第三十三話 疑惑の過去
「まだ時間があるな。
アカリよ、少し話すか」
ノイマンの姿をしている別人はマットに腰かけて隣に座れと言わんばかりにマットを叩く。
ノイマンがこんな艶のある表情で見上げるなんて今までの態度とギャップがあり過ぎてプチパニック中な私は彼を見降ろしたまま動けない。
彼は誰だ?
いつもオドオドしていた少年は一体どこへ行ってしまったというのか。
目の前の彼が偽物?
それは考え辛い話だ。
何故ならヒールタッチでの治り方が、既に魂のカケラを得た者と同じ速さだったからだ。
その上、手に入ったのは魔力だけ。
彼は間違いなく、一度はタッチ系のスキルが発動しているノイマンだ。
もしや二重人格に目覚めたとか?
辛い経験をすると眠っていた別の人格が表に出るって設定はよくあるけど現実に起こると戸惑いしかない。
…あ、いや違う。
私が魂のカケラを手に入れたのはノイマンだけじゃない。
地上に居た子供達の多くから得ている。
その中に姿や声を真似る魔法を使える子が居れば…でも、そんな事をする理由が分からない。
…もしかしてヒールタッチで治した時に肉スライムとノイマンが混じってしまったのだろうか。
癒えていく傷口から押し出される肉スライムが脳内に残っていた状態で回復したとか?
顔の右下に肉スライムが蠢いていたから可能性はある。
…やってしまった。
アカラスタになんて説明すれば!?
息子を治したけど人格は肉スライム?
これはブッ殺案件なのでは!?
「まずは誤解を解いておこうか。
妾は少年の身体を一時、借りておるだけ。
事が済めば無事に戻そう」
「それは…本当、ですか?」
無事に、戻す?
一時借りてるだけって…
それは、つまり…ノイマンに何かが入っているという事だろうか。
彼は鷹揚に頷くと視線を下に向けて、胸をまるで愛でるように撫でながら続けた。
「この少年はアカラスタの呪いに蝕まれておった。
貴重な男の子が無意味に死んでしまうのは悲しきこと。
故に妾が取り込み、命を繋いだ。
…本来ならば、翌日までしか保てなかった命を其方のおかげで無事に明日を生かす事ができる。
感謝するぞ」
「それは…良かった。
彼、ノイマンは無事なのですね」
良かった。
私の言葉が分かるのはノイマンとディーダの二人だけだから。
私自身は彼らが何を言っているのか分かってるけど、彼らにとっては未知の言葉だ。
ノイマンの翻訳魔法があってこそ二人には伝わっているが、言葉が一方通行なのは会話するにおいてハンデにしかなり得ない。
話し相手が減るのは、好ましくないから。
…でも、本当に?
嘘を吐いてはいないだろうか?
ノイマンは死んでて、その死体に肉スライムが巣食っていたとしたら…
いや、死体にヒールタッチは使えないから死んでるって事は否定できる。
「それに音楽とやら。
あれは誠に良いモノだ。
あれを聴いた時は…上手く言葉に表せないが衝撃を受けたものよ」
「音楽、ですか?」
シアタールームを知っている?
もしかして目の前の彼は子供達に混じって私を観察していたのかもしれない。
余所者にだけ子供の面倒を任せるなんて今思えば考え辛いし。
子供のふりをして聴きに来てたのかも。
「しかし、あれは妾も知らぬ文化。
黒い涙が発生する以前にあの刺激ある音は存在していなかった。
アカリよ、もしや灰色か?」
「はい?」
彼は笑顔を消して真面目な顔付きで見上げてくる。
私はその顔を訳も分からずポカンと見下ろしている。
今、鏡で見たら相当、ポンコツ可愛い顔が見れる事だろう。
灰色というワードが出た瞬間、周囲からの圧が増した。
さっきまで静かだったのに講堂に何か反響するような音が聞こえてきて不安になるんですけど!?
圧迫面接ならぬ、圧迫裁判ですか!?
