EP81 悪魔の集団は今
______私達が住んでいるデルモンド王国、デブーラ男爵領の片田舎が、今変わろうとしていた。
もう地球に戻れないのなら、この異世界で平和に暮らそうとデブーラ男爵の許可を得て、観光聖母様村を作ろうとしている私である。
その為には、まだ色々な問題はある。けれど私の計画に反対する者が皆無だったのも幸いしていた。
有能な人材としてハメリア合衆国情報部、緑の5人も仲間になったのもその一つ。
なにしろ彼等はジョーを追って火星まで追跡してきた。本当なら私の敵だった5人だ。
彼等の狙いはAi-myuシリーズと、地球ではまだ開発出来ていない重力Gエンジンにあって、最大の目的が火星の領有権を獲得する事にあったのだ。
もちろん異世界の私やジョーが、彼らが追って来たターゲットだとは知らない訳だが、アンドロイドの娘達の事もいずれ知れる事になるだろう。
◇切っ掛けはあのゴジラ◇
______順風満帆かと思われた時、体長10mという日本のSF怪獣ゴジラが出現、バニラ・アイスとアデリア、ルチアのコンビネーション技でなんとか退けた後、次は謎のダンジョンで、伝説の<魔剣>らしきお宝をゲットしたのだが......。
それをどう扱っていいのか分からず、今はナイトメア亭の壁飾りになっていた。
魔剣の扱い方や性能が分かれば、桔梗のよい武器となるだろう。
更に同時にアエリアの複雑な事情も知る事となり、解決しなければならない問題も増えていった。
そしてもう一つの厄介な問題が、次第に私達の前に姿を現そうとしていた事を私は知らないのである。
◇ルルシア帝国の5人◇
______デルモンド王国の北、寒いエスタリカ王国に飛んだのは、敵対するルルシア帝国である。
ライト・ブラウンの迷彩服に身を包んだ彼等は、どうしてエスタリカ王国に決めたのだろうか。
その説明には時を一年遡る必要がある______。
南国のジャーブラ島から火星に逃亡しようとした私達と、ハメリア情報部のジョーの追跡に失敗しても、プランBの火星着陸後の住居と、緊急脱出を兼ねた彼らのシャトルには、奇遇にもハメリア合衆国と同じく乗員が5人とローバーが2台、高性能太陽光電池パネルなどを搭載し、なお貨物スペースも備えていた。
その全貌は、全長37mを誇るNASAスぺ―スシャトルよりも巨体になっていた。
2054年にもなれば宇宙船の構造材とエンジン、燃料、酸化促進剤の改良もあって、1960年代のサターンロケットより、各段に省エネ高効率を実現出来るまでに進歩している。しかし所詮ロケット推進の延長線ではある。
それでも両親が、アンドロイド<保毛坂48>を使って建造したレティキュラム号に比べれば、原始的な推進法だと言わざるを得ない。
宇宙船がいくら巨大化しようとも、重力が地球の1/6の月面基地で建造するなら可能であり、もはや地球で建造する必要がなくなっていたのだ。
その2機のロケットは異世界に飛ばされ、切り離したシャトルでなんとか緊急着陸に成功し今に至っている。
シャトルに残された燃料は50%。そして異世界の地で暮らすのに彼らが選択したのは、ある情報を得て祖国ルルシア帝国のような、寒い北のエスタリカ王国に魅力を感じたようだ。
その理由は信じがたい事に、寒い方が度の強い酒が美味いからだと言う。しかし他にもまだ理由があった。
◇異世界暗殺集団<暗闇>◇
______ルルシア帝国にとってこの先、総重量20トンを超えるシャトルを飛ばせば、燃料が尽きて二度とは飛ぶことは出来なくなる事は承知の上だ。
宇宙空間からの航行ではなく地上から再度ランチするには、燃料の消費は当然激しくなってしまう。
最後となるフライトに時間をかけて準備している間、ルルシア帝国は暗殺集団<暗闇>と接触をはかり、お互いに仲間意識を持てるまでになっていった。
その理由は、ルルシア帝国軍人と暗殺集団には通じるものがあったのだろう。共通しているのは金や欲の為なら、冷酷に人間を捨てられる事だ。
この人間性の違いで、私達とルルシア帝国が敵対する事は確定していた。
いろいろな情報は南の原住民より、<暗闇>から得たものが多く、彼らが好む最終地点、北方エスタリカ王国に決める事に役立っていた。
どうして暗殺集団<暗闇>が、遥か遠方のエスタリカ王国に詳しいのだろうか。
それはアエリアの姉セイミ―が殺害された事と関係があった。
◇征服する愉悦と黒い欲望◇
______人間は完全な生命体ではない。むしろ動物的な本能に左右されて生きていると言ってもいいだろう。
ここ異世界に着陸して4ヵ月が経過した時。
「我々は最終目的地に選んだエスタリカ王国に跳ぶ」
「今度は森ですか。海のものが食べれなくなるのは惜しい」
副長のウラワジミーナは残念そうだ。
「こんな僻地になど、我々が住む場所ではないのだ。エスタリカ王国こそが、我々に相応しい所となるだろう。なにしろ......」
