EP71 突入ダンジョン4階層の怪異
______ブウ~ゥゥゥ
パァァ~
音はしていないが、なんとも不思議な幾何学模様が、私達の目の前に展開している。
『美しい』
天才科学者故に、魔法陣につい見惚れてしまった私は、同時にこんな事も考えていた。
「魔法とは私の理解を越える現象なのだろうか? いや科学で解明出来る筈だ」
私はいつか解明してやろうと、じっと魔法陣を見つめていた。
複数の五芒星が、目まぐるしく交差する蒼白く光り輝く転移魔法陣から、後続の助っ人が転移して来た。
現れたのは、攻略メンバーから外れた機嫌の悪いバイソンと、モーリンさんの二人だった。
そして出た言葉は。
「あらあら、私もデキちゃったぁ~」
モーリンさん?
まるで遊園地のアトラクションでも楽しんだような声で。
留守番の筈だった想定外のモーリンさんまでが、喜色満面で転移して来たのには、流石に想定外である。
どうして?
「......あのね、レイジーさんを見て、私も主人にくっ付いていれば、転移出来るかな~と思ったから、なんと私、出来ちゃいましたぁ~♡」
出来たと言うと、鈍感な私でもピンとくる誰もが思うだろうアレしかない。
モーリンさんは、意味もなく腹まで摩っているので、余計に紛らわしいのだ。
さす さす
「モーリン、出来た出来たって、こんな所でお前、何を言っているんだ? レイジーに誤解されちまうだろうがよ。それよりルルはどうした?」
すると目を少し斜め上にし、長い髪の毛先を指でくるくる回しながら、モーリンさんは恥ずかしそうに宣った。
「あはっ、いえね、レイジーさん秘書のKannaさんがね、ルルの面倒をどうしても、みたいって言うから......それでお願いしちゃったのよ」
今の社長秘書kannaは、大変機嫌がいい。私のゴニョゴニョが相当効いて、今なら何でも許してくれるだろう。
私が何を言ったのか、バニラ・アイス達の鋭い追求があったが、これは私とKannaの秘密なのだ。
______「もう出来てしまったのは仕方がありません。じゃモーリンさんも、バイソンの大将と一緒に、3階層で待機していて下さい。お体を大事にしてくださいね______」
私はこれでも気の使える男だ。
「ちょっと待てレイジー、何度言ったら分かる。出来てねえんだ。おいモーリン、腹を摩るのは止めろ!」
てへっ♡
緑の5人以外のバニラ・アイス、桔梗、Reno、ルチアとデリーシャも転移して現れると、私は再度確認をとった。
「何かあれば、私の娘達にすぐ救援要請を入れます。4階層では何が起きるか分からないので」
私の言葉にアデリアが大きく頷いた。
「そうだぞバイソン、あたしが付いているんだから、お前と出来たモーリンの出番はないと思う事だ」
「いや出来てねえんだ」
ままぁ できたって なにがぁ~?
「ルルちゃん、これはね、大人の話だから、今は分からなくていいのよ」
「アデリアてめぇ、絶対に楽しんでるだろ」
バイソンとモーリンさんは同じSランクなのに、アデリアの物言いは、二人共あたしとレイジーの邪魔だと言っているのだ。
◇いざ4階層へ◇
______「それでは私達4人は、4階層に突入します」
と私が言い終わる前に、なんとバイソンの大将とモーリンさんまでが、私達より先に階段に足を踏み入れてしまったのだ。
ダン
カッ
「おいバイソン、モーリン、貴様何をやっている!」
アデリアが激高したが、もう二人を止める事が出来ない。
あの勢いなら、すぐに4階層に降りてしまうだろう。あっという間に二人の姿が見えなくなった......と思ったら転移魔法陣から、バイソンの大将だけが______
<ぺっ>
と擬音がしたかのように吐き出されて来た。
「どうしたバイソン、モーリンはどこだ?」
「それが4階層に俺の足が着いた途端、俺だけが弾き飛ばされた」
「......バイソン。何故かは知らんが、お前はもうダンジョンに拒否されたんだ。もうここで大人しくしていろ!」
「何故だ! いや、すまねぇ。モーリンを頼む」
大人しくなったバイソンを放置して、今度こそ私達4人は急いで階下へと降りていった。
キャァァ~
あーれぇ~
ボロ布を裂くような、モーリンさんの悲鳴が聴こえた。
「チィ、このダンジョン、初めてのモーリンさんが襲われたんだ。新手のモンスターか.....一体どんなモンスターだ?」
「分からんがレイジー、これは新種のあの<サンド・クッキー>かもしれんな」
ほえぇ?
