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私は彼女に恋をした  作者: まどるか
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11/30

◆5月 撮影旅行.日常への道

奈由菜 朱音と月葉のクラスメイト

柚子里      〃

 月葉は最寄りの病院へと運ばれ、長い休日の最終日には、私の住む街の病院へと運ばれた。

 その後の私の行動はといえば単純で、それにはやはり月葉のことを思う時間以外あるはずがなかった。


「月葉、お見舞いに来ましたよ」


 五月の終わりが迫り行く中、私は近所の病院に、月葉のお見舞いで訪れた。


「あれ、月葉? 寝ていますか?」


 私が声をかけても、仰向けになって寝ている月葉が、起きあがる様子はない。

 私は掛け布団から少しはみ出た月葉の右手を、両手で握りしめた。


「早く良くなって下さいね。寂しいんですよ。貴女がいないと……」


 これ以上は私の押し付けになってしまう。私は言葉を押さえ込み、かわりにその手をより強く握った。


 そのまま十五分程待ってると、ようやく月葉が目を開けた。


「おはようございます」

「…………おはよ……?」


 今は午後の5時。おはようと言うには適切な時間を軽々越えている。

 でも、起きたてほやほやの月葉は、私の言葉に意識がはっきりしないまま応じた。

 まあ、起きたばかりだし、『おはよう』が適切と考えられなくもない。

 まあ、間違ってるけど。


「また来てくれたの?」

「もちろんです。毎日来ると言ったでしょう?」


 月葉がこの病院で入院し始めてから、2週間ほどが経つ。

 初めの頃は、私が手を握っていることに対して、なんか恥ずかしいって言ってたのに、最近になって言わなくなった。


 最近、私がくると月葉は毎日寝ている。そして私が声をかける中で、意識が戻っていても反応しないという、不自然が見受けられた。

 つまりは寝たふり。

 イタズラしたいのかなと思って、わざわざ背を向けたりしてみても反応がなかったから、イマイチ意図はわからない。

 けれど、そんな姿でさえもかわいくて、いとおしいと思えてしまうほどに、月葉に固執しているんだと、改めて感じる。

 月葉に恋人ができたりしたら私はどうすればいいの……?

 私の最期になるかもしれない。それなら、私がこの世に生を受けた日を選ぶかな。


 そんなことを考えていると、私が握っていた手が、私より少しだけ小さな月葉の手に包まれた。


「私、楽しみにしてたんだけどなー。遊園地とか、朱音と一緒に行けたり、夜は一緒に寝たり……」


 月葉は今回入院して、初めて感情を吐露した。

 その姿はあまりにも脆くて、離れてしまいそうで。置いてかれてしまいそうで。私の前から姿を消してしまいそうで。

 私は想像しただけで、不安で仕方なくなる。


「……朱音ってば、どうしたの!?」


 考えているうちに、みるみる感情が高まり、目の前の月葉を見ても、拭いきれない涙だった。

 その言葉が私の行動の引き金になる。

 私は柔らかい月葉の身体の後ろに手を回して、自らの感情の昂りで生まれた熱を月葉の身体に伝えた。

 そして耳元で小さく、なるべく優しく、月葉にだけ聞いて欲しくて、


「月葉、あなたは私の大切な人です。私はこんな性格ですから、こんなときしか、こんな形でしか伝えられませんが。もっと適切な言葉を探しておきますから。……だから、まだ離れていかないで下さい」


言葉を捧げた。

 月葉の他に何者にも聞かれたくなくて、月葉にだけは知って欲しい私の気持ち。

 月葉はやっぱり私の気持ちに気づかないだろうけど、いつかもっと大きな言葉にして、私は私のために言葉を伝えたい。


「次はもっと体調をしっかり管理するよ」

「本当はもう行って欲しくないです。でも、こればかりは聞いてもらえないでしょう?」


 月葉の両親だって、同じような気持ちのはずだ。


「朱音は本当になんでも知ってるねー」


 私はいえいえと答える。

 そんなことないもの。月葉のこと、全然知らない。


「あっ、そうです。明日は奈由菜と柚子里も来るって言っていましたよ。柚子里が部活帰りになるので、二人とも遅くはなりますが」

「久し振りだ。楽しみだなー」


 月葉の笑顔を守ることは拘束することでは生み出せない。今の月葉の笑い顔が、それを物語っている。



 月葉は数日後、ようやく退院した。

 月葉は自らの感情を吐き出すのに、三週間近い時間を費やし、そしていつもの生活の取り戻すために、その三週間を含めて、約一ヶ月の期間を要すことになった。

五月撮影旅行編終わりです。

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