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閑話:与太話

「実際の写真はちょっと刺激が強いですので、私がまとめたパワーポイントで説明しますね」

 パワポ? 何のプレゼンなの?

 里田先生がパワーポイントを開いた。

 タイトルが拡散性軸索損傷(DAI: Diffuse Axonal Injury)?

 でも、絵は『いらすとや』から取ってきたような子供向けだ。

 文字と絵のギャップがすごい。

 誰向けの説明資料?


「まず、最初は長谷川さんからです。長谷川さんは事故で頭部への強い回転性外力を受けました。このねじれにより、脳の神経線維が広範囲に断裂・損傷を受ける重篤な外傷性脳損傷を受けました。また、頭蓋骨も大きく損傷しており大量の出血が発生しました」

 里田先生は私の方を見た。


「次は佐藤さんについてですが、続けていいですか?」

「はい」


「次に佐藤さんです。佐藤さんは頭蓋骨の損傷だけかと考えられましたが、海馬への損傷があったため、軸索損傷があったと考えられます。そして、右足の怪我ではかなりの出血がありました。そのため、血圧が大幅に低下しました」

 里田先生はひと呼吸あけて、続ける。


「佐藤さんの脳内から摘出した凝固した血液に長谷川さんの血液が含まれていたことから、長谷川さんの血液が佐藤さんの脳に混じりました。通常、血は外に出ることはあっても内部に入ることは稀ですが、佐藤さんの脳の血流が低下したことにより発生したものと考えられます。外部から血が入るほどの出血で血圧が低下した場合、出血死します。しかし長谷川さんの奥さんの応急手当で圧迫止血で失血死を免れました」

 長谷川さんの奥さんがいなかったら、遥翔は…


「長谷川さんの脳から出た血には、高濃度のグルタミン酸、タウタンパク質断片、エクソソーム に含まれる微小RNAや神経ペプチドが含まれていました」

 え? 急に訳分からなくなったのですけど…


「それらが、佐藤さんの開放された血液脳関門から流入しました。佐藤さんの損傷した海馬と内側側頭葉が、興奮毒性で極めて可塑性が高い状態、いわゆる『臨界期』になっていたと考えらえます」

 は?

 「長谷川さんの死の瞬間の脳波パターンと化学物質が重なり、長谷川さんの長期記憶の断片、すなわち特に感情的に強いエピソード記憶である翔(しょう) 君が生きていた時期の記憶が、佐藤さんの記憶回路に『誤ってインデックス』されたと考えます」

 は?


「これが、私が考えるconfabulationが発生した仮説です」

 え? 締めくくったけど… ついていけない…

 confabulationって作り話だったけ?

 遥翔の寝言や今が96年と思い込んでいる? 思い込んでいた?理由がこれ?


「いかがですか?」

 いかがですか?といわれてもなぁ…

 解らなかった部分を捨てて、つなぎ合わせると…

「えっと、長谷川さんの血が遥翔の脳に入って、confabulationが起きたということでしょうか?」

 短か!

 自分の理解力の無さが明確になるわね…


「はい。そうです!」

 私の要約でいいの!?


「はぁ… あの説明で良くわかりましたね。佐藤さん、里田先生の説明は科学的に立証されたものではないですよ。信じないでください」


「糸井先生、外傷性脳損傷の主要メカニズムは研究されています。それにエクソソームを介した神経情報伝達や、近死体験時のガンマ波増強、前頭葉・海馬損傷でのConfabulationと記憶混入について議論されています」

「里田先生、私もそれらの論文は見たことがあります」

 論文はあるんだ…


「議論されている内容だから、与太話ではないですよね?」

「現象を自分の都合の良いように繋ぎ合わせることができるものを集めただけです。与太話の域を超えていません」

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