EP76 誰もが理解不能 天才かAHOの秘技炸裂
天才の発想は、並みの人間には到底及ばない。その大天才の私が閃いた事とは______
ババァ~ン
絶賛建設中の<聖母マリア様村>全体をカバー出来る防御シールド構想である。
私がでっち上げた偽聖母マリア様のある墓地を中心としても、かなり広範囲となる。
果たしてそんな事が可能なのか? 大天才のレイジーなら、どうもそれは可能となるらしい。
異世界では、上級魔法で結界を展開出来るが、それはせいぜい範囲の狭い集団レベルの物にすぎない。
この私の閃きを実行に移すには、私達が異世界人ではないと言う秘密を、全て打ち明ける必要がある。それは何故か。
魔法ではなく私のIQ280という超天才科学技術を使う事になるからだ。
全てとなると、緑の5人から怪しまれないよう言い訳をでっち上げ、ルチアの認識疎外魔法で、エルフ顔に見える<かぶら>が、実はハメリア合衆国情報部のエージェント・ジョーだった事どころか、娘達がmyu-AIを搭載したスーパーアンドロイドである事も、私の素性もなにもかもの全て______
私はダンジョンから帰還出来たら、それをまずオルガ隊長達、ハメリア合衆国情報部の緑の5人に打ち明けて、聖母様村防衛構想の協力を乞うつもりなのだ______。
私達の正体をいつまでも隠しながら暮らすのは、もう苦痛で仕方がない。私はこのゴジラ騒動を機会にして、全てを皆に知って貰い、そして一致団結して村を守っていきたいのである。
結果としてアデリアも含めて、大きな混乱を招く事になるだろう。
ゲフン
偉そうに言うけれど、地球でも異世界であろうと私の願いは一つ、<平和>のたった二文字だけなのだ。
◇再開ダンジョン4階層探索◇
その目的は、ゴジラから造成中の聖母様村を守れる、何かを探す為である。
______そして3日目の朝が来た。
タン
ガチャ
「おらよレイジー、今日の朝飯は特別だぜ。俺がおめぇらに出来るのはこれ位だからよ。だから必ず帰って来い! でなきゃ飯代※100万G請求するぜ」(※1,000万円)
出て来た食事は、朝からでは胃もたれしそうな肉料理だった。
おぉ!
ふふん
『バイソン大将流の励ましなんだろう。しかし、もしレイジーが死んだらどこへ請求するんだか』
アデリアもニヤリと笑みを浮かべ、礼のつもりでバイソンに皮肉で返すのだ。
「あぁ確かに美味そうだ。しかしなバイソン、この程度の飯じゃ金は請求できないぞ。なぁレイジー」
全く!
バイソンも、これがアデリア流の礼だと分かっている。
◇ローブを着た理由◇
そんなアデリアは、いつもと違うレイジーのローブが気になった。
「......ところで今日は白衣でなくてローブなのか?」
『やっぱり訊いてくるよね、アデリアなら』
「こ、これかい? 白衣では防御能力が無いからね」
本当は、私はローブの事はスルーして欲しかったのだ。
「......あぁ、なるほどな。ローブに防御魔法が付与してあるんだな。やったのはルチアだろ?」
チラリとアデリアが視線を移すと、ルチアが小さな胸を張っていた。
「はい。鋼と同等の防御力です」
ルチアはレイジーの役に立てたと頬を赤らめた。対してデリーシャの心中は穏やかではなく『私は、レイジー様の役に立っていない』と嘆いていた。
シュン
これから4階層に潜るのだから全員が緊張している。そんなデリーシャの気持ちを知る者は、誰一人居ない。
◇ローブの秘密◇
______「ローブに防御魔法か」
レイジーでも、その辺は考えているのだとアデリアはほっと安堵していた。
「ところでデリーシャ、あたし達のも用意してあるんだろうな? もう一品の件は大丈夫か?」
はい。
勿論ですよと、デリーシャは不敵な笑みを浮かべて答えた。役に立つというのは嬉しいものだ。
しかしここで私が、ローブの下に隠して持って来たのは、女装用の服とカツラだとはとても言えない。その為のローブだったのである。
「ところで<かぶら>、お前のその大きな荷物は?」
ギクう
私はジョーの荷物が多いのが気になって訊いたのだ。
「ボ、ボクも着替えを持って、3階層まで飛んで待機するのよさ。まさか兄貴は、帰れなんて言わないよね」
どうもジョーの言動が怪しかった。
『こいつ、何か隠しているぞ』
「レイジー、かぶらは年増とは言え、女にいろいろ訊くものでは無いぞ。女には男には分からん深い事情があるものさ」
男が女性にあれこれ訊くのも憚れるので、アデリアが言うように、これ以上追及するのは止めておいた。
