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EP42 奇跡は奇跡を呼ぶのか


◇冤罪濡衣(ウェットクロス)◇

______偽<聖母マリア様>の威力がこれ程とは、私自身がその摩訶不思議な現象に驚いていた。

そしてアエリアという美少女は一体何者だったのか、私は何故二度も狙われたのか、よく分からない理由で悩む事になってしまったのだ。


 一方で、今回も魔法起動の予兆に気づけないアンドロイドの娘達。アエリアが見えない程の鋼線を使う、物理攻撃タイプであった事に私は助けられたのだ。

それにReno達はアエリアが深夜、聖母マリア様の台座に居た事で、その存在に気づきマークしていた事も幸いしていた。


 「あの時、下衆様の顔を見て一瞬攻撃の手が止まりました。やはりアエリア__ちゃんに、私達の知らない所で何かしようとした、いえ、しちゃったのでは?」

 ジィ~ ジィ~

「主様、アエリア__ちゃんの手は確かに止まっていたな。今吐いても罪は重い」

「父ちゃん、いい加減にゲロしなよぉ~、なんかしたんでしょ~」

 またかい!


「君達! 冤罪濡衣(ウェットクロス)だと言っているだろうが!」

「下衆様、ならその冷や汗は?」


 早朝の襲撃事件は、ナイトメア亭の大将とモーリンさんにも知れる事になる。

「ふむ、アエリアって言ったのか、その美少女アエリア__ちゃんが」

「私達は訊いた事のない名前のアサシンね。へぇ~アエリア__ちゃんねぇ クㇲ」

「なんです? 私を見るその目は」 


 アサシンなど闇に所属する者は、二つ名が代名詞となる世界。本名は誰も知らないのが普通なのだ。

デルモンド王国に巣くう闇は深く、表の世界Sクラスの英雄でも、根の深い暗部までは知る術がなかった。


◇聖母様効果◇

______ところで私が期待した現象が起きていたのである。


 朝の騒ぎをバイソン大将とモーリンさんは気づけずに、熟睡してしまったと言うのだ。

「ルルが起こしてくれたんだが、寝坊しちまって朝飯の支度が出来なくてな......すまねぇ、朝食は昨日の残りで我慢してくれ」


 時間は午前7時を過ぎているのだろう。急いで温めた朝食のメニューはいたってシンプルだった。

残り物でも温めれば美味い野菜スープ、目玉焼き、昨日焼いて固くなってしまった黒パンとサラダでも、贅沢を言わない私には美味しいのだ。


「ごめんなさいね、起きれなくて」

「いえ、私が襲われた後ですので、問題無いですよ」


  ふあぁ~ご飯ん~

いつもより少し遅くなった朝食時間でも、ピッタリ起きて来るジョーの腹時計は、一体どうなっているのだろう。

『匂いで起きれるのかい!』


「あらら? ちょっと品数が......もう一品欲しいぃなぁ~♪ もう一品欲しいぃなぁ~♪」

 私はこんなジョーを恥ずかしく思うのだった。


「でも朝寝坊って、宿屋を経営していてもあるんですね」

私は責めるつもりなど無く、ただ何気なく言っただけだった。


「いや、それを言われちゃぁ面目ねぇ。こんなこたぁ初めてだぜ、なぁモーリン」

「えぇ、体が羽根のようにとても軽くて、もうグッスリでしたのよ。昨晩は何もしてなっかたのに、ねぇあなた」

 ぱぱとまま よるも すっぽ なかよし してるのぉ~

 キャッ

『夜もってモーリンさん、ルルちゃんの一言でバレバレじゃないですか。ナ二してたか』



 ゴホン

「今まで腹の奥にしまってあったものが、何というか重かったものが軽くなったと言うか、俺も不思議なんだ」

「そうそう、私の腰痛と便秘なんかも、とっても楽になったのよ」


 バイソン大将のそれは、心の重荷を降ろす事で精神が安定したからだと私は思う。

モーリンさんのは昨晩......言うまでも無いことだが、あの高貴な御方との邂逅(かいこう)による効果が表れた結果なのだろうと思う。


『やはり異世界人は、高貴な存在を認識する事で、体を構成する細胞に修復作用が起こるんだ。検証の第一歩としては成功と言えるだろう』


______太陽の高さから午前9時頃になると、そろそろ薬を求めてお客様がやって来た。

デブーラ男爵家執事オイスター・ケチャップも、娘のデリーシャと共に顔を出したのだ。


「いやいや、昨晩は良く眠れましてな、腰の具合も今朝は調子がいいのですじゃ」

「私も。本当に良く眠れたし、朝ご飯なんかお代わりしちゃったのよ」

「そうそう、若い子はどんどん食べなきゃなのよさ!」

『いたよお代わりジョーズが。また太っているな』


