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EP47 デブーラ男爵領仮称聖母様村 一国一城の責任


◇卑劣エイプの罠◇

______子爵ともなれば、エイプ子爵はデルモンド王国騎士団にも顔が効くけれど、子爵と言えば下から二番目の貴族だ。それにも関わらず顔つなぎが出来るのは、いわゆる袖の下だった。

デブーラ男爵家の秘宝<パラライズ・サンダーエッジ>を欲したのも、贈賄の一つ。


 糞薬師を陥れるデマの流布が、いくらデマを信じない住民が多かろうと、王国騎士団さへ動かせればいい。こういう事もあろうかと、日頃から地道に影響力を広めていたのだが、本当の目的は伯爵に陞爵(しょうしゃく)する為の欲の地固めなのだ。

 悪魔召喚騒動の犯人第一通報者となれば、子爵の評判の悪い人格よりも、功績が重んじられるだろう。


 うははは

『糞薬師の追放か処刑、それに儂が伯爵に陞爵(しょうしゃく)となれば、これは糞薬師に感謝せねばなるまいて』

傍らに控える執事イエーガーは、この子爵と残った短い生を共にしようとは思わなかった。即ち、高齢を理由にして退職しようと考えた。

そして今は癖になった、襟の裏に付けたブローチに触れて、自分に誓ったのだ。

『私の進むべき道は、この高貴な御方と共に歩むのだ』

 と。


______王国騎士団とは、モンスター討伐だけではなく、デーモンさへも浄化出来る力がある。その多くが、C+~B+クラスでないと入団は出来ず、当然として家柄も重視されるエリート集団であり、一般庶民から入団する事が出来たとしたら、それは異例の出世と言えるだろう。


 糞薬師を王国の力で潰す。エイプ子爵の地道な賄賂が、役に立とうしていた。

朽ち果てた墓地に悪魔を召喚する台座で洗脳、悪魔と契約して魂を捧げているという証拠は整っているからだ。

 『これで糞薬師は終わりだ』



______一方では、アデリア組合長の<デマの出どころを探せ>命令もあって、アデリアぞっこんマニア達が、駆けずり回って情報を集めて来た。

デマの情報を伝っていくと、殆どが面識のない住民が絡んでいる事が分かったのである。


「おかしい。どうもこれは、闇ギルドが糸を引いているようだ。捕まえて魅了の魔法で吐かせるのも一つの手だが」

異世界にはアンチ・チャーム魔法も存在していて、恐らくそれは対策済みだとアデリアは諦めるしかなかった。


「よし、てめぇ等、今回はよくやってくれた」

その言葉を訊いて、特殊なアデリアマニアは期待してしまうのだ。即ち御褒美で、それも金銭ではない特別な御褒美を。


「何だその(つら)は! てめぇ等、あたしの褒美がそんなに欲しいならくれてやる。奥の部屋でケツ出せやぁ!」

 これは妙な雰囲気だと誰もが思って見ていると、アデリアが先に怪しい部屋へと入って行った。


「「ゴクリ、よ、よろしくお願ぇしやす!」」

「あの世はそこだぁ~ 逝って来いや大霊界!」

 フゥグァィァ~

 ピゲェェゲェ~

 アハァァァンアン~


「ブタの悲鳴か? 断末魔か?」

それは恐ろしい声なのか何なのか、理解出来ない音が扉の向こうから聞こえて来たのだ。

 ガチャ

「ふん、つまらん。また汚してしまったではないか」


 扉から出て来たアデリア組合長の足元、ハイヒールの踵は血で染まっていた。

「げぇ、アレがアデリア組合長、噂の御褒美<激痛のハイヒール>! 死んでないか? あいつ等はよ」

すると、アデリア組合長が出て来た拷問部屋? から相撲取りのような低い声が響いて来た。

 「「ご、ごッつあんです  ガク」」

______お、死んでない 死んでない。


◇伝説の<激痛のハイヒール>と<採血>◇


 もちろんこの悲惨な光景を、ジャッカル達三馬鹿トリオも訊いていた。しかし彼等には、機嫌が悪い時のアデリア組合長のサンドバックという大切なお仕事(うさばらし)があるのだ。


