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EP43 旅立つ者と集う者 偽聖母マリア様は何も語らない

◇デリーシャの想い◇

______期待と興奮で、周囲が見えなくなったデリーシャの両足は、地を蹴りに蹴りまくった。

アニメなら、その航跡が白い煙となってバビュ~ンだろうか。


 バァ~ン

「レイジー様ぁ、バイソンさぁ~ん、おっはよう ございまぁすぅ!」

もともとボロかったナイトメア亭のドアを.....デリーシャは蹴ったことすら覚えていなかった。


「何だデリーシャ、バイトにゃ早えぇし、まだ朝食の準備中だぜ。それにどうしてくれるんだ? 風通しが良くなっちまったウチのエレガントで、クラッシックだった俺のお気に入りドアをよ」


デリーシャが振り返ると、ドアがスッポリ人型に見事に抜けていた。こうなるともうギャグ漫画の世界である。

「いいじゃないですかぁ。こんなオンボロドアなんて新調しちゃえば」

 あのな、ウチは金がねぇんだ!


◇百姓一揆◇

「出来たんです!だから一刻も早く、レイジー様にお知らせしたくて!」

「何んだとぉ! おめぇ、そんな体で走って来たのかよ!」

 あらあら、レイジーさんってば、いつの間に。


 200m先のピンが落ちる音さへ聞き取る娘達である。デリーシャの<出来た>発言に、怒りと百姓一揆のような怒涛の罵声が上がったのだ。


「やはり下衆様は下衆だった! のぉ皆の衆!」

「オラ見損なったズラ。父ちゃんには、バニラちゃんがいるダンべ?」

「ンダ!打ち首獄門でも温すぎる鬼畜の所業ズラ! それにオラもいるダンべ」

 即興三文芝居の息はピッタリだ。


 まだ寝息を立てている私は、鬼の形相と化した娘三人の、凍るような視線に見下ろされていた。


「それでデリーシャよ、相手はやっぱりレイジーの野郎か? こりゃぁ、面倒な事になっちまったぜ」

「授かってしまったのね......私より先にもう」

「おいモーリン?」


「違いまぁすぅ! レイジー様とは、その内に<聖母マリア様>の前でプ、プロ.......何を言わせるんですかぁ! 出来たのは聖母マリア様のブローチって? アレ? ブローチがない、どこ?」

 デリーシャがポケットに入れた、二個ある筈のブローチを探したけれど、手にしたのは一個だけだった。



「なんだぁ? ないってタマが無いなら、そりゃぁ女の子だったのか?」

「あなた慌てないで。男か女かは産まれてから、お股をじっくり見てからでしょ」

興奮冷めやらないデリーシャだったが、妙な誤解とは言えない誤解にあたふたしてしまう。

 あれぇ? どこぉ~?

年頃の美少女と言うのは、態度が分かり易くて実に微笑ましいものである。


◇試作品◇

「もう!プロポーズの試作品ですってば!あ違った、試作品のブローチがないんです!」

デリーシャが試作したブローチとは、丸い硬貨程のブロンズを基盤として、赤子を抱いた<聖母マリア様>をレリーフで浮き上がらせた物だ。


「こ、これを見て欲しかったんです!」

 バッ

「いや腹は、まだそこまでだろ」

「私のお腹がどうしたんです?」


 デリーシャの手から差し出されたそれは、見事に聖母様の神々しさを再現していて、バイソンもモーリンさんも、ただ唸るしかなかった。

「こ、これは凄げぇ出来じゃないか」

「非の打ちどころがないわ! あなた」


 それを訊いたデリーシャは、やっと肩の荷を降ろし安堵の表情に戻れた。

「これを二個作ったって言ったが、俺はもうこれで量産してもいいと思うぜ」

「そうね、じゃレイジーさんを叩き起こして、早速見て貰いましょうよ」


◇二階の悲劇◇

 ギャァァ~

 何だ? 今の叫びは!

