目覚め(2回目)
俺は公園のベンチに座っている。
ふと、隣を見ると20代の男性が座っている。
なぜか、よく知っている人だとはわかるが、なぜ隣に座っているのかわからない。
「もうそろそろ、戻るべきじゃないかな?」と20代の男性が言う。
戻る?
「あぁ。本来あるべき場所だよ」
本来の場所…
「俺は、アメリカに出向すべきじゃなかった。アメリカに出向しなかったら、翔を失うことはなかったのではないか? と後悔している。もし、翔を失うことが運命であったとしても、そばにいることができたはずだ」
アメリカに行かない選択肢はなかったと言っていいし、今後の会社での立ち位置として、拒否すべきではないとも思っていた。
「その通りだ。だが、そんなことは些細なことなんだよ。重要じゃない。今の君にはわかるだろ?」
もちろんわかる。
わかっているつもりだ。
「まだ、真の意味では理解できていない。俺は30年経ってもまだ後悔している。優佳も後悔している。一生、悔やむだろう」
30年? ふと、隣に座っている男を見ると、50代に老けている。
誰だっけ?
「俺は建築については素人だが、君の『土地に馴染む建築』には可能性があると思う。建築事務所を立ち上げたばかりで意気込んでいるのこともわかる」
『土地に馴染む建築』…
『土地に馴染む建築』そう、俺が目指す建築… それを実現するための事務所。
「それを支えているのは誰だ? 君は誰のために頑張っているんだ?」
支えている…
俺は20代の女性の顔が頭に浮かんだ。
紬…
そして、翔の顔が浮かんだ。
「君と俺は違う。この先、どうなるのかはわからない。だが、君には優先順位を間違って欲しくない。優先順位を間違うな」
優先順位…
「時間だ」
時間?
「君はこんな場所にいてはならない。右に行きなさい」
目の前に別れ道が現れた。
俺が立ち上がって別れ道に近づき、振り返ると50代の男性もベンチもない。
俺は、50代の男性が言った内容が正しいと思える。
「右に行くか…」
俺が、右の道に踏み出すと、左の道が消えた。
右手に感触があり、右手を見ると手を繋いでいる。
俺が手をつないでいるのは紬だ。
紬は抱っこ紐をつけており、翔がいる。
翔は俺に向かって手を伸ばして何か言っている。
俺は左手で翔の手を掴もうと動かすと、少しめまいがして目を閉じた。
目を開けると、眩しい…
誰かが俺を覗き込んでいる?
瞬きを繰り返すと、女性が見えた。
あっ。紬… 紬が泣いている。
「紬? えっ、あっ、紬さん。ごめん」
抱っこ紐の中の翔が何やら訴えかけたいのか、何か言っている。
俺は翔を抱っこしたくて体を起こそうとするが、うまく動かない。
「急に動かないでください」と糸井先生の声がする。
ここは病室?
「落ち着いてください」と糸井先生が紬に向かって言う。
俺は、右手に力を入れて紬の手を握る。
紬は右手を見て、俺の顔を見てやっと落ち着いたようだ。
「診察をするので、廊下でお待ちください」
「はい…」
俺は、診察より紬と話をしたかったが、糸井先生は診察を始めた。




