EP64 思考するのか! 謎ダンジョン☆
______総勢13人が、ダンジョンの2階層で戦っている時。
計画中のまだ正式な名もない村で一人、愚痴と呪詛の嵐を吐く女。
ここは、仮称聖母様村の計画準備コーナー。私の薬屋の一階フロアの片隅にある。
あるのはテーブルが一つと、木製の椅子が数脚あるだけのお粗末な事務所で、事務員は私の秘書Kannaと、ドワーフのイーノの二人だけなのだ。
ドン!
ぷはぁ~
「冷えたエールでも飲んでなきゃ、ボクやってられないのよさ! 」
悔し涙を流しながら、やけ酒で大荒れのジョーの姿があった。
「あんたイーノ、特大ジョッキ大盛でもう一杯、隣(ナイトメア亭)からパワハラ社長のツケで買って来て。もちろん、またモーリンさんの冷却魔法で、キンキンに冷やしてくるのよ! キンキン」
「え~またですかぁ~? 3杯目ですよ、かぶらの姐さん。薬作りの仕事はいいんですかい? それにモーリンさんも呆れてましたよ」
「股じゃない。イーノ、キミも飲んでいいから。今日はもう閉店、閉店なのよ」
!
「ヘイ、それなら姐さん、喜んでお付き合いしやす! 私も特大でいいですよね!」
好きにして。
「おっと、それなら姐さんLOVEの親衛隊、三馬鹿トリオも呼べばいいじゃないですか?」
久しく私も顔を見ていないけれど、聖母様参道の整備で何かと労働力にはなっているのだ。
その賃金は、デブーラ男爵様から支払われているので、酒代に消えようが私の知った事ではない。
「ジャッカルにチャーシュー、メンマ。ラーメンじゃないのよ。却下、却下。何がLOVEよ。あいつ等と飲んでもストレスが溜まるだけだから」
「ジャッカルっすか。納得でやす。では一っ走り」
イーノは満面の笑みで、言われた通りに隣にあるナイトメア亭にスッ飛んで行った。
社長から怒られても、それはかぶらの姐さんのせいにすればいいのだ。
村の整備計画担当のイーノは、酒が絡めばジョーの言いなりだ。
そのイーノ・タダーカは、私も初めて見るドワーフと言う種族だ。特に人間と見た目は変る所がなく、別に背が低い訳でもない。一つ、ラノベ通り大の酒好きなのは本当だった。
私は思う。
どうして地球のラノベ文化が、異世界に存在するのかと。
多種多様の世界があるとしても、なんだか出来過ぎているように感じたのだ。
______ジョーとイーノのやりとりを、やはりストレスだらけのKannaがずっと眺め、訊いていた。
「......かぶらとイーノは昼間から大酒ですか? それも特大ジョッキで、全くいい御身分なことですが......ところでジョー、お腹がポッコリ出て来ましたね」
プッ
ギクぅ
「悪い? ジャッカル達はいつも朝から飲んでるし、kannaは飲めないもんね。飲めない食べないアンドロイドって、ホントかわいそ」
確かにアンドロイドには味覚も食欲もない。しかしAi-myuシリーズには、ある秘密があった。
ジィー
Kannaは、いつもかぶらが羨ましいと思っていた。何故なら敬愛するレイジー社長と、テーブルを共にして食事をする事に憧れを持っていたのだ。それは当然、バニラ・アイス、桔梗、Renoも同じなのだ。
「イーノは、あんたのいいパシリね。はぁ、それで<偽聖母マリア様>は、社長が居ない事をいい事に、また下痢でお隠れに(自主休業)なったと」
「そだよ。ボクは今、激オコなのよさ!」
ゴキュ ゴキュ
ブハァ~
◇ジョーのストライキ◇
<聖母様の御言葉がァ ない!>
<どうして私には!>
<嫁を質に入れて、やっと遠方から来たと言うのに>
<ひでぇ、あんたは鬼か?>
<俺はブローチも買ったんだ>
窓の外、なにやら人々の騒ぐ声が聞こえて来た。
「おや? 墓地では、聖母様のお告げがないと、参拝者が騒いでますよ」
「そんなのボクは知らないのよさ!」
異世界では、朝と夜の一日二食が普通なのだ。怒りで腹が減り過ぎて、昼飯代わりに酒をたらふく飲み、Kannaにジョーが絡んでいるのだ。
ウィ~
「ボクって、兄貴にうまく騙されて居残りしてるんだけどさぁKanna、ヒック、ボクの扱いって酷くない? アテレコなんてボクじゃなくても出来るのにさ」
「そうでしょうか?」
「Kannaは、今後の村づくりと言う大役を任されているし、新参の私が社長秘書という立場は案外、悪くないと思っています。丁度この場にイーノが居ないから言いますけど、ジョーが信者を誑かしてGを稼ぐのは結局、レイジー社長の為、村の為だと思いますけど 違います?」
うぐ
「それはそうなんだけど、コソコソと嘘アテレコ。それもどうかと思うのよねぇ~、今日はあのダンジョンにさぁ、場違いなデリーシャまで連れてって、それっておかしくない?」
「確かにあれは役には立ちませんね。社長は人間のメスに甘すぎなんです!」
「ボクだって、ボクだってその人間のメスなのよさ!」
ダン!
