EP45 偽<聖母マリア様>のトリックがバレた!?
______<聖母マリア様>の有難い土産品を作るのに、一番安くて早く出来る物と言えばポスターだろうか。
しかもカラープリンターで印刷すれば、高貴な御方がこんなに薄いところにと、勘違いな感動と興奮を呼んで、大騒ぎになる事は間違いない。
売るなら豪華な額縁に収納すれば、価格設定は最低でも100,000G=1,000,000円は下らない。相手は貴族か富豪しか買えないのだから、それでも安すぎるかも知れない。
しかし問題はある。
この異世界にも模写画は存在しているが、主に貴族の自画像を油絵具で描いたものが多く、異世界の庶民には縁遠いものだった。
低コストで最高の収入にはなるけれど、私の望む結果よりも酷い争いと、最悪戦いの火種になり兼ねない。
『これは駄目だな、却下』
一方では、奇跡を目の当たりにしたデブーラ男爵の影響も大きい。
貴族の晩餐会、誕生会などの話題の一つとして、デブーラ男爵が自慢した事にある。
ゴシップなどは貴族が大好きな話題ではあるが、そうでは無い自分の領土での自慢話など、心よく思わない者も多くいるのだ。
例のエイプ子爵はその一人で、レイジー薬師が依然として生きている事に、内心憤慨していたのである。
______「イエーガー、まさかとは思うが<サイレント・マーダー>の事だ」
うっ
「いえ、まだ報告を訊いておりませんが」
「馬鹿者、あれから何日経っていると思う。遅すぎるだろうが。こっちは訊きたくもないデブ男爵の自慢話で、怒り心頭だったのだぞ」
そこでイエーガーは言い訳を考えた。
「荒れ果てていた墓地ですが、男爵が言うにはそこで奇跡が起きる為、レイジー薬師の身辺にはいつも人がおります。それ故、依頼達成が遅れているのではと愚考しております」
「奇跡か、デブも興奮しておったな。迫真の演技は見事だったぞ」
百聞は一見に如かず。己の目で見た物しか信じないエイプ子爵も、与太話が本当なのかどうかを確かめたくなっていた。
「イエーガー、一度だけ儂も確認に行く。デブには知らせなくていい。貧乏人共が少なくなった日没あたりで、日取りを決めておけ」
畏まりました。
◇数日後◇
______カッポ カラ カッポ カラ
二頭立ての豪華な黒塗り馬車が、件の墓地に近づいて来た。
旗印のサルの紋章は、昼間なら一見してエイプ子爵家の馬車だと分かる筈だ。
今は周りが薄暗く黒塗り馬車では、御者の横にあるカンテラの灯りしか確認出来ない。
「子爵様、もう到着しますが」
そうか。
夜の帳はまだ降りてはいないが、墓地に参る客の姿はもう居ない。ここから自宅のある村、街までは距離と時間もかかり、下手をすれば盗賊も待ち伏せていたりするからだ。
そんな危険を冒さない為に、明るいうちに帰路につくのは当然だろう。
◇夕暮れの訪問者◇
そろそろ夕食の時間に監視センサーが、来客がある事を知らせて来た。
「え~、これからご飯なのにぃ~」
今は自宅兼店舗に住んでいるので、少々夕食が遅れようと問題はないのだけれど、ジョーの腹が抵抗しているらしい。
「仕方がないな。ほらナイトメア亭から貰った焼き立ての黒パンだ。これを食べながらアテレコを頼むよ」
「へぇ~い、しゃぁないのよさ」
ハムハム
黒パンを口にくわえながら、ジョーも二階に上がっていった。
モニターを眺めていると、黒い燕尾の男と金や宝石を縫い込んだ趣味の悪い男が、鷹揚な態度で参道に入っていくのが見えた。
台座に近づいても、賽銭箱を無視してGを入れることは無かった。
「きっと賽銭箱を知らない、おのぼりさんなんだろう」
この管制室からは、高精細な映像と音声を拾う事が出来る。
「この台座なのか? 丸いだけで何もないが」
私はあえて3Dホログラムを出さなかった。理由は映し出された男の顔が、邪心に満ちていたからだ。
「兄貴ぃ、貴族でこんな悪相だよ。こんな奴、無視していいんじゃない? 賽銭も入れてないんだからさ」
ジョーは、奇跡を見せる必要が無いと言うのである。
ポチ
バニラ・アイスが3Dホログラムを起動した音だ。
「こらバニラ、お前なにをするだに!」
「だって父ちゃん、こいつの反応を知っておけば、これから何をするのか、つまり性格も分るんだよ」
なるほどと私は思った。態度からしてデブーラ男爵のような善人とは思えないからだ。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず。見事な判断だったぞ糞ウサギ」
桔梗も賛成のようだ。
パァァ~
黄金と七色の光が台座から照射され、ステージの奈落から歌手がせり上がるように、3Dホログラム<聖母マリア様>が現れた。