「と、年増じゃねぇし!」
ジョーが憤慨しているのを完全スルー。やがてアデリアが口を開いた。
「レイジー、そろそろどうだ?」
「あぁ出発しよう」
◇いざダンジョン4階層へ◇
______私を先頭にした<カルガモ隊列>は森の中へと進んで行く。
やがてダンジョンの前に到着すると、私、アデリア、アエリア、ルチアとデリーシャの5人は、ピタリと整列した。立止まったのは、ここで私が代表して出発の挨拶をしておく為だ。
「では4階層探索隊、行ってきます」
ここに緑の5人が来ていないのは、救援要請が来てもまるで役に立たないと知っているからで、その分万一の為、バニラ・アイスと桔梗、Reno、ジョーが3階層で待機する事になっている。
「父ちゃん最強の娘、バニラ・アイスちゃんが付いてるから大丈夫ぶい」
お、おぅ
「くっ、今宵も<妖刀ムラムラ>が、血を求めて泣いている」
ばか、求めんでいい
「桔梗、今はまだ朝だぞ。下衆様、くれぐれも下衆な事など、分かってますよね!」
Reno、お前はぶれんなぁ
激励なのか罵倒なのか、アンドロイドの娘達の言葉は遠慮なしに厳しい。
『バニラ・アイスなんか、一年前と随分変わったよな。いや、変わり過ぎだろ!』
「では」
私の合図で5人が多重転移魔法陣に消えていった。
すぐにバニラ・アイス、桔梗、ジョーが3階層まで転移して来る手筈だ。
ブゥゥ
パァァ~
私達は転移すると、すぐに4階層に続く階段に足を踏み入れようとしていた。
デリーシャは私の予想に反して着替えをリュックに入れ、背負ったままついて来た。
『おや? 3階層に置いて来なかったのか......これはうまくすれば眼福がまた拝めるか』
と思っていたら、3階層で騒ぎ声がしたかと思うと、何かが転げ落ちて来て、私達は4階層通路に押し出されてしまった。
うぉぉ?
いっ、痛ったぁ~いんん~
転がり落ちて来たのは、懐かしい120度大股開きのジョーだった。
おぉ!(また白か)
と私は心の中で叫んでしまったが、すぐに気を引き締めた。
「なにが痛ったぁ~いんん~だ。何やってんだよジョー、かぶら!」
3階層待機を命じられた以上、バニラ・アイス達は追っては来ない。ここで私の作戦を固く守る所は、流石にアンドロイドと言える。
「ボクだって行きたいのよさ! いつもボクを蔑にするからだよ」
プンスコ
はぁ~
「もう来てしまったものは仕方がない。レイジー、かぶらも連れて行けばいいだろうが。かぶらも無手、そこは問題なかろう」
ジョーにとって、思わぬ助っ人が入ってしまった。
「しょうがない奴だ。しかし私の言いつけは厳守、勝手な行動は駄目だからな」
「わ、分かってるのよさ。ボクを信用しなさいって」
と膨れ面を装いながらも、ジョーの目尻は下がっていた。
『うふ、奇襲作戦大成功!』
ジョーが内心喜んだのも束の間だった。
______ドスン
ズン
ドスン
ズン
4階層に降りた途端の地響き。間違いなく<メタル・ゴーレム>が接近して来る音だ。
きっと今のジョーが転がり落ちた音を感知して、出て来たのに違いない。
「レイジー、ゴーレムだ。今度はメタルが2体来るぞ!」
「ジョー、いつまで120度大股開きをやっているんだ。<メタル・ゴーレム>が来る。絶対に何もするなよ。アレには南友千葉拳は効かん」
「もうわかってるって!」
アデリア、アエリアは言うまでも無く、ルチアとデリーシャも手出しはしないと分かっている。
「例の赤いビーム攻撃が来るだろう。しかも今度は2体からだ」
「どうして2体も?」
「あたしが知るか! かぶら、貴様のせいだろ! なんで落ちて来たんだ?」
うっ
アデリアとアエリアは、あの悍ましい攻撃が脳裏を過った。
ブル ブル
武者震いでは無い、何か体の奥底から沸いたゾクゾクした感情が、二人の股間を震わせたのだ。
「訊け! 来るたびに様子が変わるダンジョンだ。2体だからと言って驚いている場合じゃないぞ」
私は叫ぶと同時に、ローブに手を掛けた。
バッ
私はローブを脱ぎ捨てて、ローブの内側に隠していた長いブロンドのかつらを装着した。それになんとビキニ仕様である。
「これぞ大天才の秘技、<ダンジョン騙しぃ>」
ぎょ
「そんなど馬鹿な! また狂ったのかレイジー! お前はAHOなのか?」
「女装のレイジー様も素敵 ポッ」
「あほな兄貴ぃ、それボクのビキニなのよさ! いつの間に!」
「あのレイジー様、非常に言いにくいのですが......」
「あまりの奇策に驚きましたか?」
「......タマタマちゃんが」
え? タマ?
