EP75 偽聖母マリア様の御利益 ?
◇また狂ったのかレイジー!◇
______「ダンジョンは、<アエリアをずっと待っていたんじゃないか>と私は思うのです」
「「「にゃにぃい!!」」」
突拍子もなく馬鹿げた私の推理に、意義を唱えるどころか開いた口が塞がらないのだろう。それが本音と言った雰囲気になってしまった。
「ちょっと兄貴ぃ~、流石にそれはぁ......」
カンバッチ型翻訳器を新調したジョーも、これを訊いて翻訳機の故障かと思った程だ。
◇依怙贔屓◇
するとイライラした顔でアデリアが口を開いた。何かとアエリアを庇う私が気に入らないのだ。
「いいかレイジー、あのダンジョンだが、お前の推理は今までは当たっていたと認めよう。しかしこの女、アエリアだけは別だ!」
4階層で出たモンスターは、高さ3mの<メタル・ゴーレム>と2mの球体状<メルト・スライム>だった。
私にとって、そこから大怪我を負う事無く生還出来た事は、とても有益であり、少しだけダンジョンの謎に触れた気がしたのだ______それ故の推理なのである。
おい。
「俺にも言わせてもらうぞレイジー、この女はな、てめぇを殺そうとした闇ギルドのアサシンなんだぞ。こいつとダンジョンとは、何の関係もありゃしねぇんだ」
「そ、そうなるのよねぇ」
モーリンさんも、正論だと感じたのか同意を示した。
しかし私が言いたいのは、アエリアが元アサシンだった事では無い。
◇自分のケツはアエリアに◇
______「アエリアは呼ばれた。だからダンジョンは、ソロのアエリアを攻撃しなかったと思う。もし5階層をもっと調べていたとしたら、きっと何かが分かったと思う」
しかしそれを私が言うと、アエリアは頭をブンブン振って否定するのだった。
「で、でもレイジー様、5階層はただのフロアで何も無かったの。本当なの信じて」
レイジー様の役にたてない悔しさで、アエリアは涙目になって床に崩れた。
アエリアは詳しく調べ回ったのではなく、軽く歩き回っただけですぐ引き返したのだと言う。
それに北のエスタリカ王国へ逃げる気にもなれず、ただダンジョンの開けた場所で、身を潜めていただけなのだ。
しかし疑問もある。ダンジョンに呼ばれたのなら、アエリアに何かが起きた筈なのである。
「騙されるなレイジー、5階層を調べたいのなら、その女一人で行かせればいいだろうが。お前の言う通りダンジョンが呼んだのなら、また無事に戻って来れるだろうよ! それにな、女の涙に騙されるな。涙は女の最強の武器だぞ」
アデリアは親の仇を見るように、アエリアに向かって吐き捨てた。
そ、そんな......。
言い返す言葉のないアエリアは、私を見つめる事しか出来ない。
ふむ。
『しかしそれはどうかな? 呼ばれたのなら、帰れなくなる可能性もあった』
ダンジョンが無害だという保証はない。アエリアが選ばれた<餌>だとすると、アエリア自身にも何か秘密がある筈なのだ。
「おいレイジー、こんな危険な女は、デルモンド王国騎士団に引き渡せばいいだろう。それともアタシが今、MDで始末してもいいんだぞ」
アデリアの怒りは、依然として収まってはいなかった。
「いや待ってくれ。アエリアが闇ギルドのアサシンだった事を、この反省会に持ち込むのは止めて欲しいんだ」
「はぅぅ~レイジー様ぁ~」
「また庇うのかレイジー! 貴様はどこまでお人よしなんだ!」
あらあら。
余りにも私がアエリアを庇うので、アデリアやバイソンの大将も穏やかではいられない。
「そこまで言うなら、4階層再探索は私とアエリアの二人で行きます! 自分が言い出した以上、その責任はアエリアに____せます」
「ふ か せるのか!」
「レイジー、貴様ぁ!」
「「「このド変態!!!」」」
爆弾発言とはこの事だろう。アデリアとバイソンの大将ばかりではなく、私の娘達も加わって大反対の大合唱になってしまった。
「貴様、馬鹿かレイジー、お前が行くなら......くそぉ、あたしも連れていけ! この女と潜ると言うのなら、それが最低条件だ」
4階層でスッポンポンにされたばかりでも、アデリアならそう出るとは思っていた。しかし私には確信を持って言える事があるのだ。
=レイジー通信チャンネル Open=
=我が娘達、あのダンジョンは男とアンドロイドを拒絶する=
=げッそんな事が? 父ちゃんは男じゃないの? なら行けないよね。ケツまでふかせ......るなんて=
=呆れた。正真正銘の下衆様だった=
=kannaはまた留守番 ショボン=
=しかし何を考えているのです下衆様、なんでアンドロイドが=
=だからお前達は皆、留守番決定! 以上!=
=「「「酷い!アンドロイド虐待者!」」」=
私も一応男なのだけれど、そこは女装して潜るつもりなのだ。この天才的奇策はギリギリまで、誰にも秘密にしておこうと決めていたのだ。
「待って!」
声を上げたのはルチアとデリーシャだった。
「ルチアは聖魔法が使えるから同行します。それとヒーラーは攻撃認定されないと思います」
「デリーシャは、着替えを持って同行します。今度はビキニじゃなくてちゃんとしたローブとか色々です」
「.......いや待て、そこはもう一品欲しいぞ。ちゃんとした下着も頼む」
アデリアだった。
『皆、なぜ気が付かない? 持っているなら着替えもきっと......って、げッ、私もスッポになるんだった......あ、踊り場に置いておけばいいのか』
私はこの際、余計な事を言わない事にした。
『それは眼福もあるからだ』
そうとは知らないデリーシャは思った。
『結局、私ってレイジー様の役に立てない。私も強いスキルが欲しい』
と
______「あなた、あれは私の......」
「すまねぇモーリン。慌てて俺達二人のプレイ用の......」
ぱぱぁ ぷれい ってぇ?
