各個撃破&方針
戻ったオレに向かって、放心から戻ってきたお姉さんがあれこれ詰め寄る。
それを適当にいなし、ミーネちゃんが心配して待ってるとなかば無理やり台所に送り出した。
二人……行き倒れさんをいれると3人か。3人には安全な所に隠れていてもらおう。
オレが、負ける可能性だって、あるんだから。
まあ、そんな考えたくない不幸な妄想はしない。
妄想は、いつだって楽しくハッピーでないとな!
マップを確認すると、多数の盗賊が家々を荒らしているようだった。
屋外にいる赤い点は、だいたい10人ぐらい。一ヶ所に5,6人が集まり、他は辺りをぱらぱらと見回っている。
戦闘―――獣人側の抵抗は、どうやらもう終了したようだ。
赤い点と一緒に緑の点が多数集まっているのは、きっと盗賊に捕まったってことなんだろう。
捕まったなら生きてるはずだ。最終的には、彼らの解放が目標だな。
「ローラ、どうしたらいいと思う?」
「私の役割は、カードの説明をすることなのですが……」
「全力でサポートしてくれるんだろ?」
オレと一緒にマップを見ていたローラは、小さくためいきをつくと答えた。
「敵はすでに戦闘が終了したと思っているようですね。
ですので、まずは家の中で単独行動している盗賊を各個撃破。
その後は敵部隊をかく乱し、一気に殲滅というところでいかがでしょうか?
ただし予定が変わったり危なくなったら、即座に逃げましょう」
各個撃破で減らす。
残りはまとめてやっつける。
なるほど、実に分かりやすい。
「大したスペルもないし、シンプルなのが一番ってことか」
「そう思います」
よし、それでいこう。
まずはマップを見ながら、見回りに見つからないように他の家を回ろう。
なぁに、見回りは多くないし、こっちにはマップがある。なんてことはないさ!
調子に乗ったオレを裏切るように、家々の解放は順調に進んだ。
倒した盗賊は5名。
助けた獣人は、大人と子供とあわせても4人だけだ。
子供一人くらいなら隠れられても、粗末な家に何人も隠れられる場所はなかったんだろう。
倒れている人などは居なかったのが幸いだ。見つかった人は外の集合場所に連れてかれたんだろうな。
生きてりゃなんとかなる。
なんとかする、助けてみせようじゃないか。
とりあえず、これで各個撃破は終了。
残念ながらレベルは上がらなかったが、それは戦闘後のお楽しみってことでいいだろう。
ポーン3体がやられたが、倒される端から召喚している。動きやすさも考えて、数は今のところ2体をキープだ。
ここからは、外の見回りと集合場所の集団とやりあうことになる。
ぐずぐずしてると仲間がやられた事に気づかれるかもしれない、さっさと次に移ろう。
「ローラって、オレ以外からは見えないんだよな?」
「はい、そうです」
「じゃあ、一人で行って、盗賊倒したり村人助けたりってできる?」
「各個撃破が終わったら、いきなり他力本願になりましたね……」
「やだなぁ、安全で成功率が高い方法を考えただけだし」
もし出来るなら確実だと思うし、使える手はなんでも使うべきだろう。
「この世界の私には、実体もさしたる魔力もありませんので。
何かに触れることも、竜太様から離れて行動することもできません」
「なるほど。あんまり役に立たないわけだな」
「……カードの説明をするのが役割の精霊に、あんまり酷い事言わないで下さいね。
泣いちゃいますから」
「わかったわかった。
まあ通りを覗き込むくらいはできそうだな。頼りにしてるよ」
「はい、できる範囲で頑張りますね!」
やる気なんだか落ち込み気質なんだか、よく分からないやつだなぁ。
でも、今は唯一の味方だし。期待はしないが、頼りにしておこう。
「じゃあ、まずは見回り達を倒すとして。
そいつらと戦ってる最中に、本隊に気づかれるかもしれないよな。そしたら、どうしたらいいと思う?」
「そうですね……
遭遇してしまった場合、正面から戦って人質を取られると困ることになりますね。
いっそ、村の外まで一度逃げてしまいますか?」
「逃げてから、向かってきた奴を各個撃破?」
「はい」
手札を見る。
どう考えても、盗賊をまとめて倒す手段はない。
人質を取られたら……困るなぁ。
「消極的だけど、ばれたらそうするか」
「はい」
よし、次の方針も決定だ。
見回りを倒す。
気づかれなかったら、攪乱して本隊と戦う。
気づかれたら村の外へ逃げてゲリラ戦。
「じゃあ行くぞ。まずはこの敵だ」
「竜太様」
マップを示して家を出ようとするオレに向かって、ローラが真っ直ぐ見つめて告げてくる。
「絶対に、死なないでくださいね?」
「もちろんだ。
まだまだオープニングでチュートリアルだ、こんなとこでやられるわけないさ」
『村人を見捨ててでも』と、聞こえた気がしたが。
その条件は音に聞こえなかったから、聞かなかったことにして答えた。
見捨ててでも―――どうなんだろう。
まだ、オレ自身、よくわからないよ。




