閑話:謝罪
紬と看護師が一緒に遥翔の寝言を聞いていると、ノック音が聞こえた。
紬と看護師は誰だろう?と思い顔を見合わせ、紬が「はい」と答える。
すると、40代の松葉杖の女性が扉を開けた。
私は慌てて扉が閉まらないように手で押さえた。
「ありがとうございます」
「もしかして、長谷川さんでしょうか?」
「はい。奥様がいらしてて、短時間の面会が許可されたと聞いたので、お邪魔と思いましたが、ご挨拶がしたくてきました」
「ご挨拶が遅れ、申し訳ありません。私、佐藤 紬と申します。この度は、私の夫の運転で… 申し訳ありません」
紬は優佳に頭を下げる。
「佐藤さんの運転に過失はありませんわ。私も証言しました」
「でも、奥様は骨折と打撲、旦那様は…」
「巡り合わせが少し悪かっただけです。対向車が心臓発作でハンドルを切らずに突っ込んできたのですもの。どうしようもありませんわ」
「対向車の方は心臓発作だったんですか…」
「あっ、知らなかったのですね」
「すみません。子供が居て、すぐに預けられませんでしたので、詳しくは聞いていません」
「お子さんは翔君でしたよね?」
「はい。ご存知でしたか」
「実は、私と健一の間にも翔という子供が居たのですよ。漢字が同じで読みが違うだけですね」
その時、遥翔が寝ている方から音がしたので、紬が振り返ると窓のカーテンが揺れていた。
「風でカーテンが揺れただけのようですね。お子様のお名前は翔君ですか… 私たちも翔にしようか翔にしようか最後まで迷ったのです」
「そうですの? 私達も翔と翔にしようか最後まで迷ったのですよ」
「翔君にもご挨拶がしたいのですが…」
「翔は小さい頃に亡くなりました」
「すみません」
「昔の話です。気にしないでください。それより、佐藤さんは意識が戻っていないと聞いていますが、いかがですか?」
紬は入口で話していたことに気づき、中に案内する。
そこには、頭と右足は包帯でぐるぐる巻きで点滴や心拍計などが取り付けられた遥翔が寝ている。
「自発呼吸できるようになって、寝言を言うぐらいには回復しているようです」
「寝言?」
「先ほど、『…喰えん、ギブ…』とか寝言を言っていました。お腹が空いたら目を覚ますと思います。食いしん坊ですから」
「私もすぐに目を覚ますと思いますよ。翔君が待っているんですから」
「翔のためにも早く目を覚ましてほしいです」
話が途切れたので、看護師が佐々木さんに話しかける。
「聞き取れた単語は記録しています。サン、ジャバ、アパートメント、ダスト、ショウ、サニーベイル?、しばはまです。これらの単語で何か気づきますか?」
「さぁ、聞き覚えのないものばかりです」
優佳がうつむいているのを、紬が気づき、声をかける。
「どうかなさいましたか? ごかげんが悪くなったのでしょうか?」
「いえ… 大丈夫です」
看護師と紬が顔を見合わせた。
「対面の時間は過ぎていますので、退出しましょう。寝言は録音をしていますので、またお伺いすることになると思います」
「わかりました。よろしくお願いいたします」
3人は病室を後にした。