「メンマ、あいつ等は、あれで幸せなんだよな。アレでよ」

「姐さんでも、あそこまではしないけどな」

「チャーシュー、だがあの<採血>というヤツは......俺は怖ろしかったぞ。姐さんは吸血鬼だと思ったくらいだからな」


 その採血の途中に、なんと三人共気絶したと言う話は、御褒美<激痛のハイヒール>と合わせて冒険者組合の伝説となったのだ。


 拙い事にジョーの採血の話は、デリーシャからオイスター・ケチャップ、執事仲間のイエーガーへと伝わってしまった。

イエーガーは治療薬を作る為と訊いて、それを疑う事はなかったのだけれど、更に拙い証拠が出来てしまったのだ。


「ほう、薬師の仲間が人間の血を抜いたと? これぞあの糞薬師が、契約して悪魔の手先になった動かぬ証拠。もう言い逃れは出来まい」


 ◇決別、新たな道◇

「長年仕えたが、もうエイプ子爵に未練など一片の欠片もあるものか」

運良く執事イエーガーは暇を貰って、余生を一人で過ごしたいと言う申し出が叶う事になった。

<最近のイエーガーは、全く役に立たん>がその理由で、エイプ子爵は苛立っていた事もあったのだ。


 イエーガーの想いは、同時に高齢の使用人も何人か引き連れて、年寄り同志が助け合っていこうと計画したのである。

実は、信頼出来る数人には、イエーガーの癖の理由を明かしていて、その数人も自分の目で<聖母マリア様>の奇跡を体験し、噂が本物だと確信していた。


 イエーガーの狙いは、暇を貰った後に自宅に祭壇を祭り、高貴な御方に祈りを捧げる場を作る事にある。

しかしエイプ子爵に知られれば迫害される。その為に、自分達で作った木製の<聖母マリア様>像は、地下室に隠す事に決めていた。


◇異世界隠れ信者◇

______日本の長崎、隠れキリシタンのような祈りと信仰の場が、最初に誕生したのである。それは数人の信者だけの、小さな小さな教会の始まりとなった。


 時を同じくしてオイスター・ケチャップも、墓地まで行かずとも祈りの場を作る計画を考えていて、オイスター・ケチャップの場合は、デブーラ男爵の理解もあって、堂々とした教会を作る事が出来る上に、しかも計画は3Dホログラムを忠実に再現した等身大のブロンズ像である。


 私にとっては嬉しい、そんな計画も使用人同志の話から、エイプ子爵に伝わるのは早かった。

「洗脳の場か。これはまた都合がいい」

レイジー薬師にとって、都合の悪い粛清か大罪の証拠が増えていくのだった。


______暫く私達は自由に泳がされていた。

 その間にレイジー・ドラッグストアの売り上げ、参拝に訪れる観光客は次第に増えて、ナイトメア亭の売り上げと宿泊客も増えていったのである。

「本当に御利益が出ているじゃないか」

私はこの結果に満足し、やっと懸案だったレティキュラム号を魔の森の湖に沈める事が出来るし、本格的にこの地で生活をする事を決めたのだ。


「一国一城の主、小さくても実現した喜びは、なんて大きいのだろう」

「おめでとう御座います......下衆様。また儲かりますね」

「Reno あのな!」


 あれからデブーラ男爵が言ったように、無料の休憩所も完成して貧困層の子供達には、子供食堂のような食事も出せるようになって来ていた。

墓地の周囲は広く、食事も出るとあって貧困層も移り住むようになると、問題は彼らの仕事や子供達の教育をどうするのかと、その運営費である。

現時点で50人位が定住者になり、まだまだ増えそうな勢いなのだ。


◇レイジー村長誕生?◇

______こうなると私が切っ掛けを作ったのだから、私が責任を取る必要が出て来るのは自然な流れだろう。

幸いな事に、デブーラ男爵が新築する小さな教会で、子供達を教える事は可能な筈で、教師のあてはないのだけれど、墓地が次第に村のように拡大していくのだった。

どこからか「村長がいるよね」と言う声も出始めた。


「下衆様が......村長.......」=Reno

「父ちゃんがぁ?」=バニラ・アイス

「正しく君主様になられるか!」=桔梗

「げぇ、兄貴が?」=ジョー


 村長候補は私しか居ないだろうし、村ともなれば小さくても(まつりごと)は考えておかなければと思う。

 このタイミングで、アデリア組合長が率いる冒険者組合が、新築移転する話が現実味を帯びて来たのだ。

役場、教会、警察、病院があれば、小さくても立派な村となる。


 学校と子供達の食事は新築する教会で、警察のような治安は冒険者組合、薬を売っている関係で、簡易な診療所をレイジー・ドラッグストアの横に、バラックでもテントでもいいから立てれば村の恰好が出来上がる。

それでも、結構なお金と人材が必要になるのだけれど、それはおいおい考えればいい事だ。



「デブーラ男爵領聖母様村のような感じかな?」

私は当初、こんな計画をしていた訳ではなかった。これも<偽聖母マリア様>の御利益だと思う事にすれば、未来は明るいのである。

「信じる者は救われる......か」









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