第二十四話 偽善の願い
「んんー、気持ちの良い風ね」
私はグイっと伸びをしながらゴミ山、家から静かに出た。
構造が単純だった為、一人でも出る事ができた。
空は明るくなり始め、高く積まれたゴミの山に日光が反射してキラキラと輝いている。
目の前のゴミ山が私達が来た道なのか全く分からないが、昨日と同じように綺麗に思ってしまう。
いやはや、ようやく一人になれた。
昨日は食事が終わると子供達はそのまま広場で眠りに入ったからディーダの母親と話せずに夜を明かした。
もちろん、周りは子供達に囲まれて。
私は金縛りを擬似体験するハメになった。
人間、両手足と胴体を固められたら動く事は無理なのだと理解させられたよ。
寝返りで動いた子が戻って来ないように変身能力でクッションを敷き詰めた甲斐があったというものだ。
それで日の出までかかった事には目を瞑るとして。
私には睡眠の必要がないから夜の間にこのゴミ山、家の中を探索に出たり、ディーダの母親との会話をノイマンに頼みたかったのだが…
ちなみにディーダは最後まで私に乗って気持ち良さそうに寝ていた。
他の子が寝返りをして自由になった手で顔をもみくちゃにしてやった。
毛皮の感触、サイコーでした。
しかし、ずっと空を見上げて横になっていたが、雲を一切見る事がなかった。
うん、顔の上に乗られるまでは綺麗な星空をずっと見てたからね。
異世界にも星が見れて良かった。
少なくとも、前世の地球と同じように惑星が存在すると考えていいだろう。
どこぞの神話のように水の上に乗った平たい大地ではなくて、まん丸い星の上に私は存在する。
これだけでホッとする自分が居るのだ。
それにしても思い出してみれば、あの芝生の時も、白い建物から脱出した時も雲を見かけてない気がする。
この辺りは滅多に雨が降らないのだろうか。
だから天井の無い広場でみんなして寝ていたのか。
それでも夜風に当たると風邪をひいてしまいそうだけどね。
あの茶色い液体を飲んですぐに眠った子供達は歯磨きをしていない。
薄汚れていた子も居たし、お風呂にも入っていないのかもしれない。
日本と違ってこの辺りでは水は貴重なのかもしれないな。
…あれ、でも研究所や病院でもお風呂に入れさせてもらってないけど、そもそもの話、この世界にお風呂の文化が無い、って事は無いよね?
それなら私、全力で風呂文化を広めるのだけれど。
美容問題はお風呂と切っても切れない関係だからね。
綺麗な子を汚れたままなんて、世界が許しても私が許さない。
「アカリさん、起きたんですね」
「あら、おはよう、ノイマン。
貴方も早いのね」
声の方に振り向けばノイマンがしっかりと立っていた。
まだ日が昇り始めたばかりなのにノイマンは早起きなようだ。
青白い肌で目元には濃ゆいクマができてる少年。
もしかしてノイマンは眠りが浅いのかもしれない。
「オハヨー?」
「…私が居た国の、朝の挨拶よ。
朝は、おはよう。
昼は、こんにちは。
夜は、こんばんは。
知り合いに会えば言う挨拶。
貴方達にはないかしら?」
「あいさつ、あいさつ…
う〜ん…」
ノイマンは挨拶について考え込んでしまった。
そう言えば、昨日の夕食の時も挨拶を言ってなかったっけ。
この世界で挨拶と言えばフランクリンがやってた帝国万歳ぐらいしか見かけてない。
挨拶の文化もないのだろうか。
「挨拶の話はいいわ。
ノイマン、貴方にお願いがあるの」
「………」
…あれ?
数十秒経っても返事が返ってこない。
ノイマンはブツブツと呟いているのが分かるが、私の声が届いていない様子だ。
「…ごめんなさい。
あいさつって言葉を初めて聞いたからどれを指すのか分からないです」
「別に、気にしなくていいわ。
それよりもお願いがあるの」
うん、翻訳によって言葉が分かると言っても日本の文化まで分かる訳じゃない。
私だって言葉は日本語に聞こえるけど、異世界の常識を得ているとは言い難いし。
前提条件を無視して言葉が通じているのだ。
これぐらいの不具合が起こっても仕方ない。
それにしても、ディーダのノイマンに対する行動も少し分かる気がする。
彼は何か考え始めると周囲が見えなくなるタイプ。
それも真面目だから分からない事も一度考えてから答えるから話がズレていくのだろう。
なんだか虐められそうな子だ。
そういえば地下でもディーダが先に答えて小突かれてノイマンも慌てて答えていた。
ディーダはノイマンの考え込むクセを知っていたから思考に沈むノイマンを物理的に引き上げていたのだろう。
…少々、強引だったのは否めないけど、段々とエスカレートした結果かな。
「昨日の話を覚えているかしら?
私の能力についての話よ」
ノイマンは目を見開いた。
周囲を確認して私に近付いて小声で囁く。
「…触れた相手を、癒す力の事ですか」
別に隠している訳でもないのだが。
ノイマンと二人っきりの時に話した能力。
ヒールタッチは触れた相手を癒す。
そして、それだけの能力では、ない。
「えぇ、その能力の事だけど…
いつでも触れた相手をすぐに癒せる訳ではないのよ」
「いつでも、発動しない?」
ノイマンはキョトンとして私の顔を見上げている。
その様子は見た目通りの無垢な子供。
私のレベルを上げる為に必要な魂のカケラを得る唯一の手段。
レベルが上がれば私はできる事が増える。
耐性スキルをスキルアップさせる為に必要な魔力が手に入る。
私に傷を負わせる可能性を潰す手段の一つ。
「…最初の時だけ、何分間か触れ続けないと発動しないわ。
緊急時でなければそれでも良いのだけれど…私の能力は死者には無意味。
発動する前に手遅れになる事もあり得る」
目の前で消えてしまいそうな命を助けられるという希望。
私のお願いで最悪を回避できるかもしれない奇跡。
とても綺麗で尊い建前。
それで私の本音を覆い隠す。
目の前の子供に見つからないように。
だって死んだらヒールタッチが発動しない。
発動しないと魂のカケラが得られない。
得られないとレベルが上がらない。
レベルが高ければ、あの箱にだって入って無かった。
私は無償で手を差し伸べれる、少数の聖人ではないのだから。
利益があるからこそ、私は動いているのだ。
「そ、そんな!」
「だから事前にここにいる人達に触れて能力を発動させておきたい。
ノイマン、手伝ってくれないかしら」
私はノイマンの両方を掴んで顔を近付ける。
私の為に他の子を差し出して?
癒した時点で対価は支払われる。
無くなるのはあらゆるキズ。
失っても良いモノばかり。
「傷は、病は、死は、身近に存在する。
いつ災厄が訪れて…手遅れになってしまうかもしれない。
それでも、最悪を回避できる準備はした方が良いに決まってる。
ねぇ、ノイマン。
どうかしら、手伝ってくれる?」
貴方が断れば、私は…
勝手に癒すだけだ。
アカリ
Lv3(12/400)
HP79/79
【ヒールタッチ】
【救済の手】
【 】
【物理無効】(1/10000)
【無属性耐性】(13/1000)
【火属性耐性】(5/1000)
【水属性弱点】(61/100)
【風属性弱点】(10/100)
【雷属性弱点】(1/100)
【土属性弱点】(16/100)
【光属性耐性】(90/1000)
【闇属性弱点】(2/100)




