第三十二話 同一の相貌
「…はぁ、私は何用で呼ばれたのでしょうか」
冒険気分はここまで。
講堂にはここの大人達だろうか、数十の見知らむ人達が一斉に私を見つめている。
和やかなんて程遠く、視線自体に重さを持っているのではないかと錯覚すら覚える。
大人達の外見からも邪教徒が生贄を探しているように見えてくる。
まるで魔女裁判でも始まりそうな雰囲気だね。
何かな、もう火炙りか串刺しか、刑は決まってるのかな?
どちらでも私を殺す事はできないけどね。
火には耐性、物理は無効にする。
大抵のモノには耐性がある。
…まだ弱点もあるけど。
流石に監禁や生き埋めとか生きてても死んでても効果がありそうなモノを執行される事になったら決死の覚悟で逃げ出すけど。
うん、閉じ込められるのはこりごりさ。
変身能力で冒険家から私の原型に。
おへそが見える程、丈の短いオレンジ色のタンクトップ。
大胆にスラリとした足を魅せる黒いホットパンツ。
動き易い赤いスニーカー。
やっぱ、このスレンダーな体型にはシンプルな服装が一番似合う。
私なりの正装に着替えた所で講堂に進む。
目線は最奥に置かれている巨大な肉塊に固定して堂々と歩く。
オドオドしてても面白くない。
責められるような事はしてないしね。
この講堂に来るまでに人の声が聞こえていたのに私が目の前を通る時は黙って両サイドから私の一手一挙を注目されているのが分かる。
敵意を隠そうともしない人がチラホラ。
心が騒ついて仕方ない。
うん、私にはモデル業は合わない。
人を魅せる体ではあるけど、こうも注目の的になってみると落ち着かない。
元々が根暗なゲーマーですから、そりゃ社交場の華なんて土台無理な話ですし。
今回は雰囲気が物騒ってのもあると思うけどね。
これ、下手な事したら側から暴力、拘束、実刑って流れじゃないよね?
奥にズンズン進むと右斜め前方に見覚えのある緑色の髪型を見つけた。
ノイマンだ。
しかし、違和感がある。
少し、体が右に傾いてないか?
ノイマンの足元を見てギョッとした。
右脚の膝まで肉スライムに喰われていた。
慌ててノイマンに駆け寄り、声をかける。
「ノイマン!
だ…っ!?」
かけようと、した。
正面から見たノイマンは酷い有様だった。
肉スライムに喰われていたのは片脚だけではなかった。
体の至る所に穴が空いていた。
その穴からは、まるで寄生虫のように肉スライムが出たり入ったりと蠢いている。
顔は左半分が蝋人形をとかしたように爛れて、右側は目の下から首の辺りまで球状に丸く削られたような傷があり、その欠けた部分を肉スライムが埋めるように傷の内側に入っている。
右目と髪だけは無傷でそれがノイマンの重傷さを際立たせる。
彼は生きているのか。
なぜ、こんな目にあっているのか。
肉スライムは彼らの仲間ではなかったのか。
《無属性の魔力を入手しました》
私は頭が真っ白になりながら手を伸ばし、肉スライムが唯一蝕んでいない頭に触れる。
最初に会った時にノイマンにはヒールタッチを発動させていた。
だから治るのは早い。
綺麗に残っている目が苦痛に歪み、首の所からヒュッヒュッと空気が抜ける音が漏れ出る。
ノイマンがガクガクと震え出した。
私のヒールタッチは苦痛を伴う。
それは重傷であれば、あるほど増す。
ノイマンの場合は、怪我を治すというよりも肉体を再生する部類になる。
苦痛は耐えきれないモノだろう。
せめてもの救いはその激痛は長くかからないという点だろうか。
ふと、肉スライムが体内に入った状態で治しても大丈夫なのかと不安になったが杞憂だった。
筋繊維、骨、皮膚、傷ついた部分が治っていく。
体の内側から肉スライムがトコロテンのように押し出されて床にボトボトと落ちては巨大な肉塊の方へ這いずって行く。
ノイマンの様子に周囲からどよめきが聴こえてくる。
…本当に治す力は持っているぞ。
神様由来の、私の力。
顔の爛れた部分ははズルズルと元の位置に戻っていき、最後に目蓋の部分が膨らんだ。
…眼球が潰れてたのかな。
あの爛れ方なら潰れている方が自然か。
『…ぁあ』
最後に呻き声を上げてノイマンは完治した。
本人は…激痛のあまり、失神したようだ。
しかし、呼吸は安らかで穏やか。
もう心配はないだろう。
私は変身能力で出したマットにノイマンを静か寝かせながら考える。
ノイマンはどうしてあんな姿にされていた?