テーブルのジョッキが、一瞬舞い上がった。
「でもkanna、あんたが飲めたら、きっといい飲み友達になれたと思うわ」
全く。
「その点だけは、Renoも桔梗もバニラも同じですよ」
◇謎ダンジョン3階層◇
______「ふぅ、ちょっと作り過ぎたかな?」
「あのデリーシャさん......その籠は一体? まさか魔道具を持って来たの?」
デリーシャが武器を持参して来る筈はない。大事そうに抱えているので、アエリアが疑問に思ったのだ。
「これはですね、休憩の時に......私が......疲れたレイジー様に......あ~んして食べさせてあげる......愛のサンドと私が焼いたクッキーなの」
ポッ
なに! 愛だと!
耳と目のいいアデリアが、これを聞き逃す訳がなかった。
「デリーシャ貴様ぁ、ダンジョンにそんな危険な魔道具を持ち込むとわ! 没収だ!」
そ、そんなぁ~
アデリアだけでは無かった。ルチアもアエリアも同じ事を思ったのだ。
「「その手があった!」」
と。
「糞、このあたしが、デリーシャの小娘如きに先を越される所だった」
「むぅデリーシャ。そんなに知恵が回るのね! 帰ったらナイトメア亭の裏に連れ込んで......ダメダメ、ルチア、それはダメ」
「レイジー様の胃袋を掴もうなんて、なんて斬新なアタックなのよ。暗殺稼業では思いもつかない攻撃だわ」
三人が大真面目に料理を覚えなくちゃ! と思った。
当然、バイソンの大将とモーリンさんが料理講師になるのだろう。
◇モンスター来襲◇
______油断大敵とはこの事だ。
ピクッ
「来るぞ!」
=御屋形様!=
=あぁ、バニラとRenoからも通信が来ている=
「ボス、大群ならコンバット・ナイフよりハンド・レーザーガンで」
「総員レーザーガンを構えろ」
チャ チャ
緑の5人が構えたハンド・レーザーガンは、厚さ3mm程度の鉄板を貫通出来るが、ガッジィーラには無力だったシロモノである。
アデリアの一言で、一瞬にして警戒態勢に入った。一人を除いて。
天井には、紫色をしたポイズン・スライムの大群、地からは装甲を強化したゴブリンの群れ、その背後には......。
ズン ズン
「今度はCランクポイズン・スライムか。糞、B+ランク ゴブリン・グレートまで居るぞ! ここは3階層、奴等もう出るのか!」
「おかしいわ、あんなの10階層からよ!」
「おい緑、ポイズン・スライムは、核を外せば落ちて毒を食らうぞ。それも猛毒だ」
「リーダー、それは絶対に核を外すなって事か!」
「そうだ!」
ポイズンは焼き尽くすのが有効。しかしチームには火属性の使い手はいない上、狭いダンジョン内では酸欠を起こしてしまう。
「3階層でこれ程手こずるとは、想定外だ」
アデリアにしては焦りがあったが、それは潜った事のあるアエリアも同じだった。
......。
二人の焦りに、私はこのダンジョンの特異性に気付いた。
「もしかしたら人数! 最初はアエリアが一人。今は13人で攻略しているからか!」
このダンジョンには、ある法則があるのだと推測したのだ。
「アデリア! 撤退して対策し直した方がいい。このダンジョンはおかしい!」
私は夢中で叫んでいた。
Sランクのアデリアが居ても、3階層を突破出来ても4階層はもっと苦戦すると直感したのだ。
「むぅレイジー、お前の言う通りだ。ここで総員撤退する!」
緑の5人も死の危険をすぐ隣に感じていた。
「撤退するのも賢明な判断だ。撤退するぞ」
「隊長、これがダンジョンですか。恐ろしい所ですな」
