第三十話 恐怖の記憶
「おっとと」
また揺れた。
私はアカラスタを乗せたストレッチャーに掴まってバランスを取る。
あの肉スライムが床に溶けてから地震が立て続けに発生してる。
地震大国日本出身の私でもびっくりな頻度だ。
最初の大きな揺れが来た時は思わず、生き埋めになると思って慌てたが、ゴミの天井は思いのほか、頑丈だったようで崩れ落ちる事はなかった。
しかし、地震発生時に地下に居るのは得策とは言えないだろう。
鉄筋コンクリートの地下街ならともかく、こんなゴミで構成された地下じゃ、安心できない。
いつ崩落しても不思議じゃない。
拘束したアカラスタを病院で使われるようなストレッチャーに乗せたけど、とても軽かった。
体格は私と同じくらいで非力な私には持ち上げられるか心配だったが杞憂なようだ。
それから急いで階段が有っただろう辺りの部屋の壁を壊して外に出た、それは良いのだが…
最初は音が気になった。
私がノイマンに地下に連れて行かれたのはシアタールームに子供達を集める前だったから私が気絶していた時間を考えても、まだ夕食前。
子供達は各々、遊んでいて賑やかな筈なのだ。
階段を降りる際は聞こえていた子供達の声が聞こえない。
地上に居るはずの子供達が居なくなってた。
ストレッチャーに乗せたアカラスタを階段前に置いて家の中を探しまわったが一人も見つからなかった。
そしてご飯を食べる広場には大きな穴が開いていたのだった。
穴は深く、覗いても奥が見えない。
まさか、さっきの地震で?
いや、でもまだ広場に集まる時間じゃないのに、みんな居ないのは可笑しい。
広場で遊ぶ子も確かに居るけど、全員じゃないし。
とりあえず家自体もゴミで構成されている為、崩落の危険がない外に出た。
広場は天井がないけど、穴が開いているって事は、その付近は崩れる危険性があるという訳だし、離れた方が良い。
広場の時もそうだったけど、外に出る際にアカラスタが嫌がってたのは驚いたけどね。
落ちるって言ってるけど、もしかして…
はぁ、ゴミが日光を反射してキラキラしてるよ。
…外にも子供は居ないようだ。
ちょっとドローンを飛ばして探してみるか?
『ぐぅぅ、ぁああ!!』
少し目を離しただけだ。
少し、目線をゴミ山に向けただけだったのに。
呻きと叫びを混ぜたような声が聞こえて振り返るとアカラスタのお腹から青い手が生えていた。
明らかに危ない感じで痙攣しながら泡を吹くアカラスタ。
なに、寄生虫!?
いや、腹から手、腕が生え…なんで!?
『あ〜ちゃん、ダメだよぉ。
呪いはぁ、襲来日に取っておくってぇ、決めてたでしょぉ?』
その声はまるで耳元で囁かれているように感じた。
幼い子供の口調で、アカラスタを責めている。
腕はお腹を抜けてどんどん出てくる。
いや、ストレッチャーの下に何か居た。
それがアカラスタを通って上半身が出てきた。
『初めましてぇ、お客人。
ドムドムと申しますぅ』
アカラスタから抜け出たそれ、ドムドムと名乗る幽霊は私の周りをフワンと回ると空中で姿勢を整えて私に向かって手を振る。
語尾を伸ばして挨拶をしてきた相手の身体は、向こう側が透けて見えた。
まるで青い曇りガラスを覗いている気分だ。
…え、幽霊、居んの?
この世界、幽霊は真っ昼間から、こんなはっきりと出るの?
いや、輪郭というか全体的にはボヤボヤしてるし、全裸っぽいし、青いけど。
体型と声から女性の霊だとは分かるけど…
アカラスタは、憑かれてた?
