検査
MRIの結果、脳には問題がないことがわかり、リハビリと記憶がどの程度戻っているのかの検査が始まった。
佐藤遥翔としての記憶は戻っていることが確認できた。
これには俺としても異存がない。
問題は、96年当時の長谷川さんの記憶に関してだ。
俺が体験した記憶と言えるぐらい、体が感じた暑さなども覚えている。
長谷川さんは96年当時に記載したという記録と照らし合わせると、記載されていないこともあったそうだ。
俺は、記録を見た記憶がないし、見せてもらっていないので真偽はわからない。
また、SolarisOSの操作など、当時のコンピュータの技術の記憶がある。
検査でわかったことは、俺はPCのタイピングが速くなっており、プログラミングの知識も増えていることがわかった。
96年当時の技術だけじゃなく、現代?に至るまでのかなりのプログラミングの知識まである。
ま、学校でプログラミングの授業があったからある程度知っているのは同然だが、それでは説明できないぐらいの知識量だそうだ。
説明がつかないため、色々質問されることは面倒だ。
俺としては実害がなければ問題ない。
「糸井先生、タイピングが速くなったり、プログラミングの知識が増えているだけで、記憶が減っていないので、問題ないのでは?」
「いえ、この現象が記憶や運動機能に悪影響を与える可能性もあります。事故や頭部外傷をきっかけに、脳の機能変化や潜在能力が引き出され、突如として芸術や数学などの優れた才能が開花する現象は後天性サヴァン症候群の可能性もありますが、今までの報告例とはかなり異なります」
「そうですか… でも、プログラミングの知識やタイピングの能力だけを取り除くなんてできないですよね?」
「できなくはないです。光遺伝学で脳の特定の神経細胞をコントロールする方法が研究されています」
「え? できるのですか?」
「研究段階でマウスに対してですよ。人体には適用できません」
そりゃそうだろう。
「リハビリなどを通して、日常生活に問題がないことが確認できましたら、退院になります。今日から携帯を利用してもいいですよ」
「はい」というと、一緒に話を聞いていた紬が安堵しているのがわかった。
糸井先生は出て行った。
「紬、俺の携帯は?」
紬が携帯を出したが、見覚えのない機体だ。
「あっ。事故で遥翔の携帯は壊れたの。だから、新しいiPhoneなの」
「そっか」
俺は、iPhoneを開いた。
メールをチェックする。
事務所関連のメールを処理しなきゃ…
紬が俺の代わりに事故を説明して、遅延についての対処もしてくれている。
「えっと。ごめんね」と紬が言う。
「え? 何?」
「iPhoneの移行は終了しているでしょ?」
「そう言われれば、そうだね」
「遥翔が意識不明の間、寝言を言っていたの。その時、『ゆう』と『ゆうか』とか言っていたの。で、お義母様に遥翔が『ゆう』と『ゆうか』という単語に心当たりがあるかと聞いたの。すると、幼馴染の裕香さんじゃないか?となったの」
「裕香ねぇ。裕香は暴君だったから、うなされていたのかなぁ」
「でね、iPhoneの移行をして中を見ちゃったの」
「それはいいんだけど…」
俺は、iPhoneで裕香から連絡が来ていないか確かめた。
もし、俺が寝ている間に要望の品を送れと言ってきてて、何も返さないと後がうるさい。
あっ。マズイ… けし餅を送れと言っていて、それに俺が返答しないからブチ切れている。
「どうしたの? 見たらダメだった?」
俺は顔を上げて紬の方を見たら、腕を組んでこっちを見ている裕香と目があった。
「遥翔、起きたらしいわね」
「ゆ、裕香、けし餅のことは5秒前に見たところで、返信できなかったんだよ」
「は? 入院しているあんたにそんな文句を言いにきたわけないでしょ? バカなの?」
裕香の後ろにはお母さんも居た。
連れてきたのはお母さんか…
その後、裕香と紬とお母さんの会話は盛り上がり、俺はポカーンとして見ているだけだ。
すると、看護師さんがやってきて「ここは病室ですよ。お静かに」と注意され、病室から追い出してくれた。
混ぜるな危険だな。




