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EP80 名もない墓石と置かれた紅いブローチ


______「ここだ。そこで良く見るがいい」

バイソンに連れられたアエリアは、バイソンに言われるまま、墓標の前に立っていた。


名前が削られているのは何故なのか、アエリアにはその理由が分からない。しかし名前がなくても、もうこの墓が誰の墓なのか、アデリアとモーリンの顔を見れば分る事だった。



「良く見るんだ......これが見えるだろう? このセイミ―の形見がよ」

名前が削られた墓石の下。そこは小さな窪みが彫られていて、装飾品のような物が一つ置かれてあった。

 あぁっ


 思わず駆け寄って、アエリアはそれを手に取らずにはいられなかった。

「こ、こ れ は」

アエリアが絶対忘れる筈もないブローチ。姉のセイミ―のお気に入りで大切なブローチが、そこにポツンと置かれていた。


「これは間違いなくウェンデル様から贈られた物。これをいつも幸せそうに付けて自慢していた大切な......姉さんの愛の証」

 ふん


「おめぇが孤児だろうと、アエリアは間違いなくセイミ―の妹なんだろうぜ。あの馬鹿、そんな事を俺達に隠す必要がどこにあったってんだ!   そのブローチはな、セイミ―が固く握り締めて......目を見開いて、涙の跡を残して死んでいたそうだ」


 きっと、姉はウェンデル様と叶えたかった未来を......そう思うとアエリアは、落ちる雫をどうする事も出来なかった。

 ぐぅぅ

 あぅうう

 つられたアデリアの頑丈なダムも、遂に決壊してしまった。


「バイソン、アタシにあのセイミ―の顔を、ううっ、思い出させるんじゃない!」

モンスターに殺されたと言うセイミ―の損傷は酷かった。それでも顔だけは、何故か奇跡的に奇麗なままだった。それ故思い出してしまったのである。


「俺たちゃSランク冒険者<氷炎のザ・フォース>の仲間だったんだ。なんであの時、一緒に居てやれなかった! アデリアもモーリンもそれが悔しくてな、俺が思わず墓標の名前を削ってしまったんだよ、俺は絶対に認めたくなかったんだ!」


「アエリアさん、セイミ―の遺体はね、急遽王国の手で荼毘(だび)に付されたの。この墓にあるのは、そのブローチだけなのよ」

「チキショー、あたし達はセイミ―が死んだ理由が、今でも全く納得出来ないんだ。子供が腹にいたんだろうが!」


「......だからです。私がエスタリカ王国に復讐を誓ったのは」

アエリアは、セイミ―の死の真相に心当たりがあると言うのだ。



「黒幕はエスタリカ王国公爵ラーモン・ディ・パッド。第一王子のモレータゥラはボンクラなのですから当然、人格も人気も高い第二王子ウェンデル様が王位を継承すると、国民の誰もが思っていました」

「あぁ、それなら俺達だって当然知っていたさ。あのボンクラではな」


◇真実(トゥルース)◇

ここに居る者は、誰も知らない。

身籠ったセイミ―など邪魔な存在でしかない。賢い第二王子は抹殺し、ボンクラ・モレ―タゥラに王位継承をさせ、ラーモン公爵が裏から操る計画だったのだ。


 セイミ―が妊娠した事で、ウェンデル第二王子は、結婚を願い出たものの猛反対されていたのだ。

それなのに、そんな体でもセイミ―は遠い西国までモンスター討伐に駆り出され、ウェンデル第二王子はその後行方不明になり、発見された時は洞窟で自害していたと言うのだ___