しかし私はそこでアデリア、アエリア、ジョーに命じた。
「緊急事態以外、絶対に技を出さないで!」
「レイジー、場合にもよるが、その判断はお前に任せていいのか?」
どんな事態になっているのかは、4階層に降りなければ分からない。
「でもレイジー様、モーリンさんは今、モンスターに襲われているんですよ、すぐに助けなければ!」
その気持ちは私だって同じだ。しかし相手は手を変えて来るダンジョン。まずモーリンさんがどうなっているのか、それで対応するしかないのだ。
「アデリアとかぶら、闘気は練るな。アエリアも武器は絶対に出すな!」
切羽詰まった時、私が命令調になるのは仕方がない。
タン
先に4階層に踏み入れたのはアデリア。彼女の美しい瞳が捕らえたものは、いったい何だったのか。
「何だこれわ! レイジー!」
その悲鳴にも似たアデリアの叫びに、私とアエリアは最悪の事態を想像してしまった。
タン
タン
ダッ
続いてアエリア、ジョーと私が4階層の床を踏んだ。
◇阿鼻叫喚の4階層◇
______4階層はそれまでの薄い青から変わって、内蔵を思わせるような不気味な照明で照らされていた。
「モ、モーリンさんはどこだ?」
「いた!見ろ! 無事みたいだぞレイジー。生きている」
「「なんなのよ、これは!!」」
アエリアとジョーがはもった。
私達が見た光景とは、それは信じがたいモンスターの概念を破るものだった。
「あらぁ~あらぁ、皆さぁん あへぇ~♡ 大変なところをお見せしてますぅ~はひぃ そこわぁ~♡」
直径3mはあろうか、ピンク色をしたスライムがモーリンさんの頭だけを出して、スッポリ包み込んでいるのだ。
「あ、あれはどんな攻撃をされているんだ? 分かるかアデリア、アエリア!」
私には到底理解出来なかった。
「見たところ溶かしているな。レイジー」
「えぇ溶かしてますね。服だけを。レイジー様」
「それで、これは緊急事態なの? 兄貴ぃ」
「わからん」
モーリンさんは、少しも助けてとは言わないのだ。
「あのさぁ兄貴ぃ、ボクにはモーリンさんが喜んでいるみたいに見えるんだけどぉ」
確かに、モーリンさんは<あへぇ♡>とか<いやぁ~ん♡>と言いながら、恍惚の表情を浮かべているのだ。
服は既に溶けてモーリンさんはスッポンポン。
ピンクの大型スライムは、何らかの攻撃を仕掛けているように見えたが、満足したのかやっとモーリンさんを開放、その場から悠然と去っていったのだ。
はぅぅ~♡
目の前には妙な声を出しながら、恍惚の表情をしたスッポンポンのモーリンさんが残された。
「はぁぁん なんて危険で恐ろしいダンジョンなの!」
私はスッポンポンのモーリンさんを抱き上げて階段へと向かうと、突然足元が光り出した。
「レイジー、転移魔法陣がこんなところに!」
「兄貴ぃ」
アデリアとジョーの声が聞こえたと思ったら、私とモーリンさんは、バイソンのように3階層の魔法陣まで飛ばされてしまった。
ぺっ
「レイジー、なんでおめぇまで.......ってモーリン、お前なんでスッポンポンなんだよ! レイジー、下でいったい何があった?」
「ピンク色をした3mのスライムです。モーリンさんはそれに飲み込まれて、あっと言う間に......」
スッポンポン
「おめぇの話、全く訳が分からんが、兎に角俺はモーリンを家まで運んだらすぐに戻る」
そう言い残して、バイソンはモーリンさんをお姫様抱っこして、入口に向かう転移魔法陣に消えていった。
『私は見てはいけないものを......見てしまったけれど、これは事故なんだ』
=レイジーチャンネル通信=
=あ~ジョー、下はどうなっている?=
=あっ、兄貴とモーリンさんは無事なの?=
=あぁ、3階層まで飛ばされただけだ=
=じゃ、アデリアとアエリアに、これからどうするか相談するのよさ=
=そうしてくれ=
◇作戦続行 スッポンポンの誘惑◇
______「そうかレイジーとモーリンは無事だったか。飛ばされただけなら、我々だけでも、もう少し進んでみようではないか」
アデリアはそう決断を下した。
私達は、4階層の床に足を踏み入れただけだった。
なのにバイソンは飛ばされ、私も飛ばされたけれど、モーリンさんだけはあのような姿で返品? されて来たのが分からない。
しかし今のところ、4階層で命を落とすような事はなさそうである。
そう考えた私は、ジョーに指令を送った。
=ジョー、もう少し4階層の情報が欲しい=
=アデリアとアエリアもその気だから、作戦は続行するのよさ=
作戦続行と訊いて、我慢しきれなくなったのは娘達だ。
「父ちゃんさぁ、私だけでも行っていいよね?」
「何を抜かす糞ウサギ。この身もウズウズしているのだ」
「しかし下衆様、これはなにか妙ですね」
Renoが何かに気づいたようだ。
「なんだReno、この際だから何でもいいから話してくれ」
「では。はっきり言って、バイソンと下衆様はダンジョンに嫌われたのです。ですからもう、4階層へは降りられないと思うのです」______
そんな馬鹿なと言う顔で、ルチアとデリーシャが、Renoを見つめていた。
異世界にそんな差別をするダンジョンは存在しないのだ。ダンジョンが発生する仕組みは、未だ解明されてはいないけれど、このダンジョンは特殊と言うか、やはり異常なのだ。
______「それは有り得るかもしれない。しかしモーリンさんの事はどう説明するんだ?」
「恐らく満足したからでしょう」
何に?
「スッポンポンにしたからでしょう」
げぇぇ
Renoの推測を訊いた途端、ルチアとデリーシャが、着ている服を両手でぎゅっと押さえ込んだ。
「じゃ私達が降りていたら、きっと、デリーシャ」
「きっとモーリンさんと同じように、スッポンポンにされていましたね」
い、いやぁ~ん♡
「なんだ? 二人共嬉しそうにしているのは?」
「ルチアとデリーシャは変態か? ならReno、アデリアとアエリア、かぶらはまさか今頃!」
スッポンポン!
スッポンポン!
スッポンポン!
私の脳裏には、スッポンポンの三人が手を振り上げながら行進している。
「下衆様......そのまさかが、現実になっているのでしょう」
私は女心には疎い。しかしスッポンポンは別、芸術なのである。
「こうしてはいられない! 私はもう一度降りる!」
「ちょっと下衆様ぁ!」
「父ちゃん!バニラも行くぅ」