「こんにちわしているぞレイジー、まず見苦しいソレをどうにかしろ!」
「あの、それならガン見しないで下さい」
多様なご意見が出ようと、あの<メタル・ゴーレム>2体をやり過ごさなくては、5階層には降りられない為の秘策であった。
「いいですか、このダンジョンは敵意と男を嫌うのです。それでこの女装なのですよ」
はぁぁ~??
「やっぱりアホだったかレイジー」
驚き呆れるよりも、今は2体の<メタル・ゴーレム>が近づいているのだ。
ビム
ビム
「何が奇策だ! やっぱり撃って来たぞレイジー」
壁と通路がジュゥジュウと音を立てて溶けていく。ビームは岩が溶ける程の高熱なのだ。
しかし様子が変わった。
<メタル・ゴーレム>2体がアエリアの姿を認識したのか、攻撃を中断して戻って行くのだ。
「さ、去って行くぞ。レイジーの推理が当たった」
これで5階層に行けると油断したのが大きな間違いだった。
ボタ
ボタ ボタ
ズボォ
ズボォ ズボォ
気が付けば6人共、天井から降って来た2m大の<メルト・スライム>6匹に飲み込まれていた。
「しまった! これは罠だ。メタル・ゴーレムを警戒し過ぎていた」
私の必殺女装が功を奏したのかは不明だが、頭だけは出ているので皆、呼吸は出来た。しかし予想通り身に纏った服が溶け出している。
ん?
妙な事に、私の着ているビキニとカツラ、靴は溶けなかった。
『ダンジョンにバレていた? それでも女として扱っているのは......まさか見苦しい息子を見たくない? ダンジョンが?』
そんな分析よりも、他の5人はもうスッポになって大騒ぎし、悶えもがいていた。ある者は頬を染めて嬉しそうにである。
ぺッ
そんな状況の中で、私だけが<メルト・スライム>からぺっと吐き出されると、残りの5匹は4階層の奥へと動き出したのだ。
ズリ
ズリュ
ズリ
ズリュ
「おーいレイジー、アタシはどうすればいいのだ?」
私は小走りで、スライムの後に続いていく。
「レイジー様ぁ」
「兄貴ぃ!」
「デリーシャ、き、着替えはあるだろうな?」
「すいましぇ~ん 全部溶けてしまいましたぁ」
すいませんと言いながら、私にはデリーシャの顔が喜んでいるように見えた。
「あ~、君達ぃそのままで」
「レイジー、このままでいいのか? 何か策があるのだな?」
赤いダンジョンの照明に照らされたアデリア達が、スライムに飲み込まれてもがいている姿は実に妖艶で美しかった。
「おいレイジー、見ているだけかぁ! 貴様ぁ責任とってなんとかしろー!」
◇5階層◇
______5階層に続く階段まで来ると、<メルト・スライム>はぺッと5人を吐き出した。あの<メタル・ゴーレム>の姿は、もうどこにも無いけれど、当然、私以外はみんなスッポンポンである。
「「「いやぁ~ん♡」」」
「ふぅ皆、よく耐えたね」(嘘)
「レイジー貴様、<メルト・スライム>のなすがままだったぞ。お陰でこのざまだ」(お陰様でいいものが)
両手でシークレットポイントは押さえているが、それより私達にはもっと大事な事があるのだ。
「悪いが私の推理どおりになったけれど、私だけでもこのまま5階層に降りる」
私がそう言うと、また転移魔法陣が現れた。
「これは3階層に戻る転移魔法陣だと思う。帰還したい人は戻ってくれ。デリーシャとルチアは帰還して」
まだ17歳の二人には、スッポは抵抗があると思ったからだ。
「「いいえ、このまま行きます」」
これまた予想外の返事に、私は驚いた。
え?
「レイジー、二人が行きたいと言っているんだ。それに5階層はすぐそこだ。当然、アタシは行く」
「そうね、原因は私。私も行く」
「当然、ボクも行くのよさ。でも兄貴ぃ、その白いビキニはボクのだから返してよ」
却下する。私のスッポなんか見てどうする。見苦しいだけだろ」
そこで暫くの沈黙があった。
「いや気が変わった。アタシは見てみたいぞ......レイジー」
「わ、私もです」
なんとスッポでも5階層に挑むとは。
『女は強いが......ここまで変態だったとは』
私はそう思わざるを得なかった。
「そうか。それでいいなら探索を続行する」
アエリアを先頭にして、そろり そろりと青く悩ましい照明に照らされながら、私達は5階層へと降りて行くのだった。
『いやいや、これは眼福、眼福』
もはや眼福の為に5階層に向っているとしか思えなかった。
崇高な聖母様村を守る為という、レイジーの大義名分は一体どこへ行ったのだろう。
◆◆◆◆
「馬鹿な事ばっかりやってないで、さっさと5階層に行ってよね!」
白衣に赤縁眼鏡の女? は深く溜息をつくのだった。