___おかしい。話がうまく出来過ぎている。


 すると、次の王位継承はボンクラ......エスタリカ王国の無能な王は、王を操る公爵の言うがままになるのだろう。



______私のIQ280がセイミ―の死の謎に迫ろうとしていた。

セイミ―亡きあと、バイソン達Sランク冒険者<氷炎のザ・フォース>は解散した。

丁度モーリンさんの懐妊が分かり、これを機会に忌々しい思い出の地を去る事にしたのだった。


◇衝撃の事実Again◇

______そしてなんと、セイミ―はオイスター・ケチャップの実の娘だと言う、信じられない衝撃の事実まで飛び込んで来たけれど、勿論、バイソンの大将とモーリンさん、アデリアはそれを知っていたのだ。


 そんな因縁から、バイソン達がデブーラ男爵の計らいで、この地に移り住み、<ナイトメア亭>を営む事が出来たのだった。

この場所を選んだのも、寂れた墓地が傍にあり、形見のブローチだけでセイミ―の仮初の墓を立てたかった事も。


______その当時、残された三人はこんな話をしていた。

「なぁバイソンとモーリン。あたしには宿屋稼業なんぞに向いていない。悪いな、やはりあたしはこの拳で生きていくぞ」

 ふむ

「そう言うだろうと思っていたぜ。お前の好きにしろアデリア。どのみちオメぇに給仕は向いてねぇ」


「寂しくなるわね。あなたも早く、いい人と巡り会えますように」

「ふん、あたしより強い男などこの世界に居る訳がないさ」

そんな経緯があって、アデリアはバイソンとモーリンと別れたのだ。


 アデリアがSランクのその実力で、容易く冒険者組合のギルドマスターになれたのも、デブーラ男爵の口添えがあったからで、三人は何かとデブーラ男爵には大恩があるのだ。


______しかし衝撃の事実が続く。

 娘のセイミ―を失ったオイスター・ケチャップは失意のどん底で、執事の役目がままならない毎日が続いていた。

そんなオイスターは、仮にもデブーラ男爵家の筆頭執事なのだ。


 見兼ねたデブーラ男爵は、領地内の孤児だった当時10歳のデリーシャを養子に迎えさせた。

セイミ―の面影のあるデリーシャを選んだのは、そんな理由からだったのだ。


 孤児でも気立てのいいデリーシャを、オイスターは大層気に入り、デリーシャも本当の父親のように慕った事から、オイスターは立ち直る事が出来たのだ。


『不思議な因果が、切れそうで切れない糸車のように絡んで......私がこの異世界に来たのも、因果の糸車の中かも知れない。しかし無慈悲に大切なものを失う時は来る』


「父ちゃん、しんみり」

「うむ、御屋形様、こういう時は酒ではないのか?」

「下衆様には、いつでも私達が漏れなくついてますよ」

「そうだよ兄貴ぃ、みんな不思議な縁でここに居るのよさ。食べれば元気100倍、飲んで食べるのが一番いいのよさ!」


______人間には迷いや失望で、どん底を感じる時は誰にもある。

酒も一つの慰めにはなるけれど、多くの人は浴びる程飲み、体を壊してしまうのだ。

美味い料理と言うのは暴飲暴食とは異なって、幸せな気分にしてくれるものだ。

人生、親しい仲間が居て美味い物を食べ、腹が膨れていれば人間は道に迷う事はないと、誰かが言っていたのを私は思い出していた。


「レイジー、その脳天気な年増かぶらの言う通りだ。今晩は特別に俺が飛び切り美味い料理を食わせてやるから楽しみにしてな」

 ジョーは、いつも食べてばかりいるのか、異世界に来てから最近太ったと思う。

「ジョーには悩みがなさそうでいい」

「兄貴ぃ、これでも明日は何を食べようか、ボクは悩みっぱなしで、毎日痩せる想いなんだからさ」


 一同......突っ込みも声すら出せなかった。


◇世直しか復讐か◇

______「おいレイジー、その位にしておけ」

「そうだぞ。アタシ達はセイミ―の死の真相に、これからどう向き合うのかが問題になったからな」


 推測するに今のエスタリカ王国は、公爵ラーモン・ディ・パッドの想うがままで、現王は傀儡となっていると思われた。


 贈賄と犯罪が蔓延しているなら、国を守護する筈の王国騎士団は、いったいどうなっているのかと私は思ってしまう。

平和こそ大切だと私は思い切って発言を試みた___地球人の私の意見など、ここでは問題視されないかもしれない。


「復讐を考えるのは早計だと思います。現在のエスタリカ王国がどうなのか、国民から情報を得るのが先ではないでしょうか?」


 むぅ。

「確かにアエリアの話だけでは、証拠は足りねぇが、今更顔を知られた俺達が出向けば、公爵連中が何事かと動くだろうぜ」


 バイソン大将が私を見つめた。モーリンさんもだ。

「よし分かった。その役目は、あたしとレイジーが引き受けよう。ふっ、夫婦で行くなら問題なかろう」

 えっアデリアが!


 アデリアはレイジーと夫婦役で、証拠を掴もうと考えたのだ。

「わ、私がですか? 今は聖母様村の整備とかモンスターとか問題が山積みでして.....ちょっと無理かなぁ~なんて」


「糞エルフちょっと待って欲しい! 黙って訊いていればイケシャァシャアと。御屋形様が出向くなら桔梗も参る。顔は知られてないからな」

「兄貴ぃ、でもさぁ薬の製造とかはどうするのよさ?」

私は思わず優しく微笑んでかぶらの瞳を除き込んだ。

 ドキィ 

  な、な

   ニヤリ


「君には大事なアテレコと言うお仕事があるだろう。もしも私が行く事になるならKannaとお留守で頼むよ」

 げぇ~

「「ま、またですかぁ!」」


非難轟々雨あられ。私の好感度はどこかの首相並みに暴落してしまった。

結果的に私が出向くのは何かと問題がある為、アデリアの案は却下となった。

『糞、既成事実を重ね、なし崩し的にレイジーと......失敗した』



◇エビデンスを探れ◇

______考えられる黒幕は、エスタリカ王国の公爵ラーモン・ディ・パッドだろうとアエリアは言った。

「あの公爵なら有り得なくはない。だがよアエリア、証拠はあるのか?」


 セイミ―を殺したのは、恐らく公爵配下の雇われ者。公爵ラーモン自身が知らぬ存ぜぬと言えば、動かぬ物的証拠がない以上、罪には問えない。その程度、地位と金、口封じでもみ消すことなど当たり前の世界なのである。





 

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