アエリアの情報は間違ってはいなかった。しかしダンジョン自体が特殊だった事を、一人で潜り気づかなかったアエリアを責める事は出来ない。
私達13人は階段を上がって地上に出る事が出来た。
全員が急いで階段を駆け上がると、ルチアやデリーシャ、私も息を切らしていた。
「レイジー、お前の言う通りだった。3階層までなら、程度の低いダンジョンだと甘く考えていたのは、あたしのミスだった」
アデリアが謝罪する事など、ルチアもデリーシャも訊いた事がなかった。
「まだ夕方までには時間があるけれど、一旦ナイトメア亭に戻りましょう」
私がそう言うと、アデリアは珍しく素直に返事をした。
あぁ
Sランク冒険者の矜持よりも、冷静な判断をしたアデリアを、私は流石だと見直していた。
『嫌なエルフだと思っていたけれど、ちゃんと分かっている』
と。
帰路につく我々の足取りは重かった。誰も話をする訳でもなく、ただひたすら重かった。
「ふぅ~、帰りは軽くなると思ったのにぃ~。あ、ちょっと崩れている。でもレイジー様、野菜サンド食べません? あ~んして下さい」
「折角だけれど、まだ腹は減っていないんだ」
ショボン
デリーシャは逃げる途中、ドサクサ紛れにアデリアから籠を取り返していたのだ。
「デリーシャ、後でナイトメア亭裏な!」
「あのぉ~、私にも貰えませんかね? 緊張がとけたら腹がへっちゃってぇ」
あっという間に、雰囲気が変わったのはポッターのお陰だ。
アデリアは改めて、デリーシャの図太さに驚いた。
「あの体験を恐怖しないとは、なんともあてが外れ過ぎだ。流石に緑の5人は、もう潜りたいとは言わんだろうが」
帰路、私はアデリアと並んで歩いていた。
「アデリア、あのダンジョンは適応能力があると思う。推測だけれど、攻略メンバーが強ければ強い程、相応のモンスターが出るのではないかと」
ふむ......
「そうだな。あたしは今までに、こんなダンジョンを経験した事がない。レイジー、帰ったら知恵を貸してくれるか? お前は頭と顔だけはいいからな」
?
◇ナイトメア亭夕食前◇
______「ふぅーむ、そんな事があったのか」
「あらあら、随分と酷い目にあったらしいけれど、無事帰れて良かったじゃない」
安堵しながらもバイソンの大将とモーリンさんは、アデリア、ルチア、デリーシャ、アエリアと緑の5人の夕食準備に取り掛かった。
気になるのは、メニューだ。
「ルルちゃん、今日の山菜は何かな?」
ルチアが遠慮なしに訊いてみた。
きたの きのこぉ~
「ふんふんって、ルルちゃん、また北の湖に行ったの?」
うん いったぁ~
「げぇ、この子がたった一人で? ガッジィーラが居るかも知れないのに?」
ポッターの驚く顔は、緑の5人なら当然だろう。
ルルが転移魔法が使えると訊いて、余計にガッジィーラが転移する可能性が相当高くなったのだ。
「まぁ、それより今はダンジョンだ。レイジー、お前の意見を訊きたい」
アデリアの一言で、ざわついていたフロアが静まり返った。
3階層で突然、豹変したダンジョンの恐怖に、身が震える者ばかりだった。約一人をのぞいて。
「言える事は、常識が通用しないダンジョンなのでしょう。私が思ったのは、ランクが高い冒険者がいる事、それとチームの人数が関係したと私は推測しています」
「でも、そんなダンジョン、冒険者組合でもルチアは訊いた事がありませんよ」
厨房から訊いていたバイソンの大将とモーリンさんも、そんな馬鹿なと言う顔をして頷いていた。
『俺だって訊いた事がねぇ』
『ないわねぇ~』
初見でかなり真相に迫っていても、私の推測にはまだ一つ、隠された謎があった事までは気付けなかった。




