EP15 疑惑と恋と高熱と Fランク冒険者チーム<ドラッグ・ファイブスターズ>
2054年1月20日
______Fランク冒険者登録は取り合えず出来た。しかし私達にはまだ拠点となるホームがない。そのせいで毎日、悟られないようにレティキュラム号に戻っている訳だけど、厄介な事にジャッカル達がジョーについて行くと言い出したのだ。
「姐さん、あっし等は野宿しますんで決して迷惑はかけやせん」
「ご飯は食べるつもりなんじゃないの? 」
「ゲヘへ ついでに酒も少々......」
「それが迷惑って言うのよさ!」
ガクっ
ジャッカル達が一緒では、それは大迷惑な話で、こちらの身動きが取れなくなってしまう。これは『絶対にあかんやつだ』
私の計画は、当面宿屋に泊まるGを稼いで、暫くはそこを拠点に活動し、レティキュラム号は湖に深く沈めて隠す予定にしている。それと私自身が異世界の料理を食べたいのも大きかった。
なのでここはもう一押し、早速、姐さんの出番だ。
「ジョー、お前だけにしか出来ない頼みがある。ひそひそ」
「むふふ 分かったよ旦那様」
「姐さん、今なんて言ったんだ?」
「君達、言っとくけどボクの所在は、傭兵アサシンには知られたくないのよさ。わかる? ボク、見た通りのボッキュン超美人だから、当然嫉妬されて命を狙われているってワケ」
『ジョーの奴、脚色しすぎだろ。怪しまれたらどうするんだ!』
「かぶら何の寝言だ? 寝ながら狂ったか!」
厳しい突っ込みは桔梗だ。
ピコン
ピコン
アンドロイド組の瞳が、カラータイマーのように真紅に染まって点滅。これは暴走前の危険信号だ。冷静に見えたRenoさへ燃えていた。
「そ、そうで御座んした。姐さんのアジトを知られては不味いでやんす。では日中の護衛は俺達に任せてくだせぇ。へなちょこアサシン如きにゃ負けませんぜ!」
「「姐さんは俺達がガッチリガードしやす!」」
グツ
グツ
手下のメンマとチャーシューの目が沸騰して、今にも茹で上がりそうな勢いだ。
『えぇ!それを信じたの? どれだけ馬鹿な奴等だ』
惚れた姐さん(ジョー)の馬鹿げた言い訳で、一先ずこの場は収まったのだが問題はまだある。
______その一つ、活動はチーム名からして薬師なのだから、ポーション作成の依頼はある事はあった。
「ルチア、ポーションって魔法薬でしょ? 言いにくいんだけど、魔法が使えない私はポーションが作れないのだが」
『え?ポーションが作れないのですか?』
冒険者組合でそれを訊いたルチアの瞳には、明らかに不信の輝きが燈った。
『どんな人間でも生活魔法位は大抵は使えるのに、このイケメン青年ときたら、魔法の存在すら知らなかったのはおかしすぎる。遥か東方<ヤポン>? 出身? だとしても、魔法が存在していないなんて有りえません』
ルチアはアデリア冒険者組合長が言っていた、ある不審者の情報を思い出していた。それを齎したのは、バニラと桔梗の二体を目撃したあのレンジャーだった。
そのレンジャーと、所属チームを、ルチアは当然知っている。
『見た事もない奇妙な服を着た二人の女......一人は長剣、もう一人は金ダライを持ったウサギのような......あぁ! でも白装束とは訊いていないし人違いなのかも』
非常に怪しいとは思いながらも、ルチアは受付嬢らしく丁寧な助言を私にしてくれたのである。
ルチア曰く
「ポーションは即効性があるので、下級でも200Gです。お金のない初級冒険者チームは、薬草から作った安い丸薬を求めますので需要はありますよ」______
______という有難いお言葉で、私はレティキュラム号に保管してある科学薬品を利用する事が出来る。勿論、合成も可能なので量産も問題はない。
簡単に出来る薬は疲労回復丸、傷薬、胃腸薬などで、冒険者でなくても一般には売れるだろう。
目玉として地球製医薬品で、異世界には無い抗生物質などは、ポーション程即効性は無いものの、ウイルス性病に効く解熱効果を知れば、きっと注目を浴びるのは間違いない。
それにFランクでもゴブリンや、Eランクのモンスターは討伐出来るので、ランクアップするまでアンドロイド組に稼いで貰えばいいのだ。
「それでも問題は金......G。ジャッカル達三馬鹿トリオは別にしても、五人分の宿泊代は毎日稼がなくてはならない。その分を医薬品販売で稼ぐのは、非力な私の仕事だ。取り合えずストックを作成しておくことにしよう」
方針が決まったところで私は医薬品製造、アンドロイド組にはゴブリンやスライム、モンスターランクFのポイズンバットの討伐を頼み、三日に一度のペースで冒険者組合に買い取りをして貰う事にしたのだった。
◇◇
______三日後、最初となる抗生剤や胃腸薬を卸ろして、それから更に六日が経過した日の朝。
私達は冒険者組合の扉を潜り、ルチアの前で状況を訊いた。
中々ジョーの姐さんが顔を出さないので、ジャッカル達三馬鹿トリオがあちこち、私達を探し回っていたらしい。
それはいいとして、最初に買い取って貰った抗生物質のカプセルが、完売してしまったのだ。
異世界でもインフルエンザのような厄介な高熱病が存在していて、怪我ではない病は、中級ヒールやミドルポーションでは効きにくいと言う。
私の作成した抗生物質のカプセルは、ある男爵貴族の馴染みのある老執事が買い求めたと訊いた。
値段は1カプセル100G=価格に迷ったけれどローポーションより価格を抑えた1,000円(銅貨10枚)に設定してみた。
ルチアが私の説明をそのまま伝えた途端、全て買い取って慌てて帰って行ったそうだ。
仮にも男爵家なので、はした金なのだろうけど。
取り合えず様子見で50カプセルを卸したのが、これがいきなり5,000G=50,000円(銀貨5枚)を叩き出したのだ。これは五人の一泊二食付き宿代2,000Gとしても2日分になる。
『活動するにはまだまだ足りていないし、ゆくゆくは薬店を出す計画なんだけどね。店舗兼住宅って感じで』
ルチアに訊くと、新種の病は既存のポーションや魔法が効かない事があるらしい。つまり異世界の病原体も、地球同様に変異したりするのだろう。
「なるほど。それで私の薬を......抗生物質なら大抵のウィルスに効果がある。待てよ、ならその高熱病って今流行っているのでは?」
見渡せば、冒険者組合に訪れる者が今日は割と少なかった。その上ルチアの後輩、レイが休んでいるらしいのだ。
「ねぇルチアさん、あの三馬鹿トリオじゃない、ジャッカル達は?」
「そうですねぇ、あれから来てませんが......病気になるようなタマではありませんし......どこかでまた酒でも飲んでいるんじゃ」
?