ニヤリ
ルルシア帝国隊長アレクサイ・ケツノアナコフも、本国の命令を達成して元の地球へ帰還する事など、もはや不可能だと考えていた。
ならばこんな訳の分からない異世界の王国の一つも奪って、自分達が支配する国にすればいいのだと。
獰猛で残忍な笑みを浮かべたルルシア帝国隊長が、4人を見据えてドス黒い欲望をさらけ出した。
「平民共が我々5人に平伏する姿を、諸君も想像したまえ。ふ、セルゲイとドミトリー、貴様らには何が見えた?」
「美味い酒と肉、とびきりのいい女、何でも好き放題にしてやる! しかしウォッカが有れば最高なんだが」
「ほう、それはいい! 俺はエルフを何人も奴隷にしてやろう」
『くぅ、二人共なんて事を!』
「隊長、祖国ルルシアの命令は、もうないに等しいですからな」
「そこは完全にゼロだウラワジミーナ。これからは俺達が絶対のルールなのだ。想像するだけでも面白いと思わんか?」
全く。
「しかし......エスタリカ王国騎士団が抵抗するでしょうな」
「ふ、想定内だ」
情報では、恐らく王国騎士団は4人の将軍の元、少なくとも60,000の軍勢である。
「ふっ、抵抗するならレーザーガンと軍用ローバーで、人も騎士も蹴散らしてやるだけだ。動力源のプログレス・リチウム電池は何度も充電可能だ。騎士共の貧弱な鎧など、粉々にしてくれる!」
「それならケツノ隊長、シャトルの残った予備燃料から爆弾も作れますぞ」
「ほう、それはいいアイデアだ。どうせ我々には必要のなくなったものだ」
シャトルには搭載容量は少ないものの、非常事態を想定した予備燃料タンクが装備されている。
それを進言したのは、先程の副長ウラワジミーナだ。
「副長、しかも我々には切り札の核ミサイルがあるのだ」
なんとケツノアナコフ隊長は、無謀にも王国騎士団総勢60,000を相手に、これだけで対抗出来ると考えている。
しかし放射能を撒き散らす核を使ってしまえば、王国を手に入れる事も支配する事も出来なくなる。
独裁軍事国家ブラック・フォーンのように核で威嚇するにも、異世界人は核の恐ろしさを知らないのだ。
<核と魔法>
______ただ核に代わる物として、この世界には強力な魔法がある事を知った。
それなら爆裂魔法を使える者達を仲間にすればいいだけなのだ。
アレクサイ・ケツノアナコフは、この異世界にも裏の組織が存在する事を知った。
その情報源は、言うまでもなく暗殺集団<暗闇>と接触した事から得ていた。
「我々が王国を支配したら、新生アレクサイ王国領土の一部をやる」
その条件なら核を使う事なく、大勢のならず者が乗ってくると考えているのだ。
<暗闇>を完全に信用はしないが、駒として利用するだけで、いざとなれば抹殺すればいいと考えたのである。
約束をしても成果報酬は後払い。金を持たないルルシアにとって大きなメリットがあった。
......。
それを訊いて一人、真向から反対意見を出そうにも出せない紅一点のロマノフ(本名=ナタリー・ダニーキ)が唇をかんでいた。
『異世界に来ても、侵略と殺戮を繰り返すと言うの?』
女のナタリーが一人で反対しても、彼らの欲望のはけ口となって、最悪なぶり殺されるかもしれない恐怖で、そこはぐっと堪えるしかなかった。
エスタリカで好き放題が出来る。それが女であるロマノフの安全弁となっていた。
『誰も私を助けない、助けてくれない』
ロマノフは自分が女である事に、これほど恐怖を感じた事はなく悲鳴を上げていたのだ。それはすぐに現実となる危険と隣合わせで、そうして今迄生きて来れたのだ。
◇6名◇
______やがて計画通り、ルルシア帝国のシャトルは、エスタリカ王国にある深い森の中に着陸し、その総勢は6名になっていた。
5名ではないのは、そこに暗殺集団<ケイオス・サイド>の幹部を一人、案内役として同行させたからだ。
幹部の名はブルーア。祖国ルルシア帝国皇帝と似た風貌が仲間にしやすかった。
そのブルーアに、シャトルを隠す最適の場所を選ばせたのである。それに、エスタリカ王国の情報を知るには不可欠な存在であり、暫くはルルシアの5人と共に暮らす事になったが、ブルーアを完全に信用しなかったように、ブルーアもライト・ブラウンの5人を信用してはいない。
ブルーアは初めて見る<科学>に、ルルシア側は<情報と魔法>に感心があるだけで、悪と悪の間に信頼関係などある筈もなく。
◇セイミ―死亡の真相◇
______セイミ―を亡き者にした存在。それが暗殺集団<暗闇>であり、ブルーアがエスタリカ王国に詳しいのは、エスタリカ王国公爵ラーモン・ディ・パッドの暗殺依頼を請け負っていたからだった。
しかも公爵ラーモン・ディ・パッドと<暗闇>の関係は遥かずっと以前から続いていたのである。
もはや武装強盗殺戮集団になり果てたルルシア帝国軍人。私達がその存在を知り、彼等が私達の存在を知るのも時間の問題となって迫っていた。