 これで私は確信が出来た。オイスター・ケチャップと娘のデリーシャも、同じ経験をしているからだ。

「皆さん、それって<聖母マリア様>をご覧になってからでは?」


 私の言葉に、バイソン大将、モーリンさん、オイスター・ケチャップ、デリーシャが顔を見合わせて頷いていた。

「それが<聖母マリア様>の御利益だと私は信じています」

 そう、信じる心が大事なのだ。


 オイスター・ケチャップは持病の快方、バイソン大将とデリーシャはG(ゲローナ)、モーリンさんは純粋に感動に震えていた。

しかし本質は私が出鱈目を書いたおみくじで、長年溜め込んだ心のしがらみから解放されたのが原因なのである。


「私はここで聖母マリア様の崇高な御土産を作るの。お父さんは使用人の人達に、もっと奇跡を教えてあげなきゃ」

「デリーシャ、儂はとっくにそのつもりじゃが」

『よっしゃぁ! 敏腕営業マンゲットォ』

 良い事は重なる時は重なる。



______カラン コロン

カウベルが鳴ったかと思うと、朝からレイジー・マイシンや新商品のビタミン剤を求めてお客様がやって来た。


「あのぉ、ここから墓地が見えるんですけど、奥の方が開けていて、何かあるのですか? 以前は無かったような気がしたので」


 『よっしゃぁ! 信者様(かも)ゲットォ』

「おい、おめぇ悪い顔してるが大丈夫か?」

 ほんとだぁ~ おじちゃん きもいぃ~


「子供にまで。流石に下衆様ですね」

今は好きに言わせておこう。この偉大な発見に、皆が私を賞賛する日が来るのだから。

「下衆様、また小説のネタを頂きました」


 避難轟々の私だけれど、作った薬は評判がいい。貧しい人達の為に価格を抑えている事と、お金がない人には無償で提供しているからだ。


 そしてもう一つ。レイジー・マイシンより効率よく薬を作成出来るメドが立ったのである。

それはジョー姐さんの努力の結晶で、失神する程恐怖した三馬鹿トリオからの採血に成功したからだ。

無駄に高性能な娘達に抗体の解析を行わせた結果、合成が早くて安く出来る事が出来たのである。


これはレイジー・マイシンの十分の一(10G=100円)の価格設定が出来そうなのである。これに切り札の聖母マリア様効果が加われば、謎の高熱病などすぐに鎮静化してしまうだろう。


 もう暫くで<レイジー印・ドラッグストア>が開店する。それと<聖母マリア様>詣でで、墓地一帯が観光地となり、相乗効果でナイトメア亭が潤う。正に一石三鳥の勢いとなるだろう。



◇アエリアの過去と想い◇

「このままエイプの元には帰れなくなってしまった。もはや金の問題ではなくなったしな」

アエリアは、あの赤子を胸に抱いた高貴な御方に、心の内面を抉られたように震えたのだった。


 アエリアが姉さんと呼ぶのなら、その姉は今は死んでいるのか、それともまだ生きているのかは分からない。

ただアサシンとして心を閉ざし、暗殺を生業にして生きて来た自分に、あの高貴な御方様は、人間とは何かを教えられたような気がしたのだ。

 その衝撃は経験した事がなく、頭をそれこそハンマーで殴られたような......そんな気分だった。


「さて、私はこのまま北のエスタリカ王国に消えるとしよう。あそこは私の唯一、暖かい想い出のある地なのだから」

そう呟くアエリアは、その足を想い出の地へと向けた。

ただ一つ、闇ギルドやエイプがどう動くかである。仮にもAランク<サイレント・マーダー>が失敗したとすれば、最悪裏切者として抹殺されるかもしれない。

 アエリアにとって、それも承知の上の旅立ちだった。


◇ハメリア合衆国とルルシア帝国◇

______一つの悪夢は去った。

 けれど偶然とは言え、この異世界にまで飛び込んで来たハメリア合衆国とルルシア帝国の存在を忘れてはならない。

そして彼等は今、北のデルモンド王国を目指していたのである。


◇伝道者の役割◇

そしてアエリアの行く道とクロスする、デブーラ男爵家からナイトメア亭に続く道を、デリーシャが一人駆けていた。

 はぁはぁ

 この日は父オイスターよりも早く、ナイトメア亭に一人で向かったのだ。

<聖母マリア様>の高貴な御姿を、レリーフに刻んだ試作品のブローチを二個、ポケットの中に忍ばせて駆けていた。

「これをレイジー様とバイソンさんに、早くお見せしたいの。そして大量生産! 伝道者となった私の使命とガマグチの為」

 それが理由だった。







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