「うぉ、これは!」
むぐぅ
自分で見た物しか信じない男エイプ子爵。3Dホログラムの余りにも神々しい姿に暫し絶句したが、裏組織の住人と通じているこの男は、ある話の記憶が脳裏を過った。
<スペラーの中には、魔法で幻覚を見せたり洗脳出来る者がいる>
「そうか、そうだったのか、分かったぞ!」
「イエーガー、これはあの糞薬師が仕込んだ幻覚魔法だ。ふ、ふん」
と強がったもののエイプ子爵の膝は、生まれたばかりの子羊のように震えていた。
「し、しかしですよ、子爵様を睨んでいますし、あ奴は魔法など」
執事のイエーガーも、もはや立ってはおれず台座の前で膝を折っていた。
「たわけ! こんな事がある筈がなかろう! あってはならんのだ。これは、そうだ幻覚魔法だ!」
◇ネタバレ!◇
______レイジー・ドラッグストア二階管制室では。
「兄貴ぃ、何だかこれ拙くない? 結構ネタバレしてるのよさ」
「まだだ。<聖母マリア様>の威力を見せてやるのだ。目を睨みモードにチェンジ、視線は子爵と執事を交互に睨ませ、ウルトラ・バイオレット30倍で10秒間照射!」
あいよぉ~激オコモードにチェンジぃ、紫外線30倍照射ぁ~
あ~ポチっとな。
ジョー姐さんはもう、ゲーム感覚でノリノリである。
紫外線は、普段浴びる線量ならば問題は無い。30倍もの紫外線を長時間浴びる事は、皮膚がんや白内障を引き起こす危険な行為なのだ。
ギロォ~
「し、子爵様ぁ、あのように穏やかだった顔が、顔がぁ!私の顔が痛いぃ」
バカな、全部幻覚じゃぁ!
「幻覚なら痛くありませんぞぉ」
ひぇひぇ~
「恐ろしい目で儂を睨んで悪魔かぁ!_____熱いぞ痛いぞ儂の顔がぁ」
流石に恐怖に負けて、子爵と執事の二人は腰を抜かしながらも退散していった。
その哀れな後ろ姿を見て、桔梗が唸った。
「天晴ですな主様。これであ奴等も懲りた事でしょう」
「ここは下衆様の勝利としておきましょうか」
「でもさぁ父ちゃん、あいつ等ちょっとヤバかったよねぇ」
そう。子爵が幻覚だと言った時は、私も一瞬ビクっとしたのだ。
「30倍紫外線で明日は顔が真っ赤になっているだろうさ。それを天罰だと勘違いしてくれる事を私は祈るよ」
帰路につくエイプ子爵とイエーガーの二人は、今経験した光景に震えていた。
「召喚魔法だ。あの台座が魔法陣になっていたのだ。お前も見たであろう。悪魔の顔を」
「では、どうなさるおつもりで?」
平静を装ってはいるものの、二人の股間は濡れていた。
「イエーガー、お互い漏らしたのは秘密にせよ」
えっ!?
イエーガーは、自分が漏らした事すら知らなかったのだ。
◇疑惑の召喚魔法◇
_____帰路の道中、エイプ子爵は考えていた。召喚魔法で悪魔を呼び出し、それで金儲けをしている糞薬師に、どう煮え湯を飲ませるかをだ。
「これはデブーラ男爵諸共、始末すべきだろう。証拠を捏造してデルモンド国王に、王国を乗っ取ろうとする大罪人として始末するのだ。ふむ、これは我ながら名案よのう」
「しかし子爵様、どうやってアレを悪魔だと証明するのですか?」
「ふ、簡単な事よ。アレが人を殺したり、ふふ、食ったりしたらどうだ? それは悪魔の所業であろうが」
エイプの考えは単純だ。参拝した人間を闇で始末するのだ。それも爪で裂かれたような傷を作って、臓物を撒き散らせてもいい。兎に角、悪評を立てれば王国騎士団が動くのである。
「ふふ、これは面白くなって来たぞ、そう思わんかイエーガー」
心の底から悪人ではないイエーガーは耳を疑った。
『子爵様、あなたこそ悪魔では』
と。
『あの高貴な御方が悪魔である筈がない。あの時のお顔は、戒めだったのだ。今まで私がしてきた事にお怒りなって、反省を促されたのだ』
______しかし子爵の命に逆らえないイエーガーは悩む事になった。
『罪のない人達を......これ以上は。私はどうすればいい』
そこでイエーガーは、デブーラ男爵の執事オイスター・ケチャップに、青年薬師とはどういう人間なのかを訊いてみた。
その結果、貧しい者には無償で薬を与え、人々の笑顔の為に尽力している、決して金儲けだけの人物では無いと。
確かに彼の周りには、三人の可愛い娘と年増が一人、いつも仲良く喧嘩している姿は、見ていても微笑ましいものがあった。
時に青年は顔を腫らしていたようだが、それは転んだからだろう。
青年薬師は、あのアデリア組合長と親しくしているようだし、なんと乱暴者のジャッカル達三人までが懐いているのだから。
この後、悩みに悩んだイエーガーは心を決めた。




