EP72 一か八かの<メルト・ゴーレム>攻略法
______なんと言う事だろうか。ついさっきまでは、4階層は内蔵を彷彿させる不気味な照明だった。
アデリア達が歩みを始めると、また薄い青い照明に切り変わったのだ。
あれ?
「私の時はずっと青色でしたけど? 青から内蔵色と変わったのは、4階層がリセット? されたって事?」
アエリアが感じたリセットと言うなら、また4階層が初期状態に戻った事になる。
同時に三人の脳裏には、モーリンさんのアラレモナイ姿が浮かび上がった。あのスライムから頭だけを出した姿である。
あぁん~
「どうしよう......ボク、着替えなんて持ってないのよさ」
ジョーがビビり出した。
あへ
「案ずるな。あたしもだ」
三人が同時に同じ事を考えていると、妙な期待感が三人の想像を掻き立てていた。
「はぅぅ......でも今度はスライムじゃない、もっと別の悍ましいモンスターが出るのぉ~? アデリア~」
ジョーの声が、興奮したのか上ずっていた。
「だ、だとしたらですよ、私達ってもっと酷い目に遭っちゃって、あんな事や、そんな事をされて......いやぁ~ん」
いやぁ~んと叫んだアエリアが、元アサシンだったとはとても思えない変わりようだ。
その原因は、言うまでもなくレイジーである。
へ ヘクション!
______「て、てめぇ等、そんな内股じゃ歩けんだろうが。しっかりしろ!」
アエリアとジョーがアデリアを凝視すると、股間が震えているのか、アデリアもやはり内股歩きだった。
「ダンジョンはな、う、あたしのような内股歩きがいいんだ。これが安定する」
そんな苦しい言い訳など、誰でもわかった。
ひそひそ
「そんな馬鹿な」
「そうよそうよ」
______内股歩きのアデリアを先頭にして、アエリアとジョーがへっぴり腰で進んで行く。
パワーと武器で襲って来るモンスターしか経験がなく、こんな変態ダンジョンでは勝手が違うからだ。
「よ、4階層のスライムは、こちらが攻撃しなければ大丈夫だ。何かを掴まねば、あたしがレイジーに合わせる顔がない」
「そ、そうよね、5階層の攻略のヒントにもなりそうだから、私達3人が、兎に角ここでがんばらないと!」
「何をされてもボク達三人が、我慢しなきゃ」
「「「そ、そうよ!」」」
ドキ
ワク
ドキ
ワク ドキ ワク
三人は、もはや4階層の謎を解くという目的よりも、怪しい期待と妄想を膨らませて進んでいるのだ。
ところで、4階層に出現した3mもある巨大ピンクスライム。
そんなスライムは、どんな冒険者でも遭遇した事がない新種だった。
冒険者組合に新種発見を届ければ、その発見者に命名権が与えられる事になっている。
◇メルト・スライム◇
______「さっきのアレだが、ここはあたしに名前を付けさせてもらう。<メルト・スライム>だ。異論はあるか?」
「「無いわ」」
スライムの名前などに、アエリアとジョーに感心はない。
返事は二人とも無いでいい。
「また<メルト・スライム>が出ても、レイジーが言っていたように、闘気と武器は出すなよ。我々までがダンジョンに敵認定されたら、もう打つ手がなくなる。しかしあたしはもう敵認定されている筈だが?」
「それは謎だけど、このダンジョンが、攻略出来なくなるってことよね」
「そうなると、あの巨大モンスター、ゴジラには勝てないのよさ」
歩いている内に少し冷静さが戻り、本来の目的を思い出したのだ。
話が纏まると、ジョーがレイジーチャンネルで状況連絡の為、胸のカンバッチに手を触れた。
=あ~テス、兄貴ぃ、ボク達は4階層の秘密を探るから。それとでかいスライムは、アデリアさんが<メルト・スライム>って名前を付けたよ=
ザッ
=続行するのか。分かった。何かあれば、すぐ救援要請をするんだぞ=
ザッ
=ラジャ=
「ほう、<かぶら>は便利な物を持っているんだな。それは魔道具の一種か?」
「いえいえ、兄貴が作った単なる小道具ですわ」
ほほほ
ほう。
「レイジーは薬だけでなく、そんな小道具まで作るとは凄い男だ」
『やはりレイジー様は素晴らしい御方。あたしも欲しいな、それ』
同じことは、アデリアも当然思っていた。
「うっ、欲しい」
暫くへっぴり腰で歩いて行くと、4階層の照明が紫色に変わった。
「気をつけろ! 今迄にない新手が来る前兆だ」
「でもアデリアさん、どうすれば?」
「ただじっとしていろ。何もするな」
ガシィ~ン
ガチャン
ガシィ~ン
ガチャン
重い地響きがする。
「この感じはゴーレムだろう」
「「ゴーレム!!」」
Sランクのアデリアなら、ストーン・ゴーレムに遭遇して戦った事が何度もあった。
「ゴーレムだろうと万が一、戦闘になってもあたしのMDで倒せる」
「私だってストーン・ゴーレムくらい」
「ボクを甘くみないで欲しいのよさ! ヒョォ~」
石など軽く切り裂く、ジョーの南友千葉拳の威力は凄まじいのだ。
例え戦闘になっても、ストーン・ゴーレム如き、三人には勝てる自信があるのだ。
「何でもいい。もし戦闘になったら一撃で仕留めて3階層まで離脱、4階層攻略はここで終わりだ。いいな!」
アデリアは良く分かっていた。
命の方が大事なのだ。ここで死んでは、レイジーの妻になるという三人の夢が、夢で終わってしまうのだ。
「それだけは、それだけは断じて諦める訳にはいかないのよ!」
三人の決意の言霊が、4階層に響き渡った。
ダン
ズン
ダン
ズン
「ちょっと父ちゃん、下は大変な事になってそうだよ」
「御屋形様、かなり重量があるモンスターが現れたとみていい」
「下衆様、救援に向かうのですか?」
私はあの三人の実力を知っている。
「待て。簡単にやられる三人じゃない。ギリギリまで待とう」
=兄貴ぃ 出たぁ~=
ジョーの短い連絡は、救援要請では無いようだ。
=ジョーどうした、何が出た?=
しかし返事はなかった。
「糞ぉ、あれはストーンじゃないメタル・ゴーレムだ!」
「じゃぁ、私の鋼線攻撃が効かないわ」
「ボクの南友千葉拳でも、あれはムリポぉ~」
メタルに有効なのは超冷却魔法で、殴打や真空、電気攻撃は効果が低いのだ。
チィィ
予想に反してストーン・ゴーレムで無い事に、Sランクのアデリアでも焦りを見せた。
しかもメタル・ゴーレムの目からは、赤いビームを放射しながら、ダンジョンの壁や床を溶かしながら歩いて来るのだ。
ダンジョンは破壊しても、時間が来れば自動で修復される。しかし今はそれが問題ではない。
「くっ、Aクラスのメタルか。こんな奴が相手では、あたしでもキツイぞ。せめて凍結魔法が使えるモーリンがいてくれたら」
アエリアの鋼線、真空波を生むジョーの南友千葉拳でも、超硬金属を切断する事は出来ないだろう。
Aクラスのメタルは、それ程の硬度があるのだ。
「あの怪光線を浴びたら私達は終わりだ。一端、3階層まで後退する。<かぶら>小道具でレイジーに連絡を」
ピィィー
きゃん
メタル・ゴーレムが発射した赤いビームが、ジョーの胸元をかすめ、同時にカンバッチ型通信翻訳機を破壊してしまった。
あぁ!
「駄目ぇ、連絡が取れなくなちゃったよぉ~」
「かぶら、今なんと言った? それはどこの言葉だ?」
カンバッチ型通信翻訳機が破壊されて、異世界語を翻訳出来なくなったのだ。
こっちの攻撃は効かないし、これでは救援要請も出来なくなった。
「レイジー......」
「あぁレイジー様」
「兄貴ぃ~レイジー博士ぇ......」
「「「もう一度 会いたかった」」」
走ってもあの赤い光線からは逃れられない。隠れる場所もないこの狭い通路では、もはや生を諦めるしか無かった。
くぅぅ
ピシャァァ
容赦のない紅い光線が三人を直撃、壁も床も飴のように溶け出した。
!
「そうか三人共、服を脱いでメタル・ゴーレムに投げろ! 早くしろ」
不思議な事に、確かに服も溶け出しているけれど、壁や床に比べれば溶ける速度が各段に遅いのだ。
「アデリア、何か策があるのね」
「あぁ、一か八かの賭けだ」
アエリア、ジョーも真似て全てを脱ぎ捨てると、メタル・ゴーレムに向かって放り投げた。
グルン
途端にメタル・ゴーレムが、投げ捨てた服に向きを変えた。
「やはり! よし今だ!」
アデリア、アエリア、ジョーは一目散に3階層に通じる階段に走った。
しかし
ヌボォォ
ズボォ
ヌポン
何かに行く手を阻まれたかと思うと、三人とも居なくなった筈のメルト・スライムの中だった。
ぷはぁ~
頭だけを突き出しているので、呼吸は出来る。
「待ち伏せされた! 後、もう少しで階段だったのに、これでは助けを呼べないぞ」
あぁん~♡
あひぃ~♡
そこは あぁ~♡
暫くスライムの中で、何かがモゾモゾ体を弄られていたが、10分もするとメルト・スライムは三人を吐き出し、飛び跳ねながら去っていった。
「モ、モーリンがされたのは、これだったのか! 癖になりそうだ」
「恐ろしい技に、失神しそうでした」
「8vk#$7!]
「でも、わ、私達、助かったのよね」
三人はスッポンポンを忘れて、命が助かった事がしみじみ嬉しかった。
「戻ろう。レイジーの元へ」
「帰りましょう」
「......?!」
翻訳出来ないジョーは、雰囲気で察した。
うむ
そ、そだね
「生きて帰れるんだ。そこは裸だろうとドーンと行こう 行くしかない」
アデリアは平気そうでも.....そうでも無かった。
「いや、しかしレイジーには見られたくないと言うか、見られたいというか.......ポッ」
「わ、私も」
想いは同じ三人だった。