二階からボロ布を裂くような悲鳴が聞こえたかと思うと、枕を抱えて顔が腫れあがった何かが飛び出し、階段を転げ落ちて来た。

「あなた、ゴブリンよ」

「てめぇゴブリン、ウチへ餌を漁りにきやがったか!」

 わたひ れふ れいひー れふ


 見るも無残とはこの事だ。腫れあがった顔には油性の塗料だろうか<スケコマシ><美少女の敵><いっぺん死ねや>と書かれていた。


「おっ、なんだおめえなのかレイジー? その塗料じゃ一週間は落ちねぇぞ」

「あらあら、イケメンが台無しなの」


 その後から娘達三人が降りて来て、口々にレイジーの悪口を言い合った。

「親と言えども我慢する必要はなかった」

「心底下衆様だったとは」

「美少女の敵ぃ。金ダライが久々に唸ったよ」

 犯人は娘達だと納得するには十分な話だ。


「レイジー、家庭内の事はよ、おめぇ達で解決するとして、まずこれを見てくれ」

______腫れあがった顔の私は、バイソン大将が差し出した硬貨? を見て思わず唸った。

「ほれはフローヒ」

それも気品を感じさせる完成度に、私は感動さへ覚えたが同時にソロバンも弾いてもいた。

『これは売れる!』

 と


 朝から濡衣(ウェットクロス)な誤解はあった。しかし事がG(ゲローナ)が絡んでいる事もあって、土産品の量産はゴーサインとなったのである。


◇南へ旅立つ者◇

 アエリアが一人、南へと向かっていた時だ。

「あの高貴な御方、もう一目だけ見ておきたかった。けれど追っ手も来るかも知れないからな、この地に長居は無用だ」


 そう思いながら歩いていると、地に太陽の光を反射する物に気づいた。

無造作にそれを拾いあげようとするが、第一印象は「銅貨か?」だった。

だがそれを手に取った瞬間、体が打ち震えながらも悟ったのだ。


「私の願いがこのような形で......私は<聖母マリア様>に導かれていた。それも深夜のあの時から」

裏稼業から足を洗い、これから南の地で静かに暮らそうと思っての逃避。せめてもう一目と思ったその時に、ブローチを賜ったのだ。


 アエリアは賜ったブローチを胸に抱きしめると、その顔には本心からの優しい笑みが浮かんでいたのだった。

「私は聖母様と共に在る」


 デリーシャが落としたもう一つのブローチは、私達が想いもせず南の地へと運ばれていく事になった。

途中、胸にブローチを付けたアエリアは、心が軽くなったように感じていた。

それがどんな結果を呼び込む事になるのか、幸福を呼ぶのかはたまた嵐を呼ぶのか、それをブローチに浮かんだマリア様が語る事はない。

なにしろ、レイジー博士がでっち上げた偽聖母様マリア様なのだから。


◇新装開店◇

 ナイトメア亭での薬の販売は好調で、墓地に出現した高貴な<聖母マリア様>の話は、デブーラ男爵家の使用人達や、訪れたお客様(カモ)達の営業努力のお陰で次第に広まり、二週間が過ぎていった。

 私の顔の落書きはやっと消えて、レイジー・ドラッグストアの新築工事も終わり、明日はいよいよ新装開店となったのである。


 新装開店と言っても、派手な開店祝いをする訳ではない。

作った薬の陳列と、ナイトメア亭で売る土産品と同じ物を並べるだけなのだ。

朝と夜の食事は、新築の店内で賄うと言ってあるので、娘達の正体がバレる事は無くなった。よく今までバレなかったものだと思う。


 今日は明日の開店準備で、家具はテーブルと椅子、ベッド。陳列棚さえあれば、後は少しずつ揃えていけばいいと思っていたのだが。


◇女難の呪い◇

______ガラガラと馬車の音がすると、開店前の店の前で止まった。

「何だろう?」

「おい糞薬師、あたしが来てやったと言うのに、出迎えもなしとは出来たばかりの店を、MD(マグナム・ドライヴ)でバラバラにしてやってもいいんだが」


あのドスの訊いた声は、あの嫌がらせエルフしか居ない。

「あの、何の御用で......」


「前に言ったであろうが。このあたしが、貴様の介護(おせわ)を直々にしてやると。その空っぽの頭蓋は忘れたと見える」

 ギラァ~

 ぎゃぁ~アデリア組合長!


 この糞エルフの眼光は凄まじいのだ。ルチアがおしっこ漏れそうになるのも頷ける迫力である。


「なんだその目は。ほれ見て見ろ、Wベッド、ネグリジェなど性活必需品(しんこんせいかつ)に抜かりはない。今日からあたしはここで暮らすからな。で寝室は二階か? 案内しろ」


 私が言葉を挟む余地もなく、糞エルフ組合長はズンズンと、新築の二階へと向かったのである。

「おい、おめぇ、デリーシャだけでなくよ、あのアデリア組合長にまで手ぇ付けてたとは、大したスケコマシだぜ。まさかと思うが、出来てんじゃねぇよな、デリーシャみたいによ」


「ち、違いますって!」

「あらあら、これは嫁入り道具じゃないの」

 おじちゃん すけこましぃ~


「ルルちゃん、どこで覚えたその言葉」

 パパぁ

「兄貴ぃ、これはどう言う事なのよさ!ボクは捨てられたの?」

 そうだそうだピーピー 捨てろ捨てろ粗大ゴミぃ

「全く懲りていないようですね、下衆様わ!」

 もはや弁解の余地なない! 主様成敗!


 ジョーは南友千葉拳の構えをとって、ヒョォーヒョォーと言い、バニラは超合金の金ダライを振り上げ、桔梗は抜刀の構えをとった。

「ひぃ~、娘に殺されるぅ~」


______暫く冒険者組合に顔を出さなかった結果がこれであって、災難は尚続くのであった。

「聖母マリア様の御加護って、レイジー様とは無縁なんですねぇ」

 デリーシャの言葉に、一同がうんうんと頷いた。


「レイジーおめぇ、<女難の呪い>でも食らってるんじゃねぇのか?」

「そんな、私は只のチェリーな薬師ですよぉ」

 ニッ

『あらあら、レイジーさんは......なら私が卒業を......』

モーリンさんの瞳が私の股間を捉え、妖艶に微笑んでいた。






◇観察者◇

「あははレイジーって面白い。あなたの能力ってね.......もう少し時間がかかるのよねぇ」






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