EP16 私の責任 コローナウィルス高熱病
◇◇アンドロイド三体の開発秘話
______ところでいつも私に纏わりついている、可愛いくも愛しいアンドロイド三体について語っておこう。
バニラアイスと桔梗よりも先に作られたのがRenoだ。
Renoに搭載したAi-myu48シリーズは、当然として初期型のロットにも関わらず、それがアンドロイド三体の内、メイド姿もあってか一番落ち着いて見えるのが父陽介が作ったRenoだ。
一方、バニラアイスは良く言えばお茶目、桔梗は父の趣味で武士道精神を重んじる硬派......良く言えばではあるけれど基本設計上、Aiにプログラムで個性を持たせたとは言え、予想ではこれ程の個性が出るものでは無かったのだ。
しかも完成体は、心臓が無い事を除けば人間の美少女と全く変わりがなく、36.5度の体温と人工皮膚の柔らかい肌は、むしろ人間以上と思わざるを得ない。
「アンドロイドが人間より優れている所は、戦争をしない点だ」
彼女達? は知らない人から見れば、なんと美しく可愛い三姉妹と思うだろう。普通に考えるなら最新のAi-myu96を内蔵したバニラ・アイスが、一番高性能で人間らしくなると、開発したレイジー博士の両親は考えていた。
______過去にレイジー博士の父、立木陽介と母の立木ロイスの間で、こんな会話があったと記録されていた。
両親の死後、私が未完成だったバニラアイスにAi-myu96を組み込む時、参考になるかと思ってアーカイブを漁った時に、偶然に発見した記録。
◇◇
ジジ
「おや?Ai-myu48のニューロ多段積層回路に、私の知らないチップが載っているんだがロイス、これはお前が変更して追加したチップなのかい?」
What are you say? ダーリン?
不信に思った母ロイスが見ると、夫が言うように覚えのない5mm角の黒いチップが載っていた。
「さぁ、私には I don't know anything. これは何ですの?」
「ロイス、私が知らないから訊いたのだよ......しかしこれは何だろう? まさかゴミではないだろ?」
「ダーリンのhana-kuso?」
「ロイス、冗談は顔だけにしろ」
Oh My! Oh My! You! Go to hell!
お気付だろうか。私の鉄板ジョーク<冗談は顔だけに>は、父親のぱくりだったと白状しよう。
血の雨が降っている所も記録済みだ。結局チップの正体は分からず、今更、時間のかかる設計変更は出来なかった。まずプロトタイプを製作して性能を確かめたかった父は、記録ではそのまま作業用アンドロイド兼、息子の世話役メイドとして最初にRenoを組み立てたとあった。
あらゆる状況でシュミレーションを繰り返した結果、RenoのAi-myu48は満足以上の性能を示したのである。
不思議な事に、他の47個のニューロ積層回路にも、覚えの無いチップが載っていたのだけれど、組み立て予定の47体(後の保毛坂48)にも、そのまま搭載する事に決めたのだった。
何故なら両親は、この時期には身の危険を感じていて、一刻も早くGフィールドエンジンを搭載したレティキュラム号の建造を進めたかったと記録されていた。
気を良くした両親が、RenoのAi-myu48を更に改善して息子の護衛と役に立つよう設計したのがAi-myu69桔梗とmyu96だった。
「ロイス、myu69桔梗とmyu96にも黒いチップが載っているが?」
「What's this ? これはどうした事でしょうダーリン」
Renoの謎は謎のまま。いくら考えても無駄だと思い、今回の事も見なかった事にし、その記録はアーカイブだけに残されたのだ。
「それらは、私Renoがレティキュラム号を建造した後の事で、御両親は私や桔梗を一端、半起動状態にしたのです。
その時の私は、レティキュラム号の管理全般を任されて、あの緊急事態に桔梗と共に再起動したのでした」
Renoは思った。
「残る保毛坂48の47体はまだ起動しない......いいえ出来ない。それは何故? 私自身はメイドとして主様に仕えているのに。47体はレティキュラム号完成と同時に眠りについてしまっているのは? しかもそれは御両親にも理解出来なかった?」
「私はバニラアイスや桔梗より、起動してから長い時間、御両親とレイジー博士を見て来ました。不安? 演算の出来ない何かに制御されているような......考えても私Renoには分からない。私はバニラアイスや桔梗と何か違うのでしょうか」
バニラアイスと桔梗が主様を巡って、何度も言い争いをしていても割と冷静でいられました。しかし話があの<かぶら>となるとブチ切れそうな自分を感じていたのです。
『Renoは人間に......嘘、人間になりたかった? そんな事って......私は便利な只のアンドロイドに過ぎない。でも何だかそれが悲しい』
◇◇コローナウィルス高熱病
