EP77 本当にあって驚いた<魔剣イレイザー> と謎の吊り革
______5階層フロアに、先頭のアエリアからそろりと足を踏み入れた。
本当なら先頭は、前衛のアデリアの役目なのだが、そうしないのは私に形のいいスッポのお尻を見られたくないからだろう。
「絶対に見ませんから」
絶対に押すなよって言う熱湯風呂コントが、頭をよぎる。
と私が見ない宣言をしても、それで彼女達が納得出来る訳がない。嫌でも揺れる大きなピーチが目に跳び込んで来るが、アエリア、アデリア、ジョー、私、ルチア、デリーシャの順でお尻を隠しながら、私の視界から逸れるように歩んでいた。
『チィ 惜しいのだ。って私はジョーの大股開きで、ジョーのケツは見慣れている。いつも白だし』
「しかしレイジー、お前よくそんなビキニなんぞ着る気になったものだ」
「兄貴ぃ、それボクのだから返してよね!」
カツラを被り女装したビキニ姿の私は、他人が見たらドン引き大セールなのは間違いないだろう。
私は言い訳を展開、正論を主張する。
「これは変態ダンジョンを騙す大作戦なんですよ」
ジトォ~
「もはや信じられる訳がなかろう」
______5階層は通路も壁も、便所の裸電球のような温かみのある照明で照らされていた。
「何も出て来ないなレイジー」
「油断は禁物です、アデリア」
「あぁレイジー、イチモツはちゃんと隠してあるだろうな?」
「はみ出てない」
私が後ろでは、いろいろ拙いと思われ、今は私が先頭を歩かされていた。
しかし私は思った。ダンジョンに呼ばれたのはアエリアなのだ。私が先頭を歩くのは、作戦上拙いのではないかと。
「アエリア、君が先頭を歩く方がいい。きっと何かが起こると思う」
「うむ、確かにレイジーの言う通りかもしれない。5階層は貴様が責任をとって歩くべきだな。アエリアのケツも見れるし、レイジーは満足だろうよ フン」
『ケツがそれほど見たいのなら、こっそりアタシのケツを見ていればいいのだ。アタシのケツは最高だぞ』
アデリアもその方が理に叶っていると、私に賛同してくれたのだ。
先頭に立ったスッポのアエリアを見て、どこに鋼線を隠しているのかと思えば、4階層で丸ごと溶かされてしまっていた事に今更気づいた。
するとアエリアは、文字通りの丸腰で戦闘力がゼロなのだ。
5階層で武器を持っているのは、金属ではない<セラミック・ナイフ>を装備した私だけになった。
「こんなナイフ一本では、何も出来ないだろうけど」
アエリアを先頭にしたのが幸いしたのか何事もなく、やがて天井の高い体育館程の広間のような場所に出た。
「ここで私は軽く探索したんですけど、見た通り何もなかったのですぐに帰還したんです」
確かに見渡す限り、何もない石畳みで出来た広い体育館のような所だった。
「レイジー、何もないぞ」
「アエリア、その時はこの広間の中心まで行ったのかい?」
え?
いいえ。
「......やはりか」
「なら、そのまま一人で中心まで移動してくれる?」
「はい......でもあんまり見ないで下さい」
形のいいお尻を両手で隠して、広間の中心らしい所でアエリアが歩を止めた。
「この辺りでいいでしょうか?」
「何も起きないか?」
パァァ~
アエリアを中心にして、突然大きな魔法陣が浮かび上がった。
きゃぁ
「また転移魔法陣か?」
「いや違うぞレイジー、これはもっと強力な多段積層型だ」
この時、私達は大きな魔法陣の中にいて、上下する多段リングのような青白い光に捕まった。
「皆、俺に寄れ。どこに飛ばされるか分からない。バラバラにならないよう、私に捕まるんだ」
「「はいぃ~」」
キュゥ ニギィ
あへぇ?
視界が真っ白に染まって、自分の手すら見えない。
「皆、居るかぁ~」
呼べども誰の返事も無かった。
私は足が地についていない上、浮いているような、そうでもないような、全く経験した事のない感覚の中にいた。
私の視界には、雲のトンネルの出口か入口かもしれない物があった。それが私に向かってくると、ついにそれに飲み込まれてしまった。
途端に視界は戻ったのはいいけれど、バーチャルな空間に投げ込まれたような感じで、私は物質的な世界ではないなと直感したのだ。
「レイジー」
「レイジー様」
「兄貴ぃ怖いよぉ」
「「レイジー様ぁ」」
おぉ?
気が付くと、5人は傍で私の体をしっかりと掴んでいた。
5人はずっと私の傍に居たのだ。
「おいルチア、デリーシャ、お前等が掴んでいるモノは吊り革ではない。レイジーのイチモツだぞ! 消毒しろ」
ひッ
ひぇぇ~
間違えたモノは今更仕方がない。ルチアとデリーシャは両手を見つめて真っ赤になってしまった。
「ここは何でしょうかね?」
「まるで霧の世界だなレイジー」
少し離れた所に人のような、何かがぼーっと立っているように見える物に気づいた。
「何かいる。皆、あそこまで行ってみよう」
次第にそれは、やはり人間のカタチをしていると分かり、視力のいいアデリアと、アエリアは、その形が女性であると言った。
「レイジー、女だ」
「女性ですね」
あぁ あの姿は!
