EP44 祝新装開店<レイジー・ドラッグストア>初日
◇期待満々◇
______明日は、<レイジー・ドラッグストア>新装開店と言う事で、興奮した私は深夜までバタバタして、殆ど眠る事が出来なかったのだ。
あのドツンツン糞エルフは、ナイトメア亭で晩飯を食べると、バイソン大将とモーリンさんと、何か積もる話しているうちに、二階で泊まる事になった。そこで何を語り合ったのかは分からない。
新装店舗開店のPRビラは、冒険者組合の掲示板だけで、他にはどこにも貼ってはいない。
当日、祝いにくるのは、新築費用を全額出資したデブーラ男爵と、その使用人達、少数の<聖母マリア様>を見に来た人達だけだと私は予想していた。
寂れて朽ち果てた墓地の周囲に、串焼きだの果物を売る露店が出るのは、使用料などを取らずにご自由にとしておいた。
今はナイトメア亭とレイジー・ドラッグストアしかない土地なのだから、少しでも賑やかな方がいい。私はそう思っていた。
ところが当日になると、冒険者組合で薬を求めていたお客さんや、私が無償で薬を上げていた貧困層の人達が来てくれたのだ。
私は、折角気来てくれたのだからと、台座の前で拝んでくれたら、作り置きのビタミン剤を、開店祝いの試供品として渡す事にしたのだ。
もともと話題の少ない異世界。御利益のある<聖母マリア様>の噂は、特に貧困層の間で広まっていた。
粗品の試供品<爽快マリア様丸>(ビタミン剤)を渡すのは、白衣を着た私の美少女達三人の仕事で、ジョーは二階からリモートアテレコと、おみくじの操作担当である。
おみくじも、参拝者が増えれば増刷しないと拙い。これからは、文面を優秀な娘達に任せれば、たぶん大丈夫な筈だ。
「桔梗には任せられない.....いやバニラ・アイスもか」
______立て看板や娘達に言われた通り、台座の前で奇跡を見て、おみくじの文面を読んだ人達は、足を震わせながら感動の涙を流して帰ってくる。
しかし大成功とは言えるけれど、お土産を買って貰う程のGを彼等は持ってはいないのだ。
「仕方がない。今は投資宣伝期間と割り切っての開店祝いだから」
店内では口々に、ブローチを欲しがっているのが分かる。値段としては100G=1,000円なのだけれど、彼等にとって台座の前の賽銭箱に落とす10Gでも、大切な生活費なのだ。
そんな彼等を責める必要はなく、私は祈る事で心豊かになって生きて欲しいだけなのだけれど、お客の中には、アデリア組合長押しの冒険者達が来ていて、彼等からは糞エルフが遠慮なく金を巻き上げていた。
「てめぇ等、賽銭箱に最低でも1,000G(=10,000円)は落としてくれただろうな! それとこの有難い土産は、てめぇ等の親戚縁者の分まで買っておけやぁ」
ギラァ~
ひぃぃ~<タマキン・エスケイプぅ!>
「勿論でやす、買いやす買いやす、買わせてもらいやす」
糞エルフのカツアゲみたいな営業スタイルは、流石にどうかと思ってしまう。
『あいつ等のタマキンは今頃......南無阿弥陀仏』
標準的な家庭のお客で、特に高齢者には抜群の威力を発揮し、拝んだ途端に足腰の痛みが快方に向かったとか、もう入れ歯を飛ばしながら喜んでくれたのは僥倖すぎた。
そこへ孫のような美少女から、試供品の<爽快マリア様丸>(ビタミン剤)まで貰って、高齢者達にとって、憩いのオアシスになると言う意外な方向に発展しそうな勢いになった。
事実、東屋のような休憩所の増築は、急務だと思える程だ。
「ここはお年寄りにも優しい、心休まる名所になりそうじゃ」
隣に立ってそれを見ていたオイスター・ケチャップの言葉にデブーラ男爵も同意を示して頷いた。
「確かに。これなら無料でお茶も飲める休憩所が必要だな。あい分かった。休憩所の建築と運営は、我がデブーラ男爵家の使用人達で受け持とうではないか。儂の死んでいた領地に活気が出るのは、領主として嬉しいものだからな。これも<聖母マリア様>のお陰であるな」
男爵がそう言えば、それは決行すると言う意味で、私にとって結構な棚ボタ、ウサギ転がれ木の根っこだ。