______初めて抗生剤50カプセルを納入してから7日、私はまた量産して今回は400カプセルを降ろしたのだけれど、ルチアの窓口では既に購入希望者が列を作っていた。
秘密は価格をローポーションより安く設定したのも理由の一つだった。
「おい、まだなのかよ。早くしてくれ。娘が高熱を出して苦しんでいるんだよ、頼むよ、なぁ」
「うちは息子と娘なんです」
誰もが訴える事は同じだけれど、来ているのが大人ばかりなのは、体力のある大人は感染し難いのかもしれない。
その抗生剤はウィルス検査の結果、蔓延したのは私とジョーが普通に持っている、今では全く害の無いコローナ・ウイルスだと判明した。
私は早速コローナ・ウイルスを死滅させる事に特化した抗生剤の量産に入り、これを私は<レイジーマイシン>と名付けてみた。
「私の感覚ではビタミン剤みたいな物だけど、異世界の住人には危険なウィルスだから薬師っぽく名前だけでもね」
私の計算では、<レイジーマイシン>を一人一日3カプセル、三日分で9カプセルを感染した家族に売って欲しいとルチアに説明しておいた。
大抵の場合、それで回復していくものなのだけど、400カプセルそれだけでは、購入できる人が限られてしまうのが大問題である。
ルチアに訊くと、デルモンド王国の人口は180,000人。その内何人が感染しているのか......しかも感染力が高いのだ。
『もっと量産しなければ』
デブーラ男爵家の老執事オイスター・ケチャップは、朝から列の先頭に並んでいて、200カプセル全てを買い取ろうとルチアに迫って珍しく声を荒げていた。
「だから男爵様の、男爵様のぉ!」
男爵に命令されて来たのだろうが、ここで無理を言ってはいけないのだ。
相手が男爵家だけに、ルチアが困ってオロオロしていた時、それを組合長のマスター・アデリアが止めに入って来た。
『眼鏡をかけていると、余計に怖いインテリ上司って感じがする』
「すまんがオイスター、患者が見ての通り多い時だ。悪いが30で我慢して欲しい」
「しかし男爵様が......むぅ、仕方がありませんな.....それではジャッカル達には渡りませぬが」
『なに? 今ジャッカル達って?』
正論だけに老執事も、デブーラ男爵家が住民から反感を買われるよりはと引き下がっていた。
それを見ていた私と、赤淵で細い眼鏡を通したマスター・アデリアの目が合った。
「薬師のレイ、レイジーだな。もっと卸ろせないのか?。この通りまだ患者が一向に減らないのを見て、貴様、何とも思わんのか!」
『あぁ~ん、どうしても口が勝手にぃ! あたし仲良くなりたいのにぃ』
マスター・アデリアも感染していたのか、顔面が真っ赤になって火照っているようだ。
『これは40度近くは出ているのだろう。立場上、冒険者組合を休む事も出来ないのか。それで感情が高ぶってイライラと......でもそれは駄目でしょ。周りが空気感染するんだから』
私はルチアに渡そうと思っていた予備の6カプセルを、3錠ずつ二人に渡す事にした。
「あのこれ、一日分ですけど飲んでみて下さい。明日までには徹夜して100カプセル作って来ますから、今日はそれで様子をみてください」
『優しいぃぃ』
「ふん、効かなかったら、貴様の資格をはく奪するらな!」
『ここは、け、仮病で誤魔化すの』
「やっぱり感染していましたか」
『あなたにね♡』
『どうしてあたしの口わぁ。でもレイジー様からの初プレゼント! 大切にしよう。このお返しにあたしからも何かプ、プレゼントを考えねば! それにはもっとレイジー様の事を知らなくては。はぁぁ~体が熱くなってきて、もう息が 出来 ない』
「大丈夫ですか? 更に熱が! アデリアさん、早く休んだ方がいい」
パク
パク
もはや過呼吸状態なのだろう。拙いと思った私は、マスター・アデリアをお姫様抱っこでベッドに運ぶ為、アデリアの両足に手を差し入れた。
「なにふぉ......すふ....るぅ あふぅ x△x◇xぽッぽ」
ガクぅ
「大変だマスター・アデリアが高熱で失神した! 危篤だジョー」
「ボクだって、いつも危篤なんだからぁ~!お姫様抱っこしてぇ~」
「こんな時に馬鹿な事を! 65deburaのジョー!」
「ひ、酷い!」
「ご主人様ぁ、私もぉ!」
「御屋形様、贔屓は駄目だ」
護衛で傍らにいるのはReno。
Renoのプラズマ重核子炉も、危篤状態に達しようとしていたが、バニラと桔梗が騒ぎ立てたのを見て、冷静さを取り戻していた。
「私は薬師の癖に、何の薬も持っていないとは。これは失態だった」
「レイジー様、大丈夫です。私が魔法で状態安定させます」
『なに? ルチアにそんな魔法が!』
ルチアに案内されて、マスター・アデリアを休憩室のような簡素な部屋にあるベッドに寝かせると、私達は後の看病を頼んで、またホールに戻って行った。
「頼むよルチア」
「はい、お任せください」
そこで私は、まだ帰らずにいた男爵家老執事オイスター・ケチャップから、驚きの事実を訊かされてしまったのだ。




