渡米前の診察
昨日は長谷川さんに連絡が取れず、今日聞いたところ、仕事があるので行けないということだった。
俺は一人、病院に向かった。
紬も来ると言ったが、「リハビリを兼ねて電車で行くよ。翔をよろしく」と言って俺は出かける。
だが、家を出て駅まででかなり後悔している。
これは、かなり疲れる。
かなり涼しいはずだが、汗だくだ。
駅での移動も階段ではなく、エスカレータを利用したが、結構怖い。
段差も気になる。
既にある駅をバリアフリーにしたのだろうから、ある程度は仕方がないと思っていたが、体験するとイメージが変わるな。
松葉杖では携帯を見ながらルート確認が面倒だ。
AIグラスが必須じゃないか?
当事者にならないとわからないことが多いな。
俺の建築も考えなきゃいけないな。
病院の待合室で診察まで考え事をしていると、糸井先生が声をかけてきた。
「佐藤さん、どうされました? 気分でも悪いのですか?」
「いえ、考え事を…」
「そうですか… 診察室に来てください」
俺は糸井先生について診察室に入る。
そこには里田先生がいた。
「佐藤さん、診察しますね」と里田先生が言う。
血圧を測り、聴診器が当てられる。
そして、頭の包帯を取り替える。
「佐藤さん、飛行機を利用されるということですが、お仕事で必要ですか?」
「はい。建築を行う場所がアメリカなので、飛行機での移動になります」
「そうですか… カルテを用意します。飛行機の移動ではそのカルテを持参するようにして、もしもの時はそのカルテを渡しください」
「カルテの持参が必要ということは、飛行機での移動は危険なのでしょうか?」
「ま、大丈夫でしょう。保険?いや、お守りと思ってください」
うーん。軽いなぁ。
「佐藤さん、今回の移動で気になったこと、思ったことはすべて記録するようにしてください」と糸井先生が言う。
「どうしてですか?」
「私の研究のためです」
「糸井先生の研究?」
「佐藤さんの事例は面白いので」
「面白いですか… 糸井先生、俺にどうして佐藤さんの記憶があるのでしょうか?」
「気になりますよねぇ。私には仮説があります」と里田先生が言う。
「仮説ですか? どのようなものでしょうか?」
「里田先生、診断できないことを患者に開示するのはどうかと思いますよ。」
自分のことなので、聞いておきたい。
「里田先生、教えてください」
「糸井先生、患者の要望ですからぁ」と言いながら、里田先生はパワーポイントを開き、説明を始める。
里田先生の言う医学的な内容はよくわからない。
「どうです?」
「どうです?と言われましても、難しくてわかりません」
「そうですか…」
「佐藤さん、里田先生の話は忘れてください。日本に戻られましたら、診察いたしますので来てください」
「わかりました」




