帰国後の診察
俺は、改善案を練りながら、帰国の飛行機を過ごした。
帰国後はすぐに病院だ。
翔を義母に預かってもらい、紬と病院に向かう。
里田先生の診察室に案内され、入ると、里田先生と糸井先生が居た。
この人たちはペアなのか?
「飛行機で気分が悪くなったり、変化はありましたか?」
「ないです」
「診察をしますね」
血圧など一通り確認され、包帯を取り替える。
松葉杖はもう必要ないので、返却となった。
「よさそうですね。特に頭はぶつけたりしないように気をつけてください。次はCTです」
俺は看護師さんに案内され、診察室を出てCTを受ける。
戻ってくると、糸井先生と紬が話していた。
「大きな血栓などはなく、問題なさそうです」
「え? CTの結果ですか?」
「はい。CTの結果はリアルタイムで観れますので」
「佐藤さん、旅行、あっお仕事でしたね。 お仕事でアメリカ滞在時に感じたことなどを教えていただけますか?」と糸井先生が言う。
俺は、アメリカ滞在時に見たことがないものを覚えていた内容を話した。
「奥さんから聞いた内容と若干の違いはありますね…」
紬は何を話したんだろう? どこが違うんだ?
「これだけ詳細に覚えているということは、長谷川さんの記憶が…」と里田先生が言いかけたが、糸井先生が遮った。
「里田先生、待ってください」
「…はい」
「私は、佐藤さんが、長谷川さんの記録や話をどこかで聞いて、その内容を自分の記憶と思っている虚偽記憶だと考えます。サンフランシスコのアパートは『住んでいた』とおっしゃいましたが、ご自分ではなく、長谷川さんが住んでいたことをわかっていますよね?」
「はい。道路もアパートも記憶があって、ここに住んでいたという確信はありますが、私はあの場所に行ったことがないことも認識しています。里田先生が言う、長谷川さんの血が私に入ったことで私に記憶が移る?ということではないのですか?」
「血液で記憶が移るなど、考えられません。もし、血液で記憶が移れば輸血は大変なことになります」
そりゃそうか… でも、まだ気になる。
「そうですか… 道路もここを曲がれば何があるとかまで覚えていますが、長谷川さんが俺に話したとしてもそこまで伝わらないと思います」
里田先生は俺の言葉にうなずいている。
「ストリートビューなどで見た内容かもしれません」
確かに、完全に見たことがないとは言い切れないが…
俺にプログラミングなどの技術はないが、できた理由も気になるが、どこかで見たと言われれば反論は難しい。
「では、この長谷川さんの記憶はどうなるのでしょうか? 怪我が治れば、記憶も無くなるのでしょうか?」
「おそらく無くならないでしょう。佐藤さんは、長谷川さんから聞いた記憶として認識されているので、いずれ以前に見た映画と同程度になるでしょう」
隣にいる紬を見ると、何やら考えているようだが、わからん。
ま、実害がないならいいか。
「わかりました」
「里田先生、次回の検診はいつですか?」
「そうですね。3ヶ月後にしましょう」
俺たちは、礼を言って診察室を出た。
「紬、どうした? 調子でも悪いのか?」
「え? いいえ。帰りましょう」
俺たちは家に帰った。
俺は書斎に入り、パソコンを開く。
入院費用など当面の生活は賠償金でなんとかなっているが、建築事務所としてはかなり痛い。
事務所は始めたばかりで、やっと掴んだ顧客も延期をお願いしているから、ほぼ戻ってこないだろう。
でも、裕香の依頼は着手金をもらったから、借金生活は回避できる見込みが立った。
裕香の店の話などが軌道に乗れば、佐藤建築事務所も安泰になれるかもしれない。
それに、長谷川さんの依頼もある見込みだ。
俺は、修正した設計案を孝也さんに送り、詳細の詰めに入る。