近づいていくにつれ、アエリアは涙を流しながら駆け出したのだ。
「どうしたアエリア!」
私の声など聞こえていないかのように、アエリアは駆け抜けていった。
アエリアの二つ名<サイレント・マーダー>の名は伊達では無かった。駆ける速度が圧倒的で、とても追いつけるものではないのだ。
私達が追いついた頃には、アエリアはペタンと座り込んで、その女性の前で嗚咽を繰り返していた。
ヒック
ウェック
ヒック
「やっと、やっと会えたと思ったら、これは幻影」
その女性は赤子を胸に抱いていた。
「おい貴様、分かるように説明しろ」
未だ呼吸も整わないアエリアだけれど、その赤子を抱いた幻の女性について、少しずつ語り出していく。
◇アエリアの姉◇
______「私の姉と......赤ちゃんの二人が幻になってやっと私の前に」
ヒック ヒック
「貴様ぁ、それだけでは分からんだろうが」
「姉なのか。では姉がアエリアを呼んだのか?」
どうしてアエリアの姉の幻が現れたのか。それでも一つ分かるのは、アエリアがこの幻に呼ばれたと言う事だろう。
「皆、このダンジョンは、アエリアと姉を引き合わせる為に存在していた......私はそんな気がする」
ヒック
「わ、私は墓地の<聖母マリア様>を見た時から、恐らくここに呼ばれる運命だったと思います。レイジー様の暗殺を思い留まったのも......きっと」
「だから、それを説明しろと言っているだろうが!」
アエリアの過去は、一口で語れるものではないのだ。
「姉と赤子、分かっていました。もうこの世の人ではないのに」
その時
ズァ~
パァ~ァァン
アエリアのその言葉で、私達は一瞬にして元の5階層まで転移してしまった。
「目的を達成したからか?」
あっけにとられてしまった私達だったけれど、アエリアは落ち着いて状況を把握したようだ。
「私にそれを知らせる為のダンジョンだったのでしょうか。それとも別に」
そう言うアエリアの傍らには、長方形の黒い箱が置かれていた。
「確かさっきはなかった筈だが? この為か」
その箱は厳重に革紐で閉じられていて、素手ではとても開けられない。
アデリアのMDやジョーの南友千葉拳では箱ごと破壊してしまうので、私は装備して来たセラミック・ナイフを取り出し、固い革を切断した。
「アエリア、これは君が開けるべきだと思う」
私がそう促すと、震える手でアエリアが静かに蓋を開いていく。
ギィ~
やがて暗かった箱の中身が姿を現すと、それはこの世の物ではないと誰もが思うに十分な神秘を纏っていた。
全てが黒。装飾が一切なくても、そんな飾りなど無用だと思う程に美しく重厚なのだ。
「これは都市伝説に訊いた姿と同じ<魔剣イレイザー>! やはり都市伝説は正しかったのだ」
私達は初めて見る<魔剣イレイザー>に興奮を隠せなかった。
私も科学者として、魔剣とはどんな原子構造と威力があるのか、とても興味が沸いてきた。
「一度スキャンしてみたいものだ」
「レイジー、これがあればあの巨大モンスターが倒せるのか?」
初めて見る<魔剣イレイザー>の威力など、私に分かる筈がない。
「これは結構な重量がある。アタシのMDやアエリアの鋼線、かぶらには向いていないのでは?」
ジョーの南友千葉拳は、異世界に来てからは使った事がない。その威力はB+と同等だろうが、やはりジョーでは持てなかった。
「アデリアが言うように確かに重い。重すぎては攻撃に隙が出てしまう」
折角の魔剣なのに、使い手を選ぶのなら意味がないのだ。
「せもさ兄貴ぃ、剣なら桔梗にピッタリじゃんよ」
そ、そうか!
力のあるアンドロイドの桔梗、しかも抜刀術の使い手なら文句の付けようがないだろう。
この魔剣は、桔梗が持つのがベストだろう。私は密かにそう感じていた。
するとこの魔剣は、アエリアが持つ事を最初から想定していなかった事になる。
「よし魔剣は手に入った。恐らくあの転移先が最下層だったと思う。ならばアタシはこれで帰還すればいいと思う。異論がないなら3階層に転移したいがアエリア、貴様の事は帰還してから詳しく尋問するとしよう」
......それは構わないです。でも
「でも何だ?」
「私達、全員がスッポなんですけど」
いやぁ~ん♡
「兄貴ぃ、ボクのビキニを返してよ」
私は忌々しく思うのだった。
『アエリア、君は余計な事を想い出してくれたな』
と
今更なのに、私はジョーのビキニ、ヨロチクビカバーで目隠しをされ、3階層へと転移したのだった。