私はジョーと話すルチアが気になっていた。
『妙な感じだ。何かあるみたいな?』
______ここで私は一つの仮説を立てた。
アンドロイド組は除外しても、もしかしてウィルスを持ち込んだのは、私とジョーでは無かったのか。ふとそんな想像をしてしまったのだ。
理由は私達が異世界に来てからと、新種の高熱病が流行り出した時期が重なるのである。私達には免疫があっても、異世界の住人には悪玉ウィルスかもしれない。
『思えばジョーがジャッカルをワンパンで沈めた時、二人の距離は近かった。なら既にあの三人は感染していた?』
しかし私達は男爵貴族とは接点がない。あるのはジャッカル達とルチア、それに隣にいたレイと言う受付嬢だけなのだ。
『飛沫感染によるもの? でもルチアは感染していないのは?』
私がガリレオにように指を顔に当てて思案している所へ、長身エルフの女性が私達を見つけて近づいて来た。
「ルチア、ここでも流行っているようだ。お前は大丈夫か?」
「はい、今のところは......」
「新種らしいが、取り合えず組合内部にクリーンの魔法を頼む」
「分かりましたマスター・アデリア。あの今日は眼鏡をしていらっしゃいませんね」
「執務室に置いて来ただけだ」
今の会話で、ルチアはクリーン魔法が使えるらしい。
『しかしその魔法でウィルスを浄化するものなのか。もし出来るのなら患者は増えていない筈......』
「あの、新種って何がでしょうか?」
私は思わず訊かずにはいられなかったのだ。
「ん? はっきり見えんが、見たところ薬師の癖に知らんのか? 今までにないミドルポーションと中級ヒールが効きにくい高熱病の事だ。急速に感染者が増えていると言うのに知らんとは、お前はどこのヤブ薬師だ!」
______「いいや効きましたぞ、あの薬が!」
大声で飛び込んで来たのは、ルチアから訊いたあの老執事だった。
「その声はオイスター・ケチャップではないか。騒々しいが何事だ?」
「マスター・アデリア、私のご主人様と奥様の高熱が下がったのです。そこで使用人の分も購入したいのですが」
「ではデルモンド男爵家専属のヒーラーや、ミドルポーションが効かなかったと?」
「さ、左様に御座います。ハイポーションは品薄で手に入らず、困っておったのです」
マスター・アデリアと呼ばれたのは、この冒険者ギルドの女性ギルド長で、エルフだった。
ジーィ
あの特長ある耳を持ち蒼い瞳が尚、私をじっと見つめて来る。如何に私でも、異世界美女エルフが持つ大人の色気には、抵抗し難いものがあるのだ。
どうやら私の目尻は下がっていたみたいだ。
「御屋形様!」
「「主様!」」
私の心の動揺を見抜き、すぐさまアンドロイド組が反応、ピンク色の気分が速攻で吹っ飛んで逝った。
『まさか、このヤブ薬師が卸した薬がか?......ヤブでもイケメン』
ドキィ
『......よくよく近くで見れば......人族の...そのなんだいい男ではないか......ぽっ』
心を詠んだのか、これにルチアがコクリと同意すると、アデリアは益々私の瞳を覗き込んで来たのだった。
『これは拙いぞ! 何か怪しまれている!』
ルチアにしても、私が売った薬は今までに見た事もない形をしていて、その上、飲めば高位魔法と同様の効果がある事が分かった。薬草から作れる薬など安価で、ローポーションより効果が低いのは常識の世界なのである。
『あぁ、あたしとした事が......これがこ、恋』
「して藪薬師、貴様の名を訊いておこう」
アデリアはわざと冷酷に言い放ったのは、極度なツンデレを隠したいからだ。それに近眼は魔法で治癒出来るのに、わざわざ眼鏡に拘っていた。
「Fランク冒険者チーム<ドラッグ・ファイブスターズ>リーダーのレイジーだ」
「ほう、名前だけは大層ご立派なことだ。訊いた以上、その名とチーム名、覚えておいてやる。だがオイスターの話では効果があったようだが、今後まともな薬を卸さなければ、冒険者登録を取り消す!そのつもりでいろ!」
『キャー、心にもない事をこの口がぁ~! あたしのバカバカぁ~』
『なんちゅうタカビーなギルド長なんだよ! これでは先が思いやられるよ』
女心と言うものは異世界であろうと、なんとも摩訶不思議なものだった。




