挨拶回り
俺が入院したことにより設計をキャンセルされた方にお詫びに行ったり、設計の期限を延ばしてもらった方に感謝を伝えたりした。
相手の方も怒っていなかったのは紬の根回しのおかげだ。
車のドアを開け、松葉杖を車にぶつけないように乗り込む。
運転はまだできないので、運転は紬だ。
「みなさん、怒ってなくてよかったね」
「紬が謝って回ってくれたからだろ? 紬のおかげだよ。翔が小さいのに大変だったろ? これからは俺が頑張るよ」
「翔の面倒はお義母様がみてくださったから楽だったわ」
「母さんは翔の面倒をみる機会が減るから、もう少し入院してればいいのにと言ってたなぁ」
「ふふ。そうね。携帯、鳴ってない?」
携帯を見ると、孝也さんからだった。
「孝也さんだ。電話にでるね」と言い、俺は電話に出る。
「もしもし、佐藤です」
「おっ。遥翔、ナパバレーにいつ来る? 裕香がうるさいんだよ」
「いつって言われても… 相談しないと」
「相談? あっ。お前、結婚したんだったな。それに子供もいるんだって? おめでとう」
「ありがとうございます」
「ナパバレーには奥さんとお子さんも連れて来いよ。すべての費用をこっちが出すぞ。なら、説得は簡単だろ?」
「まだ、翔は小さいからなぁ」
「プライベートジェットだから、問題ない」
「プライベートジェット!?」
「あぁ。裕香がせっかちだから遅いと機嫌が悪くなる。機嫌が悪くなると面倒だからな。わかるだろ? お前も奥さんには気をつけろよ」
スピーカーにしているから、紬も聞いているが、表情を変えずに運転している。
「俺の家は大丈夫だよ」
「そうか。じゃ、来週の月曜でいいか? 5人までならプライベートジェットに乗れるから、招待してもいいぞ」
「来週の月曜?」
孝也さんのことを呼んでいる声が聞こえる…
「裕香が呼んでいるから、またな」と言うと、電話が切れた。
「孝也さんって大変ね」
「結婚相手が裕香だからなぁ」
「ねぇ、遥翔、長谷川さんを招待したいけど、いいかな?」
「長谷川さんを?」
「どうして?」
「まぁね。それより、糸井先生にアメリカに行くって連絡が必要じゃないの?」
「あっ。そうか。そうだね」
俺は、アメリカに行くことを糸井先生にメッセージを送付する。
すると、すぐに携帯の音が鳴ったので電話に出る。
「もしもし」
「糸井です。飛行機は気圧の変化が大きいです。もしもの時のために、現地のサポート体制のチェックが必要です。明日の9時に病院に来ていただけますか?」
紬はちらっとこっちを見て、親指を立てる。
それって、OKってことか?
「9時ですね。わかりました」
電話を切る。
「また病院かぁ。俺って、まだ飛行機も危険なぐらいなのか?」
「海馬の亀裂はおさまっているらしいけど、自然だからねぇ。確かに飛行機は気圧が変化するから辞めた方がいいんじゃない?」
「それは、明日聞けばいいんじゃないか?」
「そうね。それにしても、急に話が進んだわねぇ」
「裕香が絡むと、何故かそうなるんだよ」
「活動的というか、エネルギッシュだね」
「だから、周りが振り回される。俺は穏やかを望むのだがなぁ」
「穏やかを望む人は事務所を開かないわ」
「うーん。裕香のせいで基準がずれたのかもしれないなぁ」
「確かに、裕香さんは周りも変える力がありそうね。そんなことより、長谷川さんに連絡が必要よ」
「そうだな」