「こんにちは。
私はアカリです」
例え相手が幽霊でも、礼節は忘れてはいけない。
例え無意識に巫女服に変身してて、両手にはお祓いに使いそうなお札や大麻を持っていたとしても、だ。
うん、私にお祓いの力なんてないしね。
というか、自然と名前が口から出ていた。
うん、相手が名乗ったらこちらも名乗る。
癖って凄い、驚いて何も考えが纏まらないのに勝手に体が動くのだから。
というか、この世界は魔法の存在する世界なんだ。
幽霊が居たっておかしくない。
よく考えれば死なない私が居るんだ。
魂だけの存在が居てもおかしくない。
ソウダ、ナニモ、オカシク、ナイ。
『お客人、あ〜ちゃんをこっちにぃ、運んでくれませんかぁ』
気付くとドムドムと名乗った幽霊はゴミ家の奥に向かっていた。
…下半身もちゃんとあるんですね。
ボヤボヤしてて風に吹かれたらなくなってしまいそうな雰囲気だけど。
日本式だと下は煙のように描かれていたけど、やっぱ世界が違うと幽霊も違うのか。
…いや、日本で幽霊なんて見た事ないけど。
フワフワとまるで風船かタンポポの綿毛のように漂って移動してる。
色も考えたら空中を舞うクラゲを擬人化したように思えてくる。
うん、だから怖くない。
コワク、ナイヨ。
「はい、分かりました」
とりあえず、お札と大麻は消して私はストレッチャーを押す。
ふと、アカラスタを見ると口から吐いていた緑色っぽい泡が上へと、天へと登っていくのが見えた。
…うん、吐血したからね。
口の中に残ってた血が残っていてもおかしくないし、泡吹いて失神してるから、その泡に血が混じっててもおかしくない。
でも空へ舞い上がるのは…魔法関係でしょ!
天井に逆さまに立ってたり、救済の手でマットに移動しようとしたら床じゃなくて天井に張り付くし、ストレッチャーに乗せて押してる時だって異様に軽かった。
もしかして…アカラスタは魔眼以外にも重力に関係した魔法が使える?
それも自動で発動するタイプで、自身にかかる重力を反転させる、みたいな?
それとも種族特性だとでもいうのだろうか?
…まぁ、確かにそんな能力があるなら天井の無い空間に行くのは恐怖だろう。
なんせ、彼女にとって危険な崖に強制連行されているようなものだ。
拘束が解けて空へと落ちてしまえば…
私はアカラスタの拘束を少し厳重にしてドムドムの後を追うのだった。
方向は…広場だ。
きっとあの大きな穴に向かっているのだろう。
そういえば、どこかで聞いた名前だと思ったら、私が閉じ込められていた箱が設置されていた遺跡を確認したのがドムドムだってアカラスタが言っていたのを思い出した。
なるほど、確かに物をすり抜ける相手なら未知の遺跡を調査するのにもってこいだろう。
崩落や罠が作動して閉じ込められてもすり抜けてしまえば良いのだから。
目の前で、まるでクラゲのように自由に漂って進む彼女の後ろ姿を見ながら調査役に選ばれた訳に納得した。
…でも、物をすり抜けるとは言っても相手にダメージを与えられるのはどういう原理なんだろ?
やっぱ呪いって事かな。
未だにビクビクと痙攣してるアカラスタを見下ろしながら少しだけ、ホラーゲームの内容を思い出してしまった。
ウン、アタシ、ムコウ、スキル、アルカラ。
ダイジョブ、キット、ダイジョブ。
…暗い所で会いたくないな。
アカリ
Lv3(388/400)
HP80/80
【ヒールタッチ】《選択中》
【スリープタッチ】
【救済の手】
【物理無効】(1/10000)
【無属性耐性】(298/1000)
【火属性耐性】(42/1000)
【水属性耐性】(24/1000)
【風属性弱点】(26/100)
【雷属性弱点】(1/100)
【土属性弱点】(53/100)
【光属性耐性】(90/1000)
【闇属性無効】(1/10000)
【力属性弱点】(2/100)
【状態異常無効】(1/10000)