『その無料の休憩所で、貧困層の人達には子供食堂みたいに、格安で食事を提供できたら......体力が付けばきっと、病気にかかりにくくなる筈』
と私は思うのだったが、そこまでデブーラ男爵に甘える事は出来ないのだ。
さて、高齢者の人達は、台座の前で神々しい<聖母マリア様>の御姿を拝観しただけで、腰痛や神経痛が軽くなったと証言していた。
オイスター・ケチャップにしても、もはや薬草のシップなど不要な体にまでなっていたのだ。
______「まだまだ序盤戦、成果は少しずつ出ているとは思うけれど」
「そりゃそうだ。経営なんてものはな、年単位を覚悟するもんだぜ」
バイソンが偉そうな事を言っていると思っていたら、案の定、モーリンさんが鋭い突っ込みを入れてくれた。
「ここに来て六年、未だに覚悟ばかりしてるんだけどぉ~あなたぁ、それは誰のせい?」
そ、それはだな......。
ぱぱは もっと おべんきょう しなきゃぁ。
オープン初日はまずまずの出だしと言えた。
夕方近くになると三々五々、お客様は帰っていく。口々に有難や、アリガタヤ、いつ召されてもとか言っているのが嬉しい。
売り上げとしては、貧困層の人達が多かった事もあり、冒険者組合に薬を卸している金額を少し上回った程度で、お賽銭にも期待はしていない。
肝心のナイトメア亭に泊まる客も無く、バイソン大将の表情には元気がなかった。
______ボランティアで、開店祝いの手伝いをしていたアデリア組合長は迷っていた。
「あの三人の美少女達は出来る。いや二人か」
『まず徒手空拳の構えをとった年増、異様な威力があると見た。そして抜刀の娘も同じだった......更に無手だったがメイドの娘からは、凄まじい圧を感じた』
金ダライの馬鹿そうな娘は論外として、三人の強者が就いているのか。一体レイジー様とは何者なのだろうか。
アデリア組合長は、自分が介護しなくても、あれだけの手練れが居れば、警護に問題は無いと判断したのだ。それに、隣にはSランク冒険者が住んでいる。
「これでは、もはや過剰戦力だな」
嫁入り道具を持ち込んだものの、ここは一時組合に戻る決断を下したのだ。
「おい糞薬師、今日のところは引き上げるが、あたしのWベッドやクローゼットはそのままにしておけ。いいな!」
忙しくてこの糞エルフが今晩からどうするのか、すっかり忘れていた私だった。向こうが帰ると言ってくれるなら、妙な濡衣の洗礼を食らう事が無くなるのだ。
「今日はありがとうございました」
嘘でもそう言ってやった。
開店初日の疲れもあって糞エルフの退散は、悪霊退散と同義であると再確認したのだった。
明日から一週間は開店サービス期間の予定で、儲けはある程度除外しても、異世界人の心と体の平和に貢献したいと願う私だった。
ところで、近くの森には少なからずモンスターが生息している。ゴブリンやスライムなど弱小モンスターばかりなので、さほど冒険者達には注目されるような森ではないが、そこで帰路についたアデリア組合長は閃いた。
『ルーキーの鍛錬には都合がいい。なるほど、冒険者組合を丸ごと移転すれば......あたしはいつでもレイジー様の傍に居られるじゃない。Wベッドはもう運び終わっているし、あたしが壊した組合は半壊でボロボロ、これは新築するべき案件よ!』
最初はデブーラ男爵が建てる無料休憩所、そしてなんと冒険者組合の新築移転と、ここら一帯がどんどん様変わりしていくことになってしまったのである。
そうなれば冒険者組合の影響力は大きく、料理店、居酒屋、武器、防具店などが一緒について来るのだ。
私はまだ知らない構想なのだけれど、あのド・ツンツンエルフならヤル。
ここは小さな村に発展して、男爵領直下の村長なんてのも必要になるかも知れない。
私は、サービス期間中は商売に専念し、その後にレティキュラム号をやっと湖深く隠ぺいする事にしたのだ。
すべき事が次第に片付いていき、この先明るい展望が見えて来たのである。
しかし、それはあの糞エルフが持ち込んだ、<冒険者組合移転計画>を訊くまでの短い時間だった。