最後に見たのは…アカラスタがボロ布を脱いだ時。
イゾーヌがそれを見て慌ててノイマンを掴んで壁を壊して逃げていた。
…逃げるという事はイゾーヌやノイマンにも害が及ぶと判断したから。
つまりアカラスタの呪い、魔眼は無差別に発動する。
壁の付近に落ちていた謎の塊は…イゾーヌかノイマンの一部だったのかもしれない。
私は立ち上がって講堂に居る大人達を見回すが、その中にイゾーヌの姿は見えない。
ノイマンと同じように重傷なのか、それとも…
アカラスタの呪いはどこまで届くのか。
魔眼の発動条件は?
もしかして、地上に居た子供達にも影響が有ったのではないか?
ノイマンがなぜ、ここで肉スライムに喰われていたのか。
本当に喰われていたのか?
魔法の世界であろうとあれほどの傷を負えば死んでしまうはずだ。
もしかしたら…延命処置をしていたのか?
出血を抑え、傷ついた血管や臓器の代わりをあの肉スライムが行っていたとしたら。
それは、つまり…
私に治させる為にノイマンを準備していたのだろうか。
私のヒールタッチの力を確認する為に?
だからノイマンが治っていく際に周囲から本当に治せたという呟きが漏れた?
「私は…私に何を求めているのですか?」
口調がきつくなっているのが自分でも分かる。
状況が分からない苛立ち。
己の子供さえ傷つけるアカラスタへの怒り。
消えた子供達の安否が分からない不安。
自分の軽率な反応をしてしまった愚かしさ。
返事は返ってこない。
当たり前だ。
彼らは私の言葉を理解できないから。
でも、私は彼らの言葉が分かるのだ。
何でも良い。
何か答えて欲しい。
こっちは聞きたい事がいっぱいある。
彼らも同じ事だろう。
なんせ、私は彼らにとって未知なのだから。
『ほぅ、見事なものよ』
「んぇ?」
下からノイマンの声が聞こえたが、到底ノイマンが言わなさそうな口調で思わずノイマンの方を見下ろした。
ノイマンは半身を起こして両手を見ながら握ったり開いたりしている。
しかし、どこか違う。
確かにノイマンなのに、雰囲気が別人のような、曖昧だがはっきりと違うと言える。
「魔力を持たぬ者が魔法とは別の力を持つ。
ふふ、帝国に恐れられて封じられたか?
のぅ、アカリとやら」
ニヤリと妖艶さすら感じられる表情で見上げてくるノイマン。
…え?
誰ですか?
アカリ
Lv3(388/400)
HP80/80
【ヒールタッチ】《選択中》
【スリープタッチ】
【救済の手】
【物理無効】(1/10000)
【無属性耐性】(299/1000)
【火属性耐性】(42/1000)
【水属性耐性】(24/1000)
【風属性弱点】(26/100)
【雷属性弱点】(1/100)
【土属性弱点】(53/100)
【光属性耐性】(90/1000)
【闇属性無効】(1/10000)
【力属性弱点】(3/100)
【状態異常無効】(1/10000)