皆が、あのビキニはそうだったのかと、ジト目になったのは言うまでもなかった。
「へぇ~そうなんだぁ~ へぇ~」
デリーシャは、早い話がまた<メルト・スライム>や<メタル・ゴーレム>に服を溶かされると思って、着替えと言ったのだろう。
______恐らく5階層でも、攻撃を食らって怪我を負う事はないと私は思っている。何故なら招かれたアエリアが同行するからだ。
一人で潜らせろと言うアデリアの強硬案は、アデリアが加わる事で自分で放棄した形になった。
「他に意見が無いようでしたら、私とアエリア、アデリアとルチア、デリーシャの5人で再度4階層に潜ります」
むぅ......しかしだな。
反対意見はもう出ないみたいだ。
「巨大モンスターの襲撃に怯えるよりは、マシか」
そうね、あなた。
『本当は私も行きたいの......スッポにされてゾクゾク......あの感触が堪らなかったから。あふん♡』
バイソンの大将は、潜るのも止む無しと賛同しているようだ。モーリンが何を想像しているかも知らずに。
◇5+1◇
______『なんでよ! ボクだって行くのよさ。サプライズで。あ、そうそう、ボクも着替えを準備しとかなくっちゃ。やっぱり悩殺ビキニがいいかなぁ』
ジョーは着替えが溶かされる事は、頭にないらしい。
◇緑の5人の未来◇
______「また潜るレイジーは、私達よりよほど度胸がある」
「隊長、我々が何を言おうと役には立たんのです。ここは吉報を待つしかありませんな」
緑の5人は、地球ならば超優秀な軍人なのだ。しかし異世界では精々が、D+ランク冒険者程度に過ぎない。副長トーラスはそれを言いたかった。
「トーラス副長、皆まで言わなくても分かっている」
軍人として、男として不甲斐ないと言う顔を崩さない隊長に、私は声を掛けた。それは別に慰めるつもりではない。
「いいえオルガ隊長、私はあなたに力を貸して欲しい相談事があるんです。戻ったら時間を割いてくれませんか? その時は5人全員でお願いします」
ふむ?
何かを頼まれるとしても、異世界に来てレイジーを頼っている身では、オルガ隊長がNoと言える訳はない。
「あぁ了解した。なら必ず戻って来いレイジー」
一度決断したら迷いがない軍人は、実に頼もしい存在である。
______話は纏まった。しかし決行日がいきなり明日と言う訳にもいかない。
私は個人的に、もっとアエリア自身から話を訊く為、三日後の朝と考えた。
「今の所、幸いにしてあの巨大モンスター<ゴジラ>の襲撃はない。アレを倒す何かが、ダンジョンに有ればいいのだけれど」
もしアエリアが言う通り、何も無いダンジョンだったとしたら、村の整備計画どころか全てを破壊されて失う結果になる。
「兄貴ぃ、それこそ兄貴が<聖母マリア様>に祈ったらいいのよさ」
ふふ
自分がでっち上げた<偽聖母マリア様>に祈るとは、滑稽な話で御利益などある筈がない。
しかし、アエリアが私の暗殺を中断したのは、まさしくその<偽聖母マリア様>の御利益だったのだ。
______「私の心は聖母マリア様に救われました。あの天上の御方こそ、私をレイジー様へと導いた御方。私はもうこの地を離れるつもりは有りません」
アエリアが心酔するのはレイジーであって、聖母マリア様はその橋渡し的存在である。
信じる神は違えど、心の在り方を説く存在は、きっと人類を平和な世界へと変えてくれる事だろう。私はそんな世界を、異世界でも求めているのだ。
最悪、またあの巨大モンスター<ゴジラ>が襲って来たらと思うと、自分は天才なんだと言う自負が、ガラガラと崩れていくだろう。
「今のままでは足りていない」
モーリンさんのAZDを、最大パワーでぶっ放せば、案外ゴジラを倒せるかもしれない。
AZDは諸刃の剣......モーリンさんは、あの時急いで詠唱したから、術式が不完全だったと言っていた。それでも発動したのだから不思議な話である。
どこの術式を変えれば威力が変わるかなどは、高威力になる程、異世界の誰にも分からない。
訊けばSランクの超級魔法は、師匠からの一子相伝が普通なのだそうだ。
モーリンさんには弟子が居ない以上、AZDはここで途絶える運命と言う事になるだろう。
◇防御シールド◇
「村全体を覆うシールドがあればどうかな?」
ん?
私は何か重大な事を忘れていた。
「そうか、アレをこうすれば......その手でいけるじゃないか?!」
こんなヒントをくれたのも、案外<聖母マリア様>の御利益だったのかもしれない。




