EP79 巡る因果はゴムの切れ掛かったパンツのように危うい
◇悲壮な吐露◇
______「私の姉さんと赤子は、殺されたのです」
それだけでは、アエリアの言葉がどうにも足りていない。
「そうか、貴様の私的な事情には同情もするが、もっと説明がいるだろうが」
「そりゃそうだアエリア」
「もっと詳しく話してくれないと......」
バイソンの大将とモーリンさんも、それだけでは納得出来ないのは当然だろう。
アデリアは人の話を良く訊くタイプではなく、大抵の場合
が、カッとなってあの恐ろしいスキル<※タマキン・エスケイプ>で済ませて来た事が、裏目に出てしまっているのだ。
※アエリアに<ギラァ>と睨まれると、男のナニが行方不明になって一時的な女になり、しかもその効果は七日間も続くのだ。ジャッカル達三馬鹿トリオも、一度食らった事があり、あのジャッカル達が内股で歩く姿は余りにも滑稽過ぎて、ギルドでは有名な笑い話になっていた。
______ポン
「まぁアデリア、慌てないで人の話はゆっくり訊こうよ」
アエリアの気持ちを考えて、私が肩をポンと叩きながらアデリアの耳元で囁いた。
フッ
ゾク
ゾクぅ
エルフは耳がいい反面、神経が集中する象徴的な耳が、アデリアなどエルフの弱点だった。
それをレイジーは知らず、悪戯のつもりで触れたのである。
実はエルフの耳に触れたり、ハムハムするのは恋人か夫婦だけに許される事を知らなかったのだ。
『レ、レイジーは、もう、その気だったのか』
痺れるような甘い快感と電流が、アデリアの脊髄を走り抜け、また脳に戻ると、その声の主を潤んだ瞳で見返していた。
は、はひぃ~
「と、当然だろう。そんな事は、い、言うまでもないぞレイジー、アタシは何も焦ってはいないからな はぁ はぁ」
ドクン
ドクン
『レイジー様は、あたしの耳が弱点だと知っていて。これで耳カプなんかされてたら、あたしは昇天していたのよバカぁ。もうダメ、レイジー様ぁ、早く責任のケジメ、キン・コン・カ~ンしてぇよ~』
ぜぇ
ぜぇ
......。
......。
「なぁアデリア、やっぱお前最近、変わってねぇか? それもレイジーの前だけって、こりゃぁどういうこった? 説明しろや あ~ん?」
「あらあら。顔を真っ赤にしちゃって、ホントに随分と可愛らしくなったわねぇ、アデリアぁ」
カァ~
「バカ、アタシはそんなんじゃねぇよ、勘違いしてんじゃねぇ」
妙にあたふたするアデリアだった。そんなアデリアも私は可愛いと想うのだが......。
『普段からそうしていたら、もしかして惚れてしまう威力があるのに。本物の異世界美人エルフ、なんとも素晴らしいじゃないか』
「下衆様ァ!」
「父ちゃんは金ダライの刑!」
「妖刀ムラムラが血を求めている」
などと罵倒されようと、バニラも桔梗もRenoも、可愛い美少女アンドロイド達で、私の大事な家族である。
唯一、ヒューマンのジョーも、ハメリア合衆国情報部のボッキュン美人ではあるけれど、慣れとは恐ろしいもので、もはや居るのが当たり前の存在となっているのだ_____
____早い話がレイジーの周りは、美少女と美女で溢れたハーレム状態になっているのに、それに気づいていないのは、鈍感なレイジーだけだ。
『ジョーの白以外は......見てない』
ピクゥ
「兄貴ぃ~、今妙な事を考えたよね?」
「そ、そんな訳はない(何故わかる?)。うん、見たくはないぞ、あんな白いのは」
ヒョォー
ヒョォー
「だから白なんて、見たくないって言ってるだろ。南友千葉拳なんてここで出すなよ! 迷惑を考えろ」
______口を挟めず、ただ傍観者になっていた緑の5人も、あのアデリアの態度が軟化している事には気づいていた。
「ボス、超美人なのに、あの性格ブスのアデリアさん、レイジーさんの前だけでは、なんか変なんㇲよねぇ」
「ポッター、君達は悔しくはないだろうが、貴様等とレイジーさんでは、見た目からして勝負は最初からついている。もういい加減諦めることだ」
「あははレイジーさんはイケメンで、その上ハーレム状態ですからなぁ。やっぱり諦めろ未婚三人組、お前とジョニー、ビーノではエルフ美人の相手には全くならん」
「「「トーラス副長まで! 全くは酷いですよ、それってゼロと言う意味ですか」」」
ウム そうだゼロだ。むしろマイナスと言っておこう。
酷すぎるぅ鬼ぃ!
◇過去◇
______「私は北のエスタリカ王国で、最愛の姉......実際は血のつながりのない孤児の私と暮らしていました。その姉妹同様の姉が殺された理由は、姉の恋人に関係しているのです」
ほう、続けろ。
「姉はエスタリカ王国の冒険者で、Aランク聖魔法のスペラーでした。私は何故か姉から所属チームを訊かされていませんでした。私が訊いても、絶対に教えてくれなかったのです」
なに?
