンはどう? それとも定番のダイヤ」
「おいアディ、私は金がないんだ。そんな高価な指輪は買えないんだ」
「ふん、ちょっと言ってみただけだ。いいだろその位」
安物で指輪に見えるならと、私はあるモノを思い出した。
「アディ、とっても珍しい指輪を持っていたよ。ニッケルって言うんだけどね、わざわざ買わなくても、一度それを見てからでどうだい?」
『ほう、レイジーの事だ。世にも珍しいニッケルと言う指輪を持っているのかもしれない』
「そ、そうか。ならそのニッケルの指輪、楽しみにさせて貰おうか」
内心大喜びのアデリアは、気を良くして城下の子供達に話を訊く事にした。
「えーと、あなた、情報は子供から先に訊こう。何しろ大人より正直だからな」
「確かに......まだ慣れないよね、その呼び方......アディ」
バカ
いきなり大人に訊いても、それが本心とは限らない。ここはアデリアの言う通りだ。
2025新春十数話で読み切り
超電磁ファイターズ 悪役令嬢V結成譚 連載中