なんで色の話題?
音楽と灰色がどう結び付いて出てきたんだろう。
彼の意図が分からず戸惑ってしまう。
まぁ、答えた所で言葉が通じないから意味がないだろうけど。
この時はそう思っていた。
すぐに覆されたけど。
「…そうか」
彼は考え込むように顔を下げたがすぐに悪い事を考えてそうな怪しい顔付きで私をまた見上げてくる。
それからは散々、質問をされた。
中には何をどう聞いているのか分からないモノもあったし、答えるのを拒否した質問もあった。
どういう訳か、目の前の彼は私の言葉、日本語が分かるらしい。
ハハ、私は、清い身ですけど、何か!?
経験数を聞かれても答えられませんけど!?
まぁ、前世含めてゼロですけどねっ!
私、見た目は高校生ぐらいで彼は小学生と言われても納得する幼さなのだけど?
オネショタもお断り!
お触りも禁止っ!
…絶対中身はエロオヤジだろ、これ。
美少女相手に好き勝手やって良いと思うなよ?
子供だからといって、ノイマンの体だからといって加減はしないぞ!
周囲もまた始まったという呟きが聞こえてきた気がするんだけども!
止めてよ!
お願いだから!
「…来たか」
まさに変身能力を使って変態を縛り上げていると、彼が抵抗をやめた。
その視線の先にはミイラが居た。
「あ…」
マット、手足を縛られた彼、馬乗りの私。
彼の見た目は彼女の息子。
状況、お分かり?
私は慌てて変身能力で出したロープを消して飛び上がった。
「いや、違」
『母上、お待たせしました
…先の醜態については申し訳ありません』
『よい、気にするでない、アカラスタよ。
早速で悪いが其方の視た内容を聞こう』
『では、先に襲来日から申し上げます』
それから私を置いてけぼりにして話がどんどん進んでいく。
アカラスタの話す内容の固有名詞が多くて具体的な内容は全然分からない。
誰か、翻訳と説明をしてくれ。
とりあえず、十日後に何か危険な奴が襲ってくるという話なのは分かった。
アカラスタの呪いは体中に描かれた魔眼。
私を殺せる魔眼以外にも未来視ができる魔眼も有ったという訳か。
背中でギロギロ動いてたのが、そうなのだろうか。
それと私の理解が正しければ、対応策が地下に閉じ籠る以外に取れず、今回はこの拠点が壊滅する恐れがある、なんて。
周囲から悲壮感がダダ漏れなので、内容も解離している訳じゃなさそう。
…ヤバくね?
というか、今回は?
もしかして前回にも同じような事があったのだろうか。
もしかして成人男性があまり、というか、全然見かけないのも、もしかしたら…
何故だか、彼は余裕のある落ち着いた感じでアカラスタの話を聞いている。
時折、こちらを見ては頷いてくるのだが、何を伝えたいのだろうか?
とりあえず頷き返してはいたけど。
『襲来日については以上です。
次はそこの化け物についてお伝えします』
そう言ってミイラ状態のアカラスタがこの講堂で初めて私の方を見た。
顔が隠されているから初めてじゃないかもしれないけど、私はそう感じた。
ボロ布のせいでどんな表情で私を見ているのか分からないが、好印象を抱いていない事だけは知っている。
数秒、黙っていた後に朗々と話し始めたけど、どうしよう。
アカラスタの話す内容、全然分からないのだけど。
アカリ
Lv3(388/400)
HP80/80
【ヒールタッチ】《選択中》
【スリープタッチ】
【救済の手】
【物理無効】(1/10000)
【無属性耐性】(299/1000)
【火属性耐性】(42/1000)
【水属性耐性】(24/1000)
【風属性弱点】(26/100)
【雷属性弱点】(1/100)
【土属性弱点】(53/100)
【光属性耐性】(90/1000)
【闇属性無効】(1/10000)
【力属性弱点】(3/100)
【状態異常無効】(1/10000)