Aランクの聖魔法スペラーと訊いて、アデリア、バイソン、モーリンの三人に緊張が走った。
「姉を殺された私は、それまで信じていた王国貴族一派の仕業だと確信し、闇ギルド<ディープ・ケイオス>に加担したのです。ゆくゆくは姉殺害の黒幕を暴いて復讐をと」
「ふむ、では貴様の姉はエスタリカ王国に殺されたとでも言うのか? ならその恋人はどうした?」
◇エスタリカ王国第二王子ウェンデル◇
______「姉の恋人はエスタリカ王国第二王子ウェンデル様。そして姉は王子様の子を身籠っていたんです」
......。
「そりゃぁ、大した玉の輿じゃねぇか.......でもねぇか。しかしよ、何かしっくりしねぇぞ」
そうよねぇあなた。
話を訊けば訊く程、胸が締め付けられるのは何故だろうと、アデリア、バイソン、モーリンの三人は動揺を隠せないでいた。
貴族や王族が、使用人に手を付ける事はよくある話で、大抵は多少の金を握らせ、放り出すのが当たり前の世界なのだ。
「美人で有名なAランクの姉は、冒険者チームと一緒に時折、貴族の社交界に招かれていたそうで、その時にウェンデル王子様と出会ったと訊いています」
エスタリカ王国Sランク冒険者チームなら、王族、貴族に招かれる機会はある。<氷炎のザ・フォース>も何度か社交界に招かれ、社交と言う騙し合い、腹の探り合いに華を添えていたのだ。
華とは、そうした探り合いのカムフラージュでもあるのだ。
ともあれアデリアもモーリンも超美人だ。二人に加えてもう一人の超美人がパーティーに参加するだけで、つまらない形式だけの社交界が盛り上がったのである。当然、筋肉だるまのバイソンなど、貴族達にはお呼びではなく、片隅で一人高い酒ばかり飲んでいたらしい。
◇驚愕◇
______訊けば訊く程、開かずの扉がこじ開けられていく。
そんな想いに耐え切れず、バイソンが口火を切った。
「アエリア、それで姉の名は? もしかしたらだが......」
バイソン大将が、珍しく緊張しているのが分かる。
姉の名前を、アエリアがここで話す事に躊躇う理由がない。
「セイミ―」
ドォォ~ン
バリバリィ
アエリアの静かなたった一言で、稲妻がアデリア、バイソン、モーリンの全身を貫いた。
それは時間にして3秒、いや5秒だっただろうか。誰も何も話せず、ただ凍りついて身動きすら出来なかった。
「トーラス副長、あの三人、さっきからどうしたんでしょうかね?」
「訊いている限り、よほど話が衝撃だったんだろう」
いつもなら速射砲のような言動をするアデリアが、ただ沈黙して涙さへ流しているのだ。
「「そ、そんな」」
「貴様、よくもそんな出鱈目を! セイミーはな、あたし達<氷炎のザ・フォース>の仲間だったんだぞ! セイミーは貴様のような妹がいるなど言っていなかったし、お前は<氷炎のザ・フォース>のメンバーを知らなかったとでも言うのか!」
◇理由◇
______セイミ―が、アエリアの存在を秘密にしていたのには理由があった。
エスタリカ王国冒険者のセイミ―の妹が、荒くれ者一族と関わりがあると知れば、セイミ―のチームに思わぬ冤罪が振り注ぎ、評判を落とす事は目に見えていた。
「デルモンド王国の南に、暗殺者集団が住む里があるのです。私はその里<黒柘榴一族>の者ですから」
<黒柘榴一族>とは、デルモンド王国の闇ギルドとは別の暗殺を生業にする集団で、その暗殺スキルは独特なものだった。
「成る程、貴様の鋼線は、その暗殺集団のスキルだったのか」
◇セイミ―◇
Aランクでも、Sランク<氷炎のザ・フォース>に所属していたセイミ―は、ある時モンスター討伐で死んでしまった。
糞が!
「何故かあの時、セイミ―一人だけに指名がかかって、西の隣国ロウルシャー王国のモンスター遠征討伐をさせられていたんだ。俺達には内緒でな」
「わざわざロウルシャー王国とは、俺もおかしいと思ったぜ」
「セイミ―への依頼は貴族からだったわね。Aクラスのモンスターに、私達Sランクは過剰だと言う理由もあったらしいの」
どこの貴族だったのかは、アデリアも知るところではなかった。
「その西方単独遠征討伐の話は、後日訊きました。でもその時、姉のお腹には......もう。討伐前に見た姉が最後の姿でした」
それを訊いたアデリアは激高した。
「身籠ったセイミ―は、エスタリカ王国にとって都合が悪かった。それで討伐に失敗したように見せかけて殺された! ならば、犯人はエスタリカ王国の貴族だったと言うのか」
エスタリカ王国は、バイソン達Sランクが所属する王国であり、<氷炎のザ・フォース>は貴族並みの高待遇を受けていた。反国王派の貴族は居るけれど、セイミ―を殺す理由としては、いささか疑問が残るのである。
「あの時、無理にでもついて行けば」
「そうだ。思えばアタシ達に、別件の討伐依頼が入ったのも出来過ぎていた」
「騙されてたのね、私達」
◇嗚咽◇
「おいアエリア。おめぇは知らねぇだろうが」
「えっ......何を でしょうか?」
「この村の荒れた墓地に<聖母マリア様>が降臨なされた。その横にある無名の墓の事だ」
その墓とは、オイスター・ケチャップやデリーシャ、バイソンとモーリン、アデリアが涙した名前を削られた墓の事だ。
「いえ、それは 知りませんが」
「そうかい、なら俺と一緒に来るがいい。そこで真実と言うやつを見せてやる」
『まさか!』
私でさへ薄々感じているのだから、アエリアもその意味を分かっている筈に違いない。
アエリアの手も足も震えていた。それは悲しくも残酷な瞬間の前触れだった。
それが偽りとは言へ、私が作った聖母マリア様像の隣にあったのだ。