EP63 初潜(ダイブ) ゴジラ森の謎ダンジョン
______私が昔見た、1950年代製作のSF日本映画<ゴジラ>。恐らくS級以上のモンスターが現れた森の中で、偶然発見した謎のダンジョンを明日、8人で攻略する話になると、初耳の緑の5人は大きな興味を持った。
ただそれが英語発音の<ガッジィーラ>が出現した場所と訊いた途端、顔色がにわかに曇っていくのが分かる。
Oh my Oh my God!
それはそうなるだろう。
「訊くがあんた達、8人で穴に入ってどうするんだ?」
穴? どうするって?
彼らのタブレット翻訳器では、ダンジョンをうまく翻訳出来ないみたいだった。
「あの皆さん、それはただの穴ではないんですよ」
「未知の洞窟を探検するのか?」
オルガ隊長の言葉は、翻訳機がAI学習で進化して、変換効率が良くなって来ているのは分かるけれど、AI誤訳の原因はラノベ世界の情報が少ないからだろう。
私達と言えば英語は分かる。本当は翻訳機などは不要な訳だ。けれど残念ながら喋る時は、私の作った缶バッチ型翻訳器による、異世界語の口パクなのだ。
これには、謀二刻堂並みの高等技術が必要になってくる。
=私にはまだ無理=
=父ちゃんは演技が草ざんす=
=バニラ、下衆様にそれを求めても無駄と言うものです=
=うむReno、我等の御屋形様には口パクでさへ、三文芝居は難しいのだ=
=君達ぃ、丁寧に完全分解してメンテしてあげようか? 一年間シャットダウンしてあげるね=
=ひぃ=
______ダンジョンにはお宝があって、運が良ければ<ガッジィーラ>を倒せる武器が手に入るかもしれないと、いくら説明されてもここは異世界、本来地球人が理解出来る筈がない。
モンスターを倒せば、魔石を換金してGが手に入る事すら彼等には初耳で、それはここに来た当時、私達も同じだった。
<申し出>
______「すまない、君がリーダーのアデリアさんか。私達は何でも一応、経験をしておきたい。私達は格闘技とナイフ、それにあの時見ただろう? 特殊な飛び道具も持っている」
『あぁ光の線が出たアレの事か。確かにあたしは初めて見た代物だったが、威力はそれほどでもなかったな。それは君達を、謎ダンジョンの攻略に加えろと言っているのか?」
オルガ隊長を含めて、緑の5人の興味はダンジョンとはどんな世界なのか、そしてモンスターを倒せば金になるのも魅力だった。
異世界で暮らすと決めた以上、あらゆる事を学び異世界に同化して自活する必要がある。
彼らはガッジィーラから逃げる為、シャトルを捨てた時点で新しく出来ると言う異世界村の住人になる決意をしてここまで来たのだ。
威厳と覚悟に満ちた隊長が、配下の4人を見渡した。
「軍人が一般人に甘えて生活するなど、有り得んからなトーラス副長、貴様等も」
「御尤もな話ですな、隊長」
ところで、私もアデリアも同じ事を考えたらしい。
ダンジョンの2階層程度までなら、初心冒険者の練習コースみたいなもの。デリーシャは腰を抜かしても、緑の5人なら問題はないだろうと。
______そう判断出来たのは、アエリアの情報があったからだ。
「2階層までならスライム、ゴブリン、スケルトンが出るの。そいつ等は刺突殴打だけで倒せるけれど、5階層には武装したゴブリン・グレート、ポイズン・スコルピオンのような装甲の厚いモンスターが出るので要注意です。私は何故か襲われなかったので、問題ありませんでしたけれど」
アデリアは面白くなかった。
「5階層のモンスターは、Dランクが5人では勝てない。しかしSランクのあたしとBランクヒーラー、ルチアが居るのだ」
私は私で、総戦力についてもう一度シュミレーションしてみた。
『これ完全にオーバースペックだろう。その上、未だランクは不明だけれど、アンドロイド三人娘が付いているし、これではモンスターに同情するレベルだろうな』
と
「ふむ、いいだろう。ならば明日は、同行して貰うがリーダーはあたしだ。指示には従って貰うぞ」
アデリアの言葉に異論は無い。5人は軽く頷いた。
結局、総勢13人という大所帯になってしまったけれど、これだけ雁首が揃うと、デリーシャみたいな遠足気分になってしまう。
その点、アデリアがダンジョン内の注意事項を言い聞かせたのは、流石に油断させない為だ。
◇かるがも?◇
______翌日の朝、装備を整えた13人が揃った。
「揃ったか? 新しい謎ダンジョンだが今日は初日。3階層までを目標にした日帰り攻略だ。遠足気分で気を抜くと命取りになるぞ」
『流石に冒険者組合長だ』
簡潔なアデリアの挨拶だけれど、私はアデリアの言葉に気持ちが引き締まる想いだった。
ザ ザ ザ
アエリアを先頭にして歩く姿は、まるで<かるがも>だ。
そんな可愛いメンツばかりじゃないのだけれど。
謎ダンジョンに到着すると、まずアデリアとアエリア、桔梗が先導し、私は中間で緑の5人は最後になった。
ルチアとアデリアは私と並び、バニラ・アイスだけは遊撃で自由にさせている。
「これがダンジョン!」
コンバット・ナイフを手に初めて見るダンジョンは、緑の5人にとって異様な世界に見えた。
LEDライトのような青白い光が、自動で燈った事もある。
「この灯りは魔素ですよ。私も遥か東方の田舎から来たので、最初は驚いたものです」
「電源要らずなのか......魔素とはいったい」
「歴史ある西洋の古城なら、こんな感じでしょうな。しかし自動で灯りが燈るとは、ハイテクと言えばいいのか」
ブルブル
「ボス、お化けは嫌です」
「なんだポッター、軍人ともあろう者が情けないぞ」
「しかしですよ副長、幽霊にナイフは刺さらないんですよ」
「おまえなぁ、ビビり過ぎだ」
でもぉ
「下に降りる程、モンスターが強くなります。気を付けて緑の人。それとスケルトン以上の死霊系モンスターも出ますから」
ほらぁ~ ボスぅ 出るって。
緑の5人の情けない会話を訊いて、油断しているように思ったのか、アエリアがもう一度、促してくれた。
「それ見ろポッター、貴様のせいだぞ」
「しかし、怖いものは怖いのです」
______一階層の通路の幅は約2.5m、13人が縦列で進む。一応ナイフを振り回わせるように、前後の距離は確保はしている。
私は自作の振動ナイフを抜きもせず、ダンジョンの観察に専念していたけれど、緑の5人は警戒態勢でピリピリしているのが分かった。
相手が人間ではなくモンスターでも、ここは戦場と変わりがないのだ。
尤も、ゴブリン程度が出現しても、前衛のアデリアか桔梗、中衛に下がったアエリアが瞬殺してしまうだろう。
私はアデリアのMDは一度見ている。しかし緑の5人が、アエリアの見えない鋼線攻撃を知ったら、どんな顔をするだろうか。
アエリアが繰り出す技は、ケブラー製の防刃ベストでも、防弾チョッキだろうが、骨と肉まで切り裂かれて絶命するのだ。それ程の威力があると分かっている。
未知のダンジョンに、未だ緊張を隠せないのは緑の5人。
「そんなに緊張しなくていいです。見たでしょう? アデリアは化け物みたいに強いし、私の娘の桔梗もなかなか出来るから」
『本当のお化けはうちの娘三体ですけど』
=レイジーチャンネル通信=
=バニラとReno、暫くは前衛のアデリアと桔梗に任せて、手を出すなよ=
=お任せを。弱小モンスターなど、肩慣らしにもなりませんので=
=え~=
=その通り。ゴブリン程度、半端な緑の男どもでも十分です=
などと言っていると、天井から音もなく風船大のゼリーが、緑の一人の頭に落ちて来た。
ひぃっ
狙われたのはポッターで、そのモンスターは本能的に、恐怖する弱い獲物を狙らったのだ。
「気配のないサイレント・スライムだ。中の核を狙え! 頭を包み込まれたら窒息死するぞ、早くしろ!」
緑の5人は仮にもエリート軍人、ここで手助けは無用だ。
緑の5人は、手にしたコンバット・ナイフでスライムを滅多刺しにし、核を砕いてようやくスライムを倒すと、そのスライムは溶けるように消滅していった。
「貴様ら4人掛かりで何をしている。子供でも倒せる下級スライムなんだぞ!」
むぐぅ
アデリアの厳しい物言いに軍人のプライドが傷付いたが、初めて見る砕けて落ちた紫色の石を拾い上げた。
「これが魔石か」
「ふん、そんな砕けた物は、10G=100円にもならん」
アデリアの小馬鹿にしたような態度に、緑の5人にも段々とこのエルフの性格が見えて来た。
「ボス、もしかして超性格ブス?」
「これで貴様等の目が覚めればいいがな」
プッ
英語がストレートに分かる私は、思わず吹き出してしまった。
「おいレイジー貴様、あいつ等が今言った<ブス>の意味が良く分かってたみたいだなぁ~何故だぁ~ いい意味じゃなさそうだがぁ~?」
「いや誤解ですよアデリア・さ・ん」
「ここはまだ1階層なんだが! 何故・さ・ん など微妙な間の言い方をする! 前から思っていたんだが......レイジー、貴様の言葉だが、どうも口が遅れているのは何故だ?」
ギクゥ
あは あは。
「帰ったらじっくりゲロしてもらうぞ! いいな!」
「......ボス、やっぱりブスで間違いありません」
「それ以上言うなよポッター。折角の就職先が首になるぞ」
リ、了解であります。
「ふぅ良かったぁ。私、アレが出るかと思って、ヒヤヒヤしちゃった」
「ルチアと言うのね。アレとは何の事ですか?」
「なんと言えば......」
※アレ=<タマキン・エスケイプ>
事情を知らないアエリアが、のんびりと訊いて来た。
「あ~、ルチアちゃん。その話は帰ってからでいいよね」
私はアデリアの本当の恐ろしさを、今は緑の5人に話さなくてもいいと配慮したのだ。
「ルチアちゃん、こんな所で犠牲者を出しても仕方がないよ」
「で、ですよねぇ~」
ルチアも納得の表情である。
『レイジー様、何がルチアちゃんよ!』
え? 私はなにを?
アエリアは妙にイラついた自分に驚いていた。
◇2階層◇
______1階層で出るのは殆どがスライムで、その対処法さへ分かれば緑の5人でも楽勝だったのだ。
「10匹倒しましたよボス」
「うむ、慣れればいけそうだ」
「スライム如きに浮かれるな。まだほんの序の口だと言う事を忘れるなよ」
アデリアの激が容赦なく飛んでいる。
「皆さん、2階層はゴブリンです。集団で襲って来るので警戒してください。格闘戦になるでしょう」
アエリアのアドバイスは、初心者には有難い。
ゴブリンと訊いて、うずうずしているのはバニラ・アイスだ。
何しろチタン超合金製の金ダライで頭をド突くと、とてもいい音がするからで、それからタライをメイン武器にしたバニー・ガールになった程だ。
=父ちゃん、まだダメッすか? 呪われたこの右手が疼くのれす=
=いつ呪われたんだバニラ? そのままステイだ=
=ぐぅ=
グェ グェグェ グェ
噂をすればやって来た。知能は低いけれど、奴等の棍棒が直撃すれば骨は砕けるだろう。
「先頭は5匹、後方にまだ多数来る。ここはあたしに任せて、緑は隠れて見ているがいい」
言うなり、アデリアの拳に赤と黒いオーラが纏わり付いた。
ズゴォォォ
「では桔梗も参る」
桔梗は腰を深く落とし、<亀頭流48手抜刀術>を繰り出そうと、妖刀ムラムラの束に手を添えた。
「出るぞ、アデリアのMDと、久々に見せる桔梗の抜刀術が」
「闘気10%」
はァァァ!
亀頭流48手抜刀術<百微塵斬!>
「これは使える! キャベツ料理に!」
私は思わず叫んでしまった。
ぬあぁぁ!
MDの闘気波と、百の短真空波が交差する即席のWコンボだ。
フゥ~
チン
桔梗が妖刀を鞘に納めると同時に、あっという間に先頭の5匹と、後続のゴブリンは消しび、千切れて消えた。
「「むぐぅ」」
「「「すげぇ」」」
緑の5人に、これ以上の言葉は出なかった。
ポッター、ビーノ、ジョニーが落ちた黒い魔石を数えると15個あった。
「ふん、それは緑の貴様らにくれてやる。一個15G(150円)程度、ナイトメア亭の宿代には足らんが、今日の記念にでもするがいい」
「ボス、くれてやるって......性格ブスが」
「ポッター、口を慎めと言っているだろうが!」
ピクっ
アデリアがまた反応したけれど、ここがダンジョンの中だった事に感謝するべきだろう。さもなければ、アデリアのスキルが炸裂していた。
「ところで桔梗と言ったか。貴様やはり凄腕だな。その太刀、さぞ名のある業物と見た。ならば冒険者組合で実力判定試験を受けてみろ。貴様は薬師Fランクなどでは収まらん腕だ」
私にとってこのアデリアの言葉は、実に都合が良かった。私もアンドロイドの娘達の本当のランクを知りたかったからで、よく考えると試験官は誰になるだろうと、それが気になってしまった。
『まさか、アデリアとバイソンが? ちょっと楽しみになってきた』
「幸い、墓地は広い。実力判定試験で、観光客から見物料を取るのも一興だぞレイジー」
おぉ!
成る程、成る程いちいちアデリアの話は面白い。
どうせ冒険者組合が出来るのなら、見物料を取って見せるのもアリなのだ。
「私は帰ったら、Kannaにそのアイデアを村の整備計画として実行させるつもりだ」
「よし次だレイジー。3階層に向うぞ」
アデリアも娘達も、これなら余裕でと3階層を目指すのだった